2023年7月12日(水)あうるすぽっと(豊島区立舞台芸術交流センター)にて、ロンドンコメディ『RUN FOR YOUR WIFE』が開幕する。
本作は1993年にイギリスで初演されたレイ・クーニーの傑作コメディ。本公演はコロナ禍で3度の公演中止を経て、初演から40年の節目にあたる2023年、ようやく上演が叶う。
主役のタクシー運転手、ジョン・スミス役は、今回が3度目の挑戦となる山本一慶が務め、あわせて演出も担当。そしてジョンの2人の妻役に、宝塚歌劇団で同期の舞羽美海(メアリー)と十碧れいや(バーバラ)が挑み、公演中止で幻となっていた「同期コンビ」の対峙が実現する。
さらにジョンの友人で、ジョンとともに物語を引っかきまわしていくスタンリー役に石田隼、ジョンを追い詰めていくトラウトン警部役に松井勇歩、どこかとぼけているポーターハウス警部役にピクニック、バーバラの隣人、ボビー役に小澤亮太という個性的なキャストがそろった。
初日に先立ちフォトセッションとゲネプロが行われた。まずはキャストのコメントを紹介したい。
キャストコメント
――初日を迎える心境と見どころなどについてお聞かせください。
山本:ジョン・スミス役の山本一慶です。明日初日で、今日場当たりを終えてゲネプロを迎えられて一安心もあるんですけれども、一安心できない作品でもあります。このメンバーでお互いを信じ合って皆さんにお届けできたらなと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
見どころポイントについては、勘違いが勘違いを生んで、全員集合する2幕と2幕の一連の流れが、すごくスピード感もありますし楽しんで僕自身も演じているので、見どころの一つです。そしてポーターハウス警部(演:ピクニック)が衣装で視覚的に笑わせてくれるところがあるので、そこも見どころかなと思います。
舞羽:メアリー・スミス役の舞羽美海です。個人的にこの作品は、2回本番を迎える前にコロナで中止になってしまって、3回目の挑戦でやっとこの場にいることが本当に嬉しいです。お客様にお届けできるのが本当に幸せだなって思います。お客様が入ってから完成する作品だと思うので、お客様参加型でぜひ楽しんでいただけたら嬉しいです。
見どころポイントはいっぱいあるんですけど、ウィンブルドンとストレタム、東と西が絶対に交わることがない中で交わっていくときに、ウィンブルドンの警察官とストレタムの警察官の2人が会うところが大好きです。ぜひ楽しんでください。
松井:トラウトン警部を演じます、松井勇歩です。世間的には声出しても大丈夫という状況になってる中、コメディをお届けできるということで、見に来ていただいた皆さんには、本当にたくさん笑っていただきたいし、笑っていただけるような作品を届けたいなと思っております。
見どころは、僕は(石田)隼が演じるガードナーが、もしかしたらこの作品の中で一番大変なんじゃないかなと思っています。一番頭を働かせて周りを見ているのは実はガードナーなので、作品の中でキーポイントになっていると思います。それを見事にこなす彼をおすすめとして挙げておきたいなと思います。よろしくお願いします。
石田:スタンリー・ガードナー役の石田隼です。どの舞台でもそうなのですