木村達成と須賀健太がスペインの劇作家・ロルカの名作悲劇に挑む 舞台『血の婚礼』観劇

『血の婚礼』

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2022年9月15日(木)~10月2日(日)Bunkamura シアターコクーンにて、舞台『血の婚礼』が上演される。初日となった9月15日(木)18時半の公演を観劇した。

本作はスペインの劇作家、フェデリコガルシーア・ロルカによる名作悲劇。一人の女をめぐって男二人が命をかけて戦う愛と衝動の物語だ。以下、物語の結末に触れているので、観劇前の方はご注意いただきたい。

ストーリー
舞台は南スペインのアンダルシア地方の村。母親(安蘭けい)と2人暮らしの花婿(須賀健太)は、花嫁(早見あかり)と結婚して幸せな家庭を築くこと決意していた。息子を溺愛する母親は喜びつつも、花嫁がかつて付き合っていたと噂されているレオナルド(木村達成)との関係を気に掛ける。かつて母親の夫と長男は、レオナルドの一族に殺されたからだ。結婚式当日、花嫁の従妹(南沢奈央)と、その夫のレオナルドが花嫁の前に姿を現す。華やかな結婚式が行われるが、その後思いがけない事態が起こる…

四方を壁で囲ったように見立てた舞台上、そこにあるのは椅子が2脚のみ。当時の抑圧された環境に置かれた人たちを想像させる、なんとも圧迫感のある雰囲気で物語はスタート。やがて客席から厳かな雰囲気で、花婿役の須賀健太、母親役の安蘭けいが登場する。

登場するやいなや、かつて夫と長男を殺した者たちへの恨みつらみを猛烈な勢いで話し始める母親。その様子を半ば諦めたように聞き入る花婿に、異様な空気を感じる。そして本題は、花婿の結婚話への進んでいく。

安蘭は、心の病を抱えているのではないかと感じられるほど、ヒステリックな母親を好演。長ぜりふをものともせず、よどみなく話す姿はさすがだ。一方で母親に圧倒されっぱなしの花婿役を演じる須賀は、母親に優しく微笑みながらも目は笑っていない。父親と兄を亡くしてから、恐らく母親の愚痴は何百回、何千回と聞かされてきたのだろう。諦めに似た複雑な表情をしている。

そんな彼が結婚をすることになる。自分を溺愛する母親が気にかかるものの「自分は何としてでも幸せな家庭を築くのだ」と悲壮な決意をしているようだ。

母親に結婚の許可をもらってその場を立ち去る花婿は、四方に囲まれていた壁の一つをぶち破って出かけていく。同様にその後、舞台上に登場するレオナルド役の木村達成、花嫁役の早見あかりも、退場していくときにそれぞれが壁をぶち破り、舞台の向こう側へ消えていく。その演出は、まるでその後に起きる悲劇への扉を開けてしまった瞬間のように思えた。

結婚式で花婿、花嫁、レオナルドの3人が対面した時点から、不穏な空気が流れ始める。口ひげをたくわえた木村はワイルドな印象が強く、花嫁役の早見へ圧の強い態度で接する。そんなレオナルドにイライラしながらも、これから結婚しようとする幸せな雰囲気が、早見が演じる花嫁にはない。すでに既婚者でもあるレオナルドだが、彼らの間には一言では言い尽くせない複雑な事情があったようだ。

結婚式後のパーティーが行われている中、忽然とレオナルドと花嫁が消えてしまった。それを皮肉な笑みを浮かべながら知らせるレオナルドの妻(南沢奈央)、そしてそれを知った花婿の表情の豹変ぶりに背筋が寒くなる。ここで一幕が終わる。

二幕に入ると、四方を囲んでいた壁が取り払われ、舞台一面に砂が敷き詰められていた。角度をつけ高台となっている舞台中央から、逃げてきたレオナルドと花嫁の姿が見えてくる。

手に手を取って逃げてきた二人だから、さぞかし甘い雰囲気が漂っていると思いきや、その予想は裏切られる。敷き詰められた砂の上で、逃げ切れないと悟ったのかお互いに激しく、この後どんな行動をとるべきなのか感情をぶつけ合う。

ここが本作の大きな見どころの一つといえるだろう。ぶつけ合いは言葉の応酬のみならず、激しいダンスパフォーマンスで見せる。その様子を古川麦、HAMA、巌裕美子による生演奏が盛り上げ、私たちは固唾を飲んで見守ることになるのだ。

やがてナイフを手にした花婿が二人に追いつき、レオナルドとの激しい戦いの場面に。殺気を帯びた花婿は、ものすごいスピードで高台から駆け下りてくるのだが、そのインパクトが強烈で、須賀のスケールの大きさを本作で一番感じたシーンとなった。

そのあとは激しく戦う花婿とレオナルド、それを止めようとする花嫁と修羅場になるのだが、二人の男はお互いに傷つけ合い、倒れてしまう。

花婿とレオナルドの死を知らされた村の人たちはショックを受けるのだが、とりわけ花婿の母親の落胆ぶりはすさまじい。泥だらけになった花嫁を見ると、罵詈雑言浴びせる。そしてそれを受け入れながら「私を殺して!」と叫ぶ花嫁。最後の最後で、もう一つの修羅場が展開される。

しかしここで、花婿の母親はふと気づく。このような事態になったのは、自分のせいでもあったのではないかと。確かに花嫁がレオナルドと逃げたと知らされた時、「必ず連れて帰るのよ」と言ったのは自分自身で、何よりも自分の夫や長男を殺したレオナルドの一族への恨みを、花婿に何度も言って聞かせていたことが、花婿の憎悪を倍増させたのかもしれないと。

なんとも壮絶で、肩の力が入ってしまう作品ではあるのだが、観終わったあと、しばらく物語の世界観に浸ることができる作品だと感じた。舞台演出はもちろんのこと、出演者たちの役作りが素晴らしいからだ。

とりわけ2.5次元舞台『ハイキュー!!』で注目された木村と須賀が際立っていた。これまでのイメージを覆す役にチャレンジした二人。新たな代表作が生まれたことは間違いないだろう。

文・咲田真菜

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この記事を書いた人

国家公務員・一般企業勤務を経てフリーランスのライターになる。高校時代に観た映画『コーラスライン』に衝撃を受け、ミュージカルファンとなり、以来30年以上舞台観劇をしている。最近はストレートプレイも積極的に観劇。さらに第一次韓流ブームから、韓流ドラマを好んで視聴。最近のお気に入りはキム・ドンウク。

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