大鶴義丹、藤田朋子、北野由大、演出:松森望宏が語るハロルド・ピンター『The Birthday Party』【インタビューVol.13】

(左から)松森望宏、北野由大、大鶴義丹、藤田朋子

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2022年12月17日(土)~12月25日(日)新宿シアターモリエールにて、CEDAR×僕たち私たち『The Birthday Party』が上演される。

本公演は、CEDAR×深作組、CEDAR×defiに続き「CEDAR共同企画プロジェクト第3弾」として上演。演出家の松森望宏が主宰する劇団「CEDAR」と俳優・北野由大が主宰する劇団「僕たち私たち」で、英国不条理演劇の大家・ハロルド・ピンターの『The Birthday Party』に挑む。

出演は大鶴義丹、藤田朋子、北野由大、渡邊りょう、松田佳央理、大森博史。演出は松森望宏が手掛ける。

このたび稽古場にて、大鶴(ゴールドバーグ役)、藤田(メグ役)、北野(マッキャン役)、演出の松森各氏にお話を伺うことができた。なぜ今、ハロルド・ピンターの『The Birthday Party』を上演するのか。公演にかける意気込みについて語っていただいた。

目次

ハロルド・ピンターが描く、人間の本質的な心に迫る話を見逃してはいけない

――ハロルド・ピンター『The Birthday Party』を、なぜ今上演しようと思ったのでしょうか?

松森:実は10年前、2012年ロンドン五輪の年にイギリス全土で演劇祭がたくさん行われました。その一つとしてシェフィールドという街で国際演劇祭が開催され、僕たちが日本から唯一参加することになり、三好十郎の『胎内』という作品を出品しました。

他にはアフリカやヨーロッパ各国から参加していて、全部で20公演上演されました。その中でイギリスチームが『The Birthday Party』を上演したんです。

わりと若手の劇団で学生演劇みたいだったのですが、その公演を観たときに、なんだかよく分からないけども不思議な演目だなと感じました。僕は最初よく分からなかったのですが、(北野)由大くんが2回観に行って、非常に面白かったと言っていたんです。そのことがずっと頭に残っていました。

今回、由大くんと一緒に企画をすることになって、あの思い出深い『The Birthday Party』を演ってみようかということになったんです。

不条理劇は、これまで1本だけ上演したことがあるんですが、結構ハードルが高いと思っていました。不条理を上演するにあたっては、時代状況や書かれた当時のことなど、いろいろなことを考えなければできないと思っていたのです。でも今までやってきたものとは違うけれど、頑張ってやってみようかなと思ったことが、今回上演する一番の動機かもしれません。

――この作品のどんなところが、松森さんの頭にずっと残る理由になったんでしょうか?

松森:改めて台本を読んだときに、戦争と絡めている作品だと僕は解釈しました。第一次世界大戦、第二次世界大戦があって、ユダヤ人のホロコースト…600万人大虐殺という出来事がありました。戦争が起きてしまい、自分の力では何にもできないところで世界が動いていく。それに抗おうとするけどできない。それに乗っかっていくしか、自分の生きる道はない…といったものがたくさん書かれている作品だと思うんです。

ハロルド・ピンターは晩年、政治活動家になり、ノーベル文学賞を受賞した時もアメリカ批判をしたり、左翼的な行動に移っていきます。ピンター自身ユダヤ人ですが、戦争当時はイギリスにいたので、ホロコーストを経験したわけではありません。でも自分が体験していないからこそ、自分と同じ民族や仲間たちが、戦禍の中で収容され消えていくという状況を見て、これでいいのかという強い感覚があったと思うんですよ。

この作品を上演しようと考えていた時、ロシアとウクライナの戦争がいきなり始まりました。戦争は遠い世界の話と捉えがちですけど、今はグローバル化してきて、国と国が近くなったことにより危機に脅かされています。僕自身は北海道出身で「ロシアが攻めてくるかもしれない」といわれた時もありました。これはかなり不条理なことだと思うんですよ。

でも「服従することとされること、持つものと持たざるもの」というのは、実は日常生活にゴロゴロ転がっているんですよね。そういうことがたっぷり書かれているのが『The Birthday Party』だと思うので、人間の本質的な心に迫るような話を見逃してはいけないと思いました。

この作品は、海辺にある一軒家の民宿みたいなところが舞台です。その中で起こる小さな事件というのが、状況が分からないまま服従させる、させないみたいな話になっていきます。

その理由は一切観客に示されません。その上で危機的状態が何か分からないけど、でも確実に世の中にはそういうことがたくさんあるということを、ピンターは書きたかったんだろうなと。その感覚がフィットした感じですね。こういう問題提起の仕方は、ある意味すごく心をえぐるな…と感じています。

――今回の公演は、松森さんが主宰している「CEDAR」と北野さんが主宰する「僕たち私たち」のコラボ公演です。お二人は以前からお知り合いだったのでしょうか?

