2022年8月15日(月)~8月28日(日)に東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)にて上演された『シュレック・ザ・ミュージカル』(以下、シュレック)。(一部休演あり)
ドリームワークスが制作したアドベンチャーコメディ映画をもとに2008年にブロードウェイでミュージカル化され、好評を博した作品の日本初上演となった。
新型コロナウイルスの関係で、公演途中で休演を余儀なくされたが、全9公演を上演。子どもだけでなく大人も夢中になる魅力がつまった作品として話題をさらった。
このたび本作でドラゴン役を演じ、見事な歌声で会場を魅了したミュージカル俳優の須藤 香菜さんにインタビューを行った。
オールオーディションでキャストが決定した『シュレック』について、そしてミュージカル俳優を目指したきっかけや、今後の夢について語ってくださった。
オールオーディションで集ったキャストの中で演じる幸せ
――『シュレック』を拝見しました。とても素晴らしかったです。途中休演もあり大変な公演だったと思いますが、振り返ってみていかがでしたか?
最高でしたね。もちろんいろいろ大変なことはありましたが、オールキャストオーディションで選ばれた人たちの中、皆さん努力家で尊敬できる人ばかりでしたから、メンバーの一人として一緒に作品を作れたのは、本当にラッキーだったなと思います。
――オールオーディションということですが、どのようなオーディションが行われましたか?
オーディション開催の情報をSNSで見つけました。ちょうど日程的に空いている時期で、海外の舞台映像を観たらとても面白そうだったので、ぜひ受けてみたいと思い、チャレンジしました。
1次審査は、女性はみんなフィオナの「モーニング・パーソン」を40秒ぐらいの動画にして送るというものでした。1次審査を通過後、私は自分に合いそうかなと思ったジンジャーブレッドマン役を希望してオーディションに臨みました。
――その結果、ドラゴン役に決まったということなんですね。
オーディションの時に、その場で他の役の歌も見たいというお話があって、ドラゴンの歌を歌ってくださいといわれました。でもドラゴンの歌は、その日に初めて譜面を見ましたから、冒頭とサビの部分を15秒ぐらいで、「間違えてもいいから思い切りやって」と言われました。全然分からなかったのですが、曲が求めているノリとか、こぶしをきかせるとかを見せられたらいいのかなと。まさかドラゴン役に決まるとは!!という感じでしたね。6月に出ていた舞台がやはりパワフルな歌唱を求められる役だったので、その時の経験が活きたのかなと思いました。
――実際の舞台では、ドラゴンが歌うシーンで、須藤さんは黒子の姿で歌われました。顔が見えなくて残念な感じもしましたが、その分歌声に圧倒されました。
海外で上演されている『シュレック』を見るといろいろな演出があるんです。ドラゴンのシーンで多いのは、影で歌うパターン。私も「ドラゴン役は顔が出ないと思います」と言われていたので、舞台袖で歌うんだろうなと思っていたんです。
――ものすごいインパクトがあり、私も知人と「あの人は誰だ!」となりました。
ありがとうございます(笑)。Twitterとかでも「ドラゴンを演じていたのは誰だ?」と言ってくださる方がいらっしゃったりして…。
――『シュレック』は、子ども向けの作品だと思っていましたが、実際に観てみると大人もハマってしまう魅力がありました。
稽古をしていても、子ども向けの作品として作っている印象はあまり感じませんでした。演出家の岸本さんの狙いはいろいろあったとは思いますが、開演してみて「こういうところが子どもにウケるんだな」と改めて実感しました。
――残念なことにカンパニーに新型コロナ陽性者が出たため休演することになり、最終的にシュレック役のspiさんの代役を、オオカミを演じていた鎌田誠樹さんが務めることになりました。
18公演行う予定でしたが、実際は半分の9公演になってしまいました。このまま公演できないのかもしれないと思うと怖かったですね。
シュレックの代役を務めたカマ(鎌田さん)は、実は東宝ミュージカルアカデミーで同期なんです。アカデミーを卒業してからはミュージカルで共演がなくて、今回初共演だったんです。「うわっ!カマがシュレックをやるんだ!」という感じでしたが、見事に務めていましたね。
spiさんとはまた違った魅力があるシュレックになっていましたし、同じ役でも一緒に演じていて全然違ったので新鮮でした。
――今回は「トライアウト公演」ということでしたが、また上演する予定はあるのでしょうか?
