和田琢磨インタビュー「瞬き、息遣いが伝わる空間で演劇を楽しんでほしい」CEDAR Produce vol.10『逃亡』【インタビューVol.16】

和田琢磨(撮影:田中館裕介)

Google

2023年7月26日(水)~7月30日(日)OFF・OFFシアター(下北沢)にて、CEDAR Produce vol.10『逃亡』が上演される。

華人で史上初めて2000年にノーベル文学賞を受賞した作家・高行健(ガオ・シンジェン)の代表作『逃亡』が原作となる本作は、とある共産国家でデモから必死に逃げる青年(桧山征翔)と娘(希代彩)、そして自称作家の中年(和田琢磨)が、死に直面しながら生きている実感とは何かをひたすら考えて求め続けていく姿を描く。

このたび中年を演じる和田琢磨さんにお話を伺うことができた。稽古が始まって間もない中、稽古場で役作りに奮闘していることや第30回読売演劇大賞作品賞上半期ベスト5に選出された注目の演劇ユニット・CEDARに初参加する意気込みについて語ってくださった。

和田琢磨(撮影:田中館裕介)

小劇場で演じることへのチャレンジ

――本作に出演が決まった時の気持ちをお聞かせください。

和田琢磨(以下、和田):中国の戯曲でしかも3人という少数の密室劇ということで、これまでやったことがないことにチャレンジしてみたいという気持ちがありました。少人数のお芝居は何度かやったことがありますが、3人というのは恐らく一番少ないので…。

(演出の)松森さんは、本広克行さん演出の舞台『PSYCHO‐PASS サイコパス』で演出補をされていて、ご一緒しました。その頃からすごく演劇に対して情熱的で真摯に取り組まれてる方だという印象がありました。

松森さんが中心となって活動しているユニット・CEDARに参加できることは、私にとっても良い学びになると思って出演を決めました。

――今回の作品は、かなり小さい劇場で上演されますね。

和田:79席ぐらいですね。

――今までこれだけ小さい劇場に出演されたことはありますか?

和田:シアター風姿花伝は100席ぐらいなので、おそらく僕の人生の中では、一番小さい劇場で演じることになると思います。

――下北沢という演劇の街で上演することも大きな意味があると思いますが、下北沢で出演されたことは…?

和田:本多劇場に出演したことがあります。大きな劇場ですが…(笑)。そのときはミュージカル『テニスの王子様』の公演が終わってすぐだったので「お前なんでそっち行くねん!」とツッコまれました。

2. 5次元作品と言われている作品に多く出演していますが、僕の中では全部が演劇だと思って活動してます。「こっちに出演したから次はこっち」みたいな感覚なので、幅広いジャンルに出演している印象を持っていただいているのかもしれません。

――今回の役柄が、自称・作家で役名が「中年」です。役名が「中年」でいいんですよね?

和田:そうです。他2人の役名も「娘」「青年」です。お互いを名前で呼び合うことがないですね。

――現在本読みの段階で、少しずつ立ち稽古が始まろうとしている中、役作りをしている最中だと演出の松森さんから伺いました。今の時点でどのように考えていらっしゃいますか?

和田:この作品は、中国で起きた天安門事件の話をモチーフにしています。僕の勝手な想像ですが、原作の高行健(ガオ・シンジェン)さんがおそらく自分の姿を重ねて中年の役を描いたと思うんです。だから3人の中ではわりとヒントが多い役かなと思っています。もちろん僕の中でこのような体験をしたことはありませんから、想像と資料で補っていかなければならないのですが。

難解なせりふが多いので、毎日みんなで「これはどういう意味だ」というように、話し合いながら稽古してます。

和田琢磨(撮影:田中館裕介)

――台本を拝見しましたが、中年は卑屈というか鬱々としたものを抱えてるような人物だと感じました。

和田:そうですね。

――和田さんはすごく明るいイメージがあるので、中年は真逆のキャラクターだなと感じました。演じるのが大変じゃないかなと思っていますが、いかがでしょうか?

和田:僕は日常生活の怒りを演劇にぶつけて発散しているので…。普段ヘラヘラしていますけど(笑)、暗い部分は持っているので、中年の気持ちは理解できます。

ただ学生運動やデモに参加した経験はないし、政治に対して真剣に仲間と議論を交わし、向き合い、時には暴力を用いて何か変えようとした経験もないので、想像に頼るしかないんですけれども…。幸い同じアジア人ですし隣の国ですから、通ずるところがあるんじゃないかなと思って、日々台本を読み込んでいます。

――日頃の鬱憤を演劇にぶつけるとおっしゃいましたが、どんな鬱憤があるんですか?