北野:僕が新国立劇場の研修生だった時に、演出助手として松森さんがずっとついてくれていました。

松森:10年以上前になります。今回はCEDAR×深作組『ブリキの太鼓』、CEDAR×演劇ユニットdefi『女中たち』と同様に、シリーズものになっています。

この話をやろうと決めたきっかけは、一つ前の作品『わが友ヒットラー』という三島由紀夫の作品です。その時に北野さんがちょっと手伝ってくれて、稽古場で久しぶりに会ったということもあって「何か面白いことができたらいいね」と言っていた中で決まったという感じですね。

北野:イギリスでこの作品を観た時に、言葉が分からなくてもずっと笑っていたんですよ。いつかやりたいなと思っていたんです。

――ゴールドバーグ役の大鶴さん、メグ役の藤田さんが出演されるきっかけは何でしたか?

松森:この作品を上演しようと思った時、メグというあっけらかんといいますか、すごく平和なにおいが漂っているキャラクターが藤田さんに合っていると感じたので、ぜひご一緒したいと思いました。

大鶴さんはアングラでも活躍され、お芝居もたくさん拝見していました。ゴールドバーグというのは、ものすごく紳士的なんですが、裏の側面というか腹の中で何を考えているか分からない役です。

すごく爽やかな紳士のように見えて、でも絶対に裏に一つもっているものがあるだろうなっていう不思議感みたいなものが、大鶴さんにすごくフィットしていると思い、出演をお願いしました。

撮影:咲田真菜

ハロルド・ピンターの作品はリアリティーの塊

――大鶴さん、藤田さんは、それぞれ演じられる役をどのように捉えていらっしゃいますか?

大鶴:名前を残している作品はちゃんと紐解いていくと、すごくリアリティーがあるんですよね。ピンターの作品は確かに最初に読むと難しい。でも僕は、ここ十何年演じてきたのが、うちの親父(唐十郎さん)の戯曲なんですが、あれもなかなかやっかいですからね。(一同爆笑)

中途半端な作品ほど、難しいと思いながらやっていくと意外に底が浅かったりします。それはただ難しぶってるだけとか、例えば不条理あこがれ、アングラあこがれみたいな…ね。でもハロルド・ピンターような本家本元というのは不思議なもんで、リアリティーの塊ですよ。

――大鶴さんは、わりと楽に役を演じている感じですか?

大鶴:大変ですよ。でも不条理といいますけど、破綻しているストーリーではないんです。全部リアリティーの積み重ねですから。僕の役だけをピックアップしてみても、すごくリアリティーがある。たぶんいろいろな人と混じり合うことで、複雑になっていくんですが、演じる側は極端なことをいうと、自分の理解だけを深めればいいわけですからね。演出家じゃないから。

あくまでも僕のやり方ですが、役者はそんなに全部を見なくてもいいかなって思っているんです。もちろん見ているところもありますよ! でも全部はね~。(一同爆笑)

藤田:こういう言い方が、義丹さんのいいところがでてるでしょう? ちゃんと丁寧に話して、誤解がないように言おうと思っているのが分かるのよねー!(笑)

――(笑)藤田さんはいかがですか?

藤田:同じですね! 毎日毎日役について掘り下げています。最初に読んだ時は「一筋縄ではいかないな」と思いましたけど、初演というわけではないので、何かしら糸口を見つけられるだろうし、できないわけはないなという想いがありました。どうやってみんなでこの作品をお料理するのかなという楽しみをもって、困難の中に飛び込んだって感じですね。

だけど今現在は、泳ぎでいうと苦しくはなく、きちんと息もできているんですよ。背泳ぎになるかなと思ったけど、意外と平泳ぎのようにとてものんびりとした感じで。「あ! 結構息継ぎ楽だから、遠泳できるかもー」みたいな(笑)。

大鶴:ちょっと口挟んじゃうけど、実はピンターの作品って、せりふが覚えやすいんですよ。量はあるけれど、すごく覚えやすい。

藤田:字面で読むよりも、声に出して立ち上がってすることで、何か腑に落ちてくるものもいっぱいあります。その間をみんなで話しながら埋めていってるので、大変ですが、迷うことなく歩を進められているし、宙ぶらりんになっている部分が少ない分、きちんと前に進んでいるんですよ。

――北野さんは今回、大鶴さんの役と絡んでいきますが、いかがですか?

