中村倫也が天才作曲家の悲哀を熱演 MUSICAL『ルードヴィヒ~ Beethoven The Piano 』取材会&公開ゲネプロレポート

(左から)河原雅彦、福士誠治、中村倫也、木下晴香

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2022年10月29日(土)東京芸術劇場プレイハウスにて、ミュージカル『ルードヴィヒ~Beethoven the piano ~』が開幕した。

本作は、ミュージカル『SMOKE』や『BLUE RAIN』など、韓国発ミュージカルを手掛ける演出家チュ・ジョンファホ・スヒョンの扇情的で美しい音楽で、誰もが知る作曲家・ベートーベンの生涯を描いていく。出演者は5名のみで、演出家・河原雅彦が7年ぶりに中村倫也とタッグを組み、日本版を初上演する。

主人公のルードヴィヒ役を演じるのは中村倫也、もう一人のルードヴィヒなど、さまざまな役を演じるのが福士誠治、ルードヴィヒにとって大切な存在として描かれる自立した女性・マリー役を木下晴香が演じる。

初日を前に、取材会と公開ゲネプロが開催された。取材会には河原、中村、福士、木下の4名が登壇。

中村倫也

初日を迎えるにあたり、現在の心境を聞かれると中村は「現実感がないですね」と一言。続けて福士も「ないですね」と同意した。そして木下は「初日が明日なんだと思えることが、ありがたいなあと思います」と答える。

本番が迫ってきたということに現実感が感じられないのは、密度の濃い稽古を重ねてきた結果のようだ。木下は「稽古期間があっという間に過ぎてしまった」と言い、中村は「やることがいろいろあったもんね…」としみじみつぶやいた。

中村と福士は初共演。どのように感じたかを問われると「2人とも人見知りをしないんです」と意外な答えが返ってきた。「遠慮することもないし、気を配りすぎることもない。たまに僕がポソッとボケるとすぐにポソッと(中村が)突っ込んでくれるところが好きです!」と福士は笑顔を見せ、良い雰囲気で稽古をしてきたことが伺えた。

福士誠治

主演を務める中村の座長ぶりはどうだったかという質問に、中村は「ここは褒める時間だね(笑)。でも今回座長らしいことをあまりしていない」と謙遜。「みんな真面目で、ほっておいてもやってくれる皆さんだから。自分自身の役がやることが多いので、毎日毎日一生懸命やっていただけですね。まだ誰にもおごっていないし…。そのうちおごれって言われるかな(笑)」と答えた。

木下は「中村さんは、すごく視野の広い方。すごいなと思うことはもちろんですが、それだけで終わらなくて、(見ていると)こっちまで悔しくなってきてしまうんです。ひっぱり上げられている感じがして、それは私にとって新しい感覚でした」と語ると、中村は「いい子でしょ?」と満足げな微笑みを見せていた。

木下晴香

演出の河原に向けて、7年ぶりに中村と仕事をしてみた感想を聞いてみると「このコメント、使います?」と笑いをとったあとに「ぼちぼち長い付き合いになりますが、いい意味で変わらず、とてもリラックスした感じで毎日稽古をしていました。倫也とやると圧倒的にすごいものを作ると決めていて、倫也もそうだと思うから、具体的に話さなくてもそういう意味で今回も良い稽古ができました。この作品は、役者として一皮も二皮も自動的にむけないと、とても千穐楽までいかないと思っています。大変な演目ですが、僕は皆さんを信頼していますし、素敵なものになっていると思います」と語った。

河原雅彦

役に対する思いを問うと、中村は「ベートーベンは、音楽が大好きで、夢を持って夢に破れかけて、でもまた夢を持って波乱に満ちた人生を送った人です。魂を注いでいる人なんだと日々感じながら演じています。そこまでいく情熱は、普段僕が道を歩いている状態ではとても表現できないレベルなので、自分を奮い立たせながら演じ、説得力のあるものにできればと思います」とコメント。