和田:20代のときって一生懸命働いてお金がないのに何とか生活していましたが、30代になると少し余裕ができるじゃないですか。ようやく自分のためにお金や時間が使えると思ったら、親が病気になるなどの問題が出てきますよね。そうした誰にもぶつけられない感情を演劇にぶつけています。

でも演劇はネガティブをポジティブに変換できるし、言葉を選ばずに言ってしまえば演劇ってネガティブな感情ですらネタにできますからね。「これ、芝居にしちゃえ!!」みたいな。そういう意味で日々楽しくやってます。

和田琢磨(撮影:田中館裕介)

共演の桧山征翔と希代彩の印象は?

――今回は出演者が3人だけということで、先ほどこれまでのキャリアで一番少ない人数で芝居をするのでは…とおっしゃっていましたが、青年を演じる桧山征翔さんと娘を演じる希代彩さんの印象はいかがですか?

和田:2人とも20代ですが、自分が20代のときに一つの作品や一つのせりふに対して、こんなに一生懸命時間を使って、バックグラウンドまで深堀して向き合っていたかというと自信がないですね。だから2人のことをすごいと思うし、20代で松森さんという素敵な演出家さんとご一緒できてうらやましいなと思います。

僕は舞台出演がミュージカル『テニスの王子様』からなので、2.5次元作品へ出演が多く、一つの役を掘り下げる時間があまり取れないものが多かったんです。30代になって、丁寧に一つひとつの役を演じていきたいと常々思ってるので、2人のことをすごく尊敬して日々稽古をしています。

――和田さんはお二人に比べてキャリアが長いわけですから、演技のアドバイスをしたりするんですか?

和田:聞かれたら多少は答えますけど…。実は僕、高田純次さんが好きで、テレビ番組で高田さんが年を取ったらやっちゃいけないこととして「説教」「自慢話」「昔話」とおっしゃっていたんです。これが素敵だなと思っていて…。聞かれたら何でも答えますけど、聞かれない限りは余計な口出しはしませんね。

和田琢磨(撮影:田中館裕介)

舞台『サイコパス』で松森望宏からもらったアドバイスとは?

――松森さんはどういう演出家ですか?

和田:演出家としては、今回初めて松森さんとご一緒しますが、サイコパスでご一緒したとき、僕が演じるキャラクターの全体像について悩んでいたんです。そのときに松森さんが休憩中にアドバイスをくださったんですよ。

自分が役に対して捉えていたことと真逆なアドバイスで「こっち側の面もあるんじゃないですか」って。その時にせき止められていた水がパッと開いたような感じがして、気持ちが1本通ったような気がしました。

松森さんは、登場人物の気持ちや根底にあるものを丁寧に見られる方だし、そういうことがすごくお上手なんだろうなと思っています。「ここにいる理由」とか「言葉を発する意味」を丁寧に作られる人だという印象ですね。

――今回も役作りをする上で、松森さんの一言が突破口になったりしていますか?

和田:今回は松森さんもまだわかってないところがいっぱいあります(笑)。それぐらい難解ですね。もちろん誰よりも台本を読み込んでらっしゃると思いますけれども…。

松森さんは結構役者に役作りを委ねてくださるんです。「これはどういう気持ちですか」「どう思いますか」って。

もちろん彼のビジョンもあるでしょうけれども、私たち演者に託してくださる部分があってとても楽しい稽古をしてます。

――3人のみで作り上げていく舞台ということで、楽しさと難しさ、両方教えてください。

和田: 3人がほぼ出ずっぱりなので、1人1人がしっかりブロックを置いていかないと話が積み上がっていかないので、そういう緊張感や責任感は演じていて楽しいです。相手にパスを出す、きっちり受けるという芝居としての楽しさはあります。

僕は、大きい作品を除けば翻訳劇のこのような会話劇に出演するのが2回目なんです。普段使わない単語や「今の時代、こんな喋り方しないでしょう」というせりふが出てきます。それをお客様にどう伝えればいいのか考えなければいけないところがこの作品にはあるので難しいですね。

――今回の作品で、お客さんに伝わるか伝わらないか悩むというのは分かる気がします。

和田:途中、ポエムのようなせりふもありますしね。そこに至るまでの理由づけや、3人の中の誰に向けてのせりふなのか、抽象的なところがあるので、そういうところがすごく難しいです。

和田琢磨が逃亡したいと思う瞬間は?

――個人的には、序盤に出てくる中年のせりふ「人生は逃亡だ」というのが印象的でした。このせりふに対して共感できるか、そして自身が演じる中年という役に共感できるところはありますか?