北野:僕は作品については難しいと思っていないんです。余白がいっぱいある作品なので難しく感じるんですけど、すごくシンプルなことを言っているし分かりやすいと思います。いろいろな味を出せるので水みたいだなと。いろいろな料理に使えるから、どうやって料理をしていいか分からないって思うと難しく感じてしまうのかもしれませんね(笑)。

撮影:咲田真菜

お互いの意見が交換できるフラットな現場「とても居心地がいい」

――お話を伺っていると、稽古場の雰囲気がとても良さそうですね。やはり料理の仕方を上手く導いているのは、演出家の松森さんの力量でしょうか?

松森:いえいえ! 皆さんの力があってこそです!

大鶴:どういう精神状態で作品を紐解いていくかというのは、演出家のプロデュース力だと思いますね。

藤田:現場によっては、年長者が何か言うと忖度して進んでいくことがあります。でも今回の現場はそういう関係性ではなくて、みんなが平らなところにきちんと立って、お互いの意見が交換できるとてもフラットな現場なんです。私はこの現場では年長ですが、そういうところがすごく居心地がいいですね。

皆さんがそれぞれの考えを受け入れて、考えを戦わせた上できちんと答えを出していく。それを松森さんがきちんとまとめてくださるんです。

あとは各々考えてきているものがあるから、それについて耳を傾ける余裕がみんなにあるんです。すごくそれが楽しいんですよね。

――稽古の前に、皆さんで作品の解釈についてディスカッションされるんですよね。

松森:僕が演出する作品では、立ち稽古がわりと少ないんです。皆さん、それぞれ準備をして稽古場に来ていますが「このせりふってどうなの?」とか「確かに分からないよね」ということを、みんなで話し合うことでクリアになっていくじゃないですか。そうなってくると、どんどん立ち稽古したくなるという熱気が生まれてきます。でもそれでもやらないんです。

作品の解釈はもちろんですが、相手とのやり取りが僕は重要だと思っていて、相手役とどういう感情のやり取りをするかというところまで確認して、ようやく立ち稽古をするんです。そこまでくると完成しているから早いんですよ。

心が通じているということが、芝居には一番大事な要素だと僕は信じています。今日も稽古が始まる時には、みんなで着席して、おととい作ったシーンを再びみんなで冷静に話してみて、どう感じるか…というところからスタートしました。これは自分の中でも決めていますし、今回の座組全体のルールとしてやっています。

2022年はピンター作品がブーム! ぜひ劇場でエンターテインメント性を体感してほしい

――観にいらっしゃる方に、ご自身の役に絡めて「ここを見てほしい」というところをお聞かせいただけますか?

藤田:とりあえずちょいちょい笑えるので、ちょいちょい笑ってほしいなと思います。遠慮しないで口火を切ってクスッとでもいいので。

特に物語の冒頭は、話が展開する前なので、田舎ののんびりした夫婦が日常を謳歌している感じや、どこかの家庭にあるんじゃないかな…というところから始まります。「笑っちゃいけない」と思わないで、心をリラックスして観ていただきたいですね。そこそこ怖いところはのちのち出てきますから、笑えるところでは大いに笑ってもらえたらなと。

大鶴:謎、恐怖、暴力、愛憎、この4つがものすごいスピードで渦巻いて、ある結末に向かっていくわけですよね。とにかくエンターテインメント性がすごくある作品だということを強調したいですね。

北野:登場する人がみんな孤独な人たちなんですよ。不条理劇なので、音声のない『ごっつええ感じ』を見ている感じかもしれません。笑いがある分、追い詰められた時に、そのギャップで怖くなるんですよね。笑いと恐怖のギャップを感じてほしいです。

松森:この作品は、作者であるハロルド・ピンターの心の内面だと思うんですよ。ピンターの世界観なんですね。特殊なことが起きていきますが、そこで起きている感情の爆発は、いろいろな人がどのように見ても分かるものだと思います。