今回の公演は、トライアウトということで短いバージョンで、本公演よりも30分ぐらい短縮されていました。曲数も少なくなっていましたから、やはり本公演の形で上演したいという想いがあった上でのトライアウト公演だったと聞いています。
東宝ミュージカルアカデミーで味わった挫折が力の源に
――須藤さんがミュージカルに出会ったのはいつですか?
中学・高校とミュージカルの部活に入っていて、そこでミュージカルにハマりました。ミッション系の学校に通っていたので、日曜日は教会へ行っていたんです。同じ教会にいた学校の先輩がミュージカルの部活に入っている人で「入らない?」と勧誘されました。それまで特にミュージカル好きだったとかではないのですが、歌は好きだしいいかな…と気軽な感じで入部しました。高校卒業後、早稲田大学へ進学し、オムニバスというミュージカルサークルに入りました。
――早稲田のオムニバスではどんな活動をされていたのですか?
基本的に夏公演、冬公演と年に2回の公演があり、それに加えて空いている時期にサークルのメンバーが何かを企画すれば、企画公演として上演をしていました。
練習は週に3日ほどで、授業に出る暇がないというわけではなかったのですが、外部の舞台にも出演したりしていたので大学時代は舞台ばかりやっていたという印象がありますね。
――大学を卒業されてから、東宝ミュージカルアカデミーの2期生となったわけですが、アカデミーに入学するまではどんな活動をしていたのですか?
大学を卒業してからは、雑誌で見つけたオーディションを受けて、ミュージカル座の作品などに出演していました。
私、全然就活をしなかったんですよ。「やっぱり舞台をやりたい。だから就活したくない」みたいな(笑)。当時の早稲田って、就活しない人も多くて、就活しないことへの危機感があまりなかったんですよね。
その頃から「いつかは東宝ミュージカルに出演したい」という気持ちが芽生えてきました。当時習っていた歌の先生に相談したら、東宝ミュージカルアカデミーの存在を教えていただいて受験をしたんです。歌と芝居とダンスの試験を受けて、私の期で入学したのは35人くらいだったと思います。
山田和也先生など、東宝ミュージカルで演出、歌唱指導、振付などをされている先生方が直接教えてくださいました。また私たちの時は演出家のデビッド・ルヴォーさんのワークショップがあったりして、これは貴重な機会でしたね。今改めて考えると、とても良い環境で学ぶことができたんだな…と思います。
――アカデミー時代に大変だったことはありましたか?
私が在籍していた時は、2年目のアドバンスコースという夜のクラスがあって、選ばれた人は無料で勉強ができるシステムがあったんです。
残念ながらそこに私は残れなくて…。歌は自信があったので悔しくて仕方がなかったですね。あの時の悔しさはいまだに心の中にありますが、それがなければここまで頑張ることはできなかったかもしれません。
魅惑のパワフルボイスが誕生した意外な理由とは?
――ところで須藤さんの歌は本当に魅力的ですが、昔からパワフルボイスだったのですか?
いえいえ、全然そんなことないと思います!
中学、高校時代の部活では腹筋・背筋を鍛えたり、腹式呼吸の練習をしたりしましたが、それよりも歌に関しては、ミッション系の学校だったので毎朝・夕、礼拝で賛美歌を歌っていたことが大きかったのかな…と感じています。
クリスマス礼拝では、毎年全校生徒でハレルヤを歌うんです。そのために12月は授業を5分短縮して歌の練習に当てられるんですよ。その時にソプラノが鍛えられたというのはあるかもしれません。実際に私が通っていた学校では、歌が上手い人が多かったですよ。
――美しい歌声を維持するためにケアしていることはありますか?