和田:「集団意思決定からの逃げだ」というせりふが途中であるんですけど、僕もあまり団体行動は得意ではなく、自由気ままに生きてきたタイプなので、そういうところは中年と似ていると思いますし、共感できます。

「逃亡」は今回のタイトルですし「逃亡」という単語だけ聞くとネガティブな印象を持たれるんですが、逃げた先に救いがあると思って逃げるという心情でもあるんです。

決してネガティブなワードではなく、見る人によっては、この場から逃げたというだけでなくもっといいところへ足を踏み出したという捉え方ができるので、ダブルミーニングがあって面白いと思います。

――ちなみに和田さんが逃亡したい時は、どんな時ですか?

和田:稽古開始時間ギリギリに起きたときは、逃亡したくなりますね(一同笑い)。起きてギリギリ間に合うか間に合わないかみたいなとき、完全に間に合わなければ諦めがつくんですが、無理やり出かけたら間に合うんじゃないか…というときは逃亡したくなります。

あとは今回のようにせりふが多い役をいただいたとき、家でせりふを覚えようとすると誘惑がいっぱいあるので、家から逃亡して公園へ行ったり、近所を徘徊したりしてます。でも夜は暗いから台本が読めないんです…。だから「わーーー!」ってなりますね(笑)。

――ファンに向けて、公演の意気込みとメッセージをお願いします。

和田:僕の演劇人生の中で一番客席数が少ない劇場での芝居となります。瞬き、息遣い、そういったものが、伝わる空間です。そして1時間半、息つく暇もなくスリリングに物語が進んでいきます。

密閉された空間での会話劇なので、お客様も密閉された中での緊張感みたいなものを持っていただけるような空気感を作っていきたいと思います。

決してゲラゲラ笑うようなお話ではないですが、1980年代の中国にこういう人たちがいたんだな、こういう考え方を持っていた若者がいたんだなという歴史を勉強するきっかけになれば、ものの見方が変わってくると思います。

――最後に今後の目標をお聞かせください。

和田:常々NHK大河ドラマには挑戦したいと思っていますが、松森さんのように演出補としてご一緒してきた若い演出家の方々が活躍されているのをみていると、そういう方々と演劇作りを一緒にしたいと今回CEDARの作品に参加して思うようになりました。

2.5次元作品も楽しくて学びがいっぱいあるんですが、今後もいいバランスで新しいことに挑戦していけたらいいなと思ってます。

取材・文:咲田真菜
撮影:田中館裕介

和田琢磨(撮影:田中館裕介)

CEDAR Produce vol.10『逃亡』

作:高行健 (ガオ・シンジェン Gao Xingjian)
翻訳:瀬戸宏

演出:松森望宏
出演:和田琢磨 希代彩 桧山征翔

公演期間:2023年7月26日(水)~30日(日)
会場:OFF・OFFシアター(下北沢) 東京都世田谷区北沢2-11-8 TAROビル3F

上演予定時間:約90分
タイムテーブル:
2023年
7月26日(水)19:00
7月27日(木)14:00/19:00
7月28日(金)14:00/19:00
7月29日(土)13:00/18:00
7月30日(日)13:00

※開場は開演の20分前となります。 ※未就学児入場不可 ※チケットは、お一人様一枚必要です。
チケット料金:S席 8,500円 ※前方3列 特典付き/稽古場写真セット(公演毎に回替わり/2枚組)

A席 5,500円

【一般発売】
先着販売(S席・A席)
お申込み期間 6月24日(土)10:00~ 各公演前日21:00まで
※入金は23:59まで
カンフェティ http://confetti-web.com/toubou

アフタートーク:

7月27日(木)19:00 
舞台『逃亡』の背景 瀬戸宏(翻訳家・摂南大学名誉教授)×松森望宏(演出家)

7月28日(金)14:00 
CEDARの演劇 谷佳樹(俳優)×桧山征翔(俳優)

7月28日(金)19:00 
出演者によるクロストーク 和田琢磨×希代彩×桧山征翔 MC桧山

7月29日(土)18:00 
出演者によるクロストーク 和田琢磨×希代彩×桧山征翔 MC桧山

7月30日(日)13:00 
革命 堤幸彦(映画監督・演出家)×松森望宏(演出家)

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

国家公務員・一般企業勤務を経てフリーランスのライターになる。高校時代に観た映画『コーラスライン』に衝撃を受け、ミュージカルファンとなり、以来30年以上舞台観劇をしている。最近はストレートプレイも積極的に観劇。さらに第一次韓流ブームから、韓流ドラマを好んで視聴。最近のお気に入りはキム・ドンウク。