ミュージカル『アニー』公開ゲネプロ(チーム・モップ)、初日公演(チーム・バケツ)観劇レポート

絢田祐生(チーム・モップ)

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2024年4月20日(土)~5月7日(火)新国立劇場 中劇場で丸美屋食品ミュージカル『アニー』が上演中だ。

1986年に日本テレビが主催で上演をスタートして以来、全国で約191万人もの人たちに心温まる深い感動を与え続けている国民的ミュージカルとなった。2017年より山田和也が演出を務め、好評を博している。

2024年に主役のアニーを演じるのは、岡田悠李(チーム・バケツ)と絢田祐生(チーム・モップ)。大人キャストは、アニーの人生を大きく変える大富豪・ウォ―バックス役に藤本隆宏、ウォ―バックスの秘書でアニーを支えるグレース役に笠松はる、アニーをいじめる孤児院の院長・ハニガン役に須藤理彩、ハニガンの弟・ルースター役を財木琢磨、その恋人のリリー役を天翔愛が務める。

初日に先立ち、4月19日に絢田祐生がアニーを演じるチーム・モップによる公開ゲネプロ(通し稽古)が行われた。エンタミーゴではその模様を取材し、翌日行われたチーム・バケツの初日公演を筆者は観客として観劇した。

絢田祐生 

初日前会見で、ウォ―バックス役の藤本が「今年のアニーは歌がすごい」と語っていたように、アニー役・絢田の大人顔負けの迫力の歌唱に、度肝を抜いた。圧倒的な声量が劇場中に響き渡り、観客を一気にアニーの世界へと誘う。その堂々たる姿は、未来のミュージカル俳優としての素質十分で、将来が楽しみになった。そして上背があるからか動きがダイナミックで、これまでのアニーと一味違うように感じた。

岡田悠李 Annie2024(C)NTV

一方、4月20日(土)の昼公演で初日を迎えた岡田悠李がアニーを演じるチーム・バケツ。ゲネプロの興奮冷めやらぬ中、いち観客として観劇したが、『アニー』がWキャストで上演される意味とその醍醐味を改めて感じた。岡田は細かい演技がもはや子役とは思えず、表情の作り方が非常に上手い。歌も絢田とは違う意味で魅力的な声を持ち、一音一音丁寧に歌い上げる姿が印象的だった。藤本が2人を「天才子役」と称した意味がよく分かった。

絢田祐生

ここで簡単に本作のストーリーを紹介しよう。1933年のアメリカ・ニューヨークを舞台に、孤児院で暮らす11歳のアニーは、いつか自分を捨てた両親が迎えに来てくれると信じて、孤児院の院長・ハニガンにいじめられても前向きに明るく暮らしている。この時代のアメリカは、世界大恐慌の直後で失業者が街にあふれる暗い世の中だった。大人たちは希望を持てず、当時の大統領・ルーズベルトへ怒りをぶつけることで、なんとか生きる活力を見出している状況だった。

そんな暗い世の中だけれど、アニーは孤児院で自分より年下の子たちの面倒を見ながら、希望を失わなかった。両親が迎えに来てくれないのなら自分から探しに行くと孤児院を飛び出していくアクティブさがある。保健所につかまりそうな野良犬をとっさに保護してサンディーと名付け、保健所行きを阻止する賢さも持っている。さらには、家を失って路頭に迷う大人たちが、自分たちの不幸を嘆き悲しむ姿を見て、ポジティブな言葉をかける子どもなのだ。大人たちはたちまち、聡明で明るいアニーの魅力のとりこになっていくわけだ。

須藤理彩

しかしアニーの魅力が分からないのが、孤児院の院長、ハニガンだ。アルコール中毒で子どもたちに厳しい労働を課す女性だが、今回演じるのは須藤理彩。須藤は演技力の高さは折り紙付きで、筆者も好きな俳優の一人。個人的に暗い役を演じているのをよく拝見していたので、制作発表記者会見で見せた明るいキャラに驚いていた。そんな明るい須藤が演じるいじわるハニガンは、憎らしいけれど憎み切れないキュートな女性だった。