吸入はかなりしていますね。長い期間の公演だとどんどん喉は疲れていくので、良い状態を保てるよう、色々工夫しています。
ただ『シュレック』の公演中、ジンジャーブレッドマン役の岡村さやかさんから、喉の粘膜は精神的なものが一番影響するので、喉の調子が悪いことは忘れたほうがいいと言われたんですよ。それを聞いて確かにそうだよな…と。
すごく神経質になっていた時期もありましたが、最近は「吸入しなかったけどいいか!」ぐらいの気持ちでいます。そしてあまり喋らないのもストレスが溜まるので、最低限できることでいいのかなって、やっと思えるようになりました。
――以前、カラオケ採点のテレビ番組で100点を出されたことがありました。ズバリコツを教えてください。
100点を出す過程を楽しむことです。
私は点が上がっていくのがすごく楽しくて、ノートに点をメモしたりしていました。それを見ながら、例えば抑揚が足りなかったら抑揚を伸ばすにはどういう歌い方をしていったらいいかを研究して、「あ、点数が伸びた!」という感じでだんだん100点に近づいていくんです。その過程がすごく楽しかったです。
多分カラオケで100点を出すような人は、みんなそうなんじゃないかなと思いますね。自分らしく歌ってしまったら100点は出ないので、ある程度マシンに迎合しなければいけないんですよ(笑)。
ミュージカル座『ひめゆり』に対する想い
――これまで出演した作品で、印象に残っている役はありますか?
2022年7月にミュージカル座の『ひめゆり』に「ふみ」という役で出演させていただきました。この作品は、大学を卒業後すぐの2005年に出演させていただいて、今回の役は、その時からずっとやりたいと思っていた役でした。17年経った今年、やっと演じることができたんです。これはほんとに嬉しかったですね。
――具体的にどういう役でしたか?
ひめゆり学徒の1人なんですけど、唯一、生きて妹と一緒に自分の家に帰ることができる役なんです。
この役を昔演じていらした、とても尊敬してる先輩に「今年ふみ役をやらせていただくことになりました」とお話した時に、「ひめゆりの中で唯一目的を達成する役だもんね」とおっしゃっていたんです。確かに仲間が戦死してしまう中、生きて妹と一緒に自分の家に帰ることができる役ですからね。改めて「だからこれだけ魅力のある役なんだな」と思いました。この作品を観た方が、私たち姉妹の役と米軍に保護されて生き残る三人組が救いだった…と言ってくださいました。
――今後はどんな役をやってみたいですか?
(しばらく悩んで)また『ひめゆり』の話になってしまいますが、今年出演させていただいて、はいだしょうこさんが演じられたキミという役をやりたい…と思いましたね。「大きく出たな!」と思われるかもしれませんが…(笑)。
――そして2022年11月からは、ミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』に出演されます。
はい。それこそ『シュレック』で共演した、フィオナ姫の福田えりちゃんとファークアード卿の泉見洋平さんも一緒です。ハッピーなお話ですし、アラン・メンケンの楽曲も素晴らしくて。主人公のデロリス・ヴァン・カルティエ役の森公美子さんと朝夏まなとさんは、同じ役とは思えないほどキャラクターが違うので、ぜひどちらも観ていただけたら嬉しいです!劇場でお待ちしております。
取材・文・撮影:咲田真菜
須藤 香菜 プロフィール
ミュージカル女優。神奈川県出身。早稲田大学第一文学部卒業。
出演作:『シュレック・ザ・ミュージカル』ドラゴン役、ミュージカル座『ひめゆり』ふみ役、ACTMENT PARK『Written By…~恋のゴーストライター~』ジュディ役、松竹『ゴヤ-GOYA』、ホリプロ『サンセット大通り』、明治座『ふたり阿国』、梅田芸術劇場『TITANIC』、ミュージカル座『スペリング・ビー』、東宝『ジョン・ケアード版キャンディード』など。
テレビ東京『THEカラオケ★バトル』に4度出演。初出場で100点満点を達成する。
昨年、初のオリジナルCD『幸せもの』をリリース。好きなものは、漫画と激辛フードとぼる塾。
次回出演作は、東宝『天使にラブ・ソングを〜シスター・アクト〜』
■twitter:https://twitter.com/sudokana
■すどかなショップ(CDなどのネットショップ)
https://sudokana.thebase.in