福士は「何も考えてなかった」といいつつも、「ルードヴィヒが歳をとった壮年期を演じていますが、倫也が言ったように、音楽に魂を注いできた人の年輪をどう出すかを稽古中に考えたり、お話したりして、少しでもエネルギーがお客さんに届けばいいなと思っています。ベートーベンの書いた曲を改めて聞いて、音楽の強さも感じているので、それを役にもらっていこうかと思います。魂を持って最後まで演じ切りたいです」と語った。

木下は「福士さんと子役の2人(高畑遼大・大廣アンナ)は、いろいろな役を演じられますが、私はマリ―という女性を演じる中で、登場するたびに身なりが変わったり、彼女が変化せざるを得なかったことを感じつつ、一貫して変わらなかったものを探していた稽古場でした。最初の頃は諦めるということを知らず、光のほうしか見ていない人だと思っていましたが、稽古していく中、河原さんとも話したのですが、諦めない人ではなく諦めたことがあるからこそ、諦めない人になったということが分かりました。これは稽古場で積み上げてきた重みなので、千穐楽までもっと積み上げていきたいです。マリ―の心にはベートーベンの音楽があるということを大切に、フルパワーで頑張っていきたいです」とコメントした。

最後に公演に対する意気込みを改めて聞くと、河原は「韓国のオリジナルのミュージカルですが、オリジナルとは違って配役が変わっています。韓国版と違って今回は劇場も広いので、いろいろな仕掛けもあります。このお芝居はハイライトしかないんですよ。おかしいでしょ? すごくカロリーの高いシーンが続くのでそれも楽しんでほしい」と熱く語った。

福士は「いつもは『気楽に観に来てください』といいますが、今回は覚悟を持って観に来ていただきたいです(笑)。お客さんもきっと頭を使うことになると思うし、疲労困憊するかもしれない。『観るぞ!』という気持ちで劇場にいらしてくださったらうれしいです」とコメントすれば、木下も「魂を込めてお届けしたい」と意気込んだ。

最後に中村は「今回歌う曲が15曲あります。本当に素晴らしくて耳に残る素敵な音楽が多いです。そしてこの作品は良い意味でも悪い意味でも、ちょっと異常な人しか出てこないんです。それを見て面白がっていただいてもいいですし、良い部分は刺激を受けていただければと思います。気がついたらあっという間に舞台が終わっていて、ボーっとした感じで帰宅する…という作品になると思います。『観るぞ!』って思わないと、最初のほうでアワアワしてしまうかもしれないので、少しでも何かをこの作品から浴びてもらえるとうれしいです」と締めた。

ここからはゲネプロの模様をお伝えしよう。本作は約120分(休憩なし)の上演となるが、今回公開されたのは冒頭から100分までとなった。以下、ネタバレとなるところもあるので、まっさらな状態で観劇したい方は注意してほしい。

舞台の中央には盆があり、その上にグランドピアノが設置。頭上にはピアノの鍵盤を模したと思われるオブジェがぶら下っている。それを眺めながら「ベートーベンって超有名だけど、どんな人だったっけ…?」と考えながら開演を待った。

劇場が暗くなり、ピアニスト(木暮真一郎)が舞台上に登場し演奏を始める。そこに修道女(木下晴香)が入ってきて、ピアニストの青年からルードヴィッヒからの最後の手紙を受け取った。死が目前に迫ってきていたルードヴィッヒの手紙を読むところで、物語が進んでいく。

取材会で福士が「観るぞ!という気持ちで観に来てほしい」と言っていた真意が、冒頭の20分ほどで分かった気がした。福士が壮年期のルードヴィッヒを演じていたと思ったら、幼い頃のルードヴィッヒ(高畑遼大)が登場し、その瞬間に福士は、ルードヴィッヒの父親役に変わる。福士の役変わりの目まぐるしいこと! ボーっとしていると「今、どっちだっけ?」という状態に陥ってしまうかもしれない。

そんな難しい役どころを福士は実にナチュラルに演じていた。声色を上手く変えて役になりきる。時にはストーリーテラーの役割も担いつつ、歌もたっぷり歌う。ものすごいエネルギーだ。