よく考えてみると、ハニガンも気の毒な人ではある。孤児たちには一向に慕われず、むしろバカにされている。ハニガンの性格を見ていたら仕方がないのだが、須藤はハニガンの意地悪な面だけでなく、女性として満たされた生活ができない悲哀を魅力的に演じた。

ハニガンとは対照的な存在として、ウォ―バックスの秘書・グレースが登場するが、グレースを演じる笠松と須藤のやり取りはクスッと笑える場面が多く、とても楽しい気分になれる。

藤本隆宏

そして忘れてはいけないのが、「ミスター・ウォ―バックス」といわれている藤本の存在だ。6週間の出張から帰ったウォーバックスが初めて登場するシーンでは、まわりの空気を一瞬にして変える重厚な存在感が印象的。そして毎回思うのだが、ビシッと決めたスーツ姿が本当によく似合う。

アニーはそんなウォーバックスに対して怖気づくことはなく、ストレートにぶつかっていく。「孤児といえば男の子だろ!」とグレースに悪態をついていたウォーバックスが、アニーに魅せられるのに時間はかからなかった。

ウォーバックス自身も幼い頃に両親を亡くし、アニー同様に孤児として育った。絶対に大金持ちになるという目標を持って一生懸命生きてきたため、実業家としては成功したものの、一人の人間としては少々ずれているところがある。

(左から)笠松はる、藤本隆宏、絢田祐生

アニーを可愛いと思うけれど、どう接していいのか分からず右往左往するところが面白い。大統領に頼られるぐらいの大物なのに、一人の少女の気持ちをつかむために、秘書のグレースにアドバイスを求めながら必死になる姿が、実に微笑ましいのだ。本作を観れば、なぜ藤本がミスター・ウォーバックスといわれるのか理解できるはず。「ちょっとずれて天然の大富豪」がぴったりハマり、魅力的だ。

そしてそんなウォーバックスを支え続けるグレースを演じる笠松も素晴らしい。有能な秘書としてふるまい、ウォーバックスにしっかり意見をする芯の通った女性だ。凛としたグレースは笠松にぴったりの役で、さらに美しい歌声で観客を魅了する。

(左から)須藤理彩、財木琢磨、天翔愛

ウォーバックスと出会って、追い風が吹いてきたアニーだが、それを阻むのがハニガンをはじめとした、ルースター、リリーの悪役3人組だ。アニーを利用して金儲けを企む3人が意気揚々と歌い踊る「Easy Street」は、筆者が好きな場面の一つ。ルースターを演じる財木が、昨年とは違う歌い方にチャレンジしたため、苦労したと語っていただけあって、なかなか面白いシーンに仕上がっている。財木が演じるルースターは、悪役であることが残念になるほど、華があってカッコいい。リリー役の天翔も初日前会見でこのシーンへの意気込みを語っていたが、小悪魔的な雰囲気を上手く出して好演している。

アニーの未来はどうなるのか? アニーの幸せを願いながら、美しい音楽とともに舞台を見守っていってほしい。そしてさらに言うならば、ウォーバックスと出会って幸せになろうとしているアニーに対し、妬みやひがみを出さない孤児院の子どもたちのピュアな心にも注目してほしい。

本公演は5月7日(火)まで、新国立劇場 中劇場で上演される。

取材・文・撮影:咲田真菜
(チーム・バケツの舞台写真は、オフィシャル提供)

目次

丸美屋食品ミュージカル『アニー』公演概要

日程:2024年4月20日(土)~5月7日(火)
会場:新国立劇場 中劇場
出演:岡田悠李(オカダ ユリ)、絢田祐生(アヤタ ユウキ)、藤本隆宏、須藤理彩、笠松はる、財木琢磨、天翔愛 他
演出:山田和也
夏のツアー公演:呉公演 大阪公演 仙台公演 名古屋公演
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/annie/

東京公演主催/製作:日本テレビ放送網 協賛:丸美屋食品工業

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この記事を書いた人

国家公務員・一般企業勤務を経てフリーランスのライターになる。高校時代に観た映画『コーラスライン』に衝撃を受け、ミュージカルファンとなり、以来30年以上舞台観劇をしている。最近はストレートプレイも積極的に観劇。さらに第一次韓流ブームから、韓流ドラマを好んで視聴。最近のお気に入りはキム・ドンウク。

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