ぜひ芝居に没頭してほしいんですが、観たあとに「この恐怖は何だ」とか「この笑いは何だ」というように、自分に心当たりがあるかもしれないと考えることができる、すごい作品だと思っています。難しくはなく、そのままの感じで観に来ていただければ、いろいろなものを感じ取れる作品になると思います。

――観にいらっしゃる方々にメッセージをお願いします。

大鶴:謎と恐怖と暴力と愛憎が織りなす万華鏡みたいな世界ですから、絶対に楽しいと思います。

藤田:翻訳劇だと思わないで、自分の身近にある人たちの話だと思って気楽に観に来ていただけたらいいなと思います。

北野:ただあるがままの状態で、何もない状態で没頭しに来てください。余白の状態でくれば、それぞれ刺さる部分がいっぱいあると思います。

大鶴:個人的には、世の中って流行りものに弱いから、今年はピンターがブームだと僕は思っているので、ぜひそのあたりは書いていただきたいです!(一同爆笑)。

藤田:本当に今までのピンター作品を観てきた人が、ちょっと新しいものを観たなと思えるものを、今作っているので、ぜひそこは楽しみにしてもらいたいですね。今まで観てきたテイストと違う何かを感じて帰っていただけると思っています。

松森:とても稽古が楽しくて、密度が濃いんですよ。舞台上から出る空気感で、その場にいる人たちがきちんと生きていると感じられる作品だと思います。すでにそうなっていますので、皆さんがおっしゃるとおり、観に来ていただくと楽しい時間が過ごせるのではないかと思います。

撮影:咲田真菜

取材・文・撮影:咲田真菜 
取材・編集:彩川結稀

  • CEDAR×僕たち私たち『The Birthday Party』

公演期間:2022年12月17日 (土) ~2022年12月25日 (日)
会場:新宿シアターモリエール
取扱チケット:一般 土日:6500円 平日:6000円(12/19-23) U25:3800円(全席指定・税込)
※未就学児の入場不可

作:ハロルド・ピンター
翻訳:平田綾子
演出:松森望宏
出演:大鶴義丹 藤田朋子 北野由大 渡邊りょう 松田佳央理 大森博史
企画:CEDAR×僕たち私たち
主催:演劇ユニット僕たち私たち

■公式サイト:https://www.cedar-produce.com/

【CEDAR】
CEDARは2017年に結成された演出家・松森望宏、俳優・桧山征翔、演出家・石川大輔の演劇ユニット。世界中に数多くありなかなか上演されない優れた名戯曲にスポットをあて、劇作家が綴る人間の苦悩や葛藤や愛情を丁寧に舞台上に表現し、人間の複雑さや滑稽さや神秘を一緒に体験しあえる集団という理念のもと活動。より硬派に「なぜ生きるのか」をテーマに日常生活をより善く生きることを目標に演劇活動を続けている。

CEDARは2021年vol.8『群盗』において、舞台美術に与えられる賞伊藤熹朔記念賞・新人賞を受賞、さらにはvol.9『わが友ヒットラー』が2022年読売演劇大賞・上半期作品賞ベスト5に選出された。松森個人としては、2012年英国シェフィールドの国際演劇祭において、三好十郎の『胎内』で最優秀演出家賞を受賞している。

【僕たち私たち】

2012年に結成され英国での国際演劇祭、上演を目的とした団体であった。
新国立劇場で3年間の養成期間を修了した北野由大、今井聡からなる団体であり、新作や古典、現代といった年代は問わず作品を通して人間の滑稽さや弱さ、矛盾、普遍的真理、 不条理性を通した笑いを表現していきたい。もちろんエンターテイメント性は追求していくが、 表現を通して本来の自分に戻り「今」にあり続け、そして真善美を追求していきたい。英国シェフィールド公演では演出、松森望宏のもと三好十郎の「胎内」を上演し最優秀演出家賞、俳優賞、音響賞を受賞している。

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この記事を書いた人

国家公務員・一般企業勤務を経てフリーランスのライターになる。高校時代に観た映画『コーラスライン』に衝撃を受け、ミュージカルファンとなり、以来30年以上舞台観劇をしている。最近はストレートプレイも積極的に観劇。さらに第一次韓流ブームから、韓流ドラマを好んで視聴。最近のお気に入りはキム・ドンウク。

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