(C)MUSICAL「ルードヴィヒ~Beethoven The Piano~」製作委員会/岩田えり

そしていよいよ青年・ルードヴィッヒ(中村倫也)が登場する。幼少期のルードヴィッヒは、父親からモーツァルトと比較されながら虐待とも思える厳しいピアノのレッスンを受けていた。さぞかし根暗な青年になったのではと思いきや、中村が演じるルードヴィッヒに暗さはない。世間に才能を認められ、音楽家として明るい未来が約束されていたからだろうか。

そんなルードヴィッヒに襲いかかるのが耳の異常だ。ライトを中村の耳に効果的に当て「キーーン」というなんともいえない不快な音が劇場に響く。音楽家として致命的な耳の不調に襲われたルードヴィッヒは、苦しみ自暴自棄になっていく。舞台上で苦しみ、のたうち回る中村とともに奏でられるナンバーはとても衝動的で激しい曲だ。観ている側も息が苦しくなってしまう。

(C)MUSICAL「ルードヴィヒ~Beethoven The Piano~」製作委員会/岩田えり

もう生きていても仕方がないとピストルをこめかみに当てたところで、少年・ウォルター(高畑遼大)とマリー(木下晴香)が入ってくる。この2人との出会いが、ルードヴィッヒの人生を変えたといってもいいだろう。ウォルターにピアノを教えてほしいと懇願するマリーの願いをルードヴィッヒは聞き入れなかったが、もう一度やり直したいと自身の運命を受け入れ、再び音楽家として力強く立ち上がる。そこに至るまでの中村の熱演は圧巻だ。

(C)MUSICAL「ルードヴィヒ~Beethoven The Piano~」製作委員会/岩田えり

マリーを演じる木下は、建築家になるという夢に向かって歩む強い女性だ。今でこそ建築家になる女性は珍しくないが、当時は「女のくせに…」と勉強することさえできなかったという。それにも負けず、決して自分の夢を諦めることなくマリーは男性の姿をして世界中を旅する。

(C)MUSICAL「ルードヴィヒ~Beethoven The Piano~」製作委員会/岩田えり

幼い頃にルードヴィッヒのピアノを聞いたことで、勇気づけられたというマリー。その言葉にルードヴィッヒもまた力をもらっていた。15年ぶりに再会したルードヴィッヒとマリーは、楽しく酒を酌み交わすのだが、そこにルードヴィッヒの甥で、養子にしたカール(福士誠治)が現れる。

カールを自分の後継者にすべく、音楽の道へと歩ませようとしているルードヴィッヒ。その昔、マリーからピアノを教えてほしいと頼まれたウォルターが不幸な事故で亡くなってしまったことを悔いていたルードヴィッヒは、カールにその面影を見ていたことをマリーは知る。しかし音楽を憎んでいるカールを見て、その考えは間違っているとルードヴィッヒに進言する。

(C)MUSICAL「ルードヴィヒ~Beethoven The Piano~」製作委員会/岩田えり

カールの「音楽をやめたい!」と訴えを聞こうとしないルードヴィッヒの頑なな態度には、ゾゾっとするものを感じた。自分が果たせなかったものを自分の息子(正確には甥だが)に課してしまうのは、現代でもよくある話だ。親が圧力をかけることが、いかに子どもを追い詰めていくものかということを、中村の強引な態度、福士の繊細な演技でじわじわと感じていく。

(C)MUSICAL「ルードヴィヒ~Beethoven The Piano~」製作委員会/岩田えり

取材会で中村が語っていた「いい意味でも悪い意味でも、異常な人しか出てこない」という言葉が、この作品を上手く表現していると感じた。たくさんの美しいハーモニーを作り出したルードヴィッヒの狂気の部分、そんなルードヴィッヒを育てた父親の凶暴性、逆に育てられたカールのあまりにも繊細な心。こうしたさまざまな人たちの人生の叫びが、美しく壮大なハーモニーとともに劇場に鳴り響く。

ルードヴィッヒ、マリー、カールらがたどり着くところはどこなのか。劇場でラストシーンをしっかりと見届けたいと思った。本公演は、11月13日(日)まで同劇場で上演。その後、大阪、金沢、仙台で公演。

東京公演千穐楽の11月13日(日)13時公演と大千穐楽となる11月30日(水)13時公演は、ライブ配信が予定されている。劇場へ足を運ぶのが困難な方は、ぜひライブ配信で熱い舞台を体感してほしい。

取材・文・撮影(取材会のみ)咲田真菜  舞台写真:オフィシャル提供

MUSICAL『ルードヴィヒ~Beethoven The Piano~』

ORIGINAL PRODUCTION BY ORCHARD MUSICAL COMPANY
MUSIC BY SOO HYUN HUH
BOOK BY JUNG HWA CHOO

【出演】中村倫也/木下晴香/木暮真一郎/高畑遼大・大廣アンナ(Wキャスト)/福士誠治
【上演台本・演出】河原雅彦【訳詞】森雪之丞

<東京公演> 東京芸術劇場プレイハウス10月29日(土)~11月13日(日)
全席指定(パンフレット付き) 14,000円(税込)/全席指定12,000円(税込)

<大阪公演> 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ11月16日(水) ~11月21日(月)
全席指定(パンフレット付き)15,000円(税込)/全席指定13,000円(税込)

<金沢公演> 北國新聞赤羽ホール11月25日(金)18:30開演、11月26日(土)14:00開演
S席9,800円(税込)/A席8,800円(税込)

<仙台公演> 電力ホール11月29日(火)18:30開演、11月30日(水) 13:00開演
全席指定(パンフレット付き)13,000円(税込)/全席指定11,000円(税込) /U-25チケット5,500円(税込)

【主催・お問い合わせ】
<東京公演> 主催:MUSICAL『ルードヴィヒ』製作委員会
お問合せ:公演事務局https://supportform.jp/event (営業時間:平日10:00~17:00)※お問い合わせは24時間承っておりますが、対応は営業時間内とさせていただきます。なお、内容によってはご回答までに少々お時間をいただく場合もございます。予めご了承いただけますようお願い申し上げます。

<大阪公演> 主催:サンライズプロモーション大阪
お問合せ:キョードーインフォメーション:0570-200-888(平日・土曜11:00~18:00)

<金沢公演> 主催:北國芸術振興財団、北陸放送、MUSICAL『ルードヴィヒ』製作委員会
共催:北國新聞社、石川県芸術文化協会
お問合せ:北國芸術振興財団076-260-3555(平日10:00~18:00)

<仙台公演> 主催:仙台放送お問合せ:仙台放送022-268-2174(平日11:00~16:00)

【公式HP】https://musical-ludwig.jp/ 【公式Twitter】mu_Ludwig

【ライブ配信 】
■配信日程
【1】2022 年 11 月 13 日(日) 13:00 回(東京公演 千穐楽公演)
【2】2022 年 11 月 30 日(水) 13:00 回(大千穐楽公演)
※アーカイブ配信はございません。

■チケット発売情報:チケットぴあ
・配信は「PIA LIVE STREAM 」での配信となります。チケット購入、視聴方法については発売ページや下記をご確認ください。
■券種
・視聴券のみ:4,800 円(税込)
・パンフレット付視聴券:7,000 円(税込)
※パンフレット付視聴券は別途配送手数料がかかります。
※視聴券は各配信、それぞれ必要です。

■視聴券 一般発売情報
・視聴券のみ:
10 月 22 日(土) 10:00 ~各回開演 1 時間後まで
・パンフレット付視聴券:
10 月 22 日(土) 10:00 ~各回公演 1 週間前まで(予定)

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この記事を書いた人

国家公務員・一般企業勤務を経てフリーランスのライターになる。高校時代に観た映画『コーラスライン』に衝撃を受け、ミュージカルファンとなり、以来30年以上舞台観劇をしている。最近はストレートプレイも積極的に観劇。さらに第一次韓流ブームから、韓流ドラマを好んで視聴。最近のお気に入りはキム・ドンウク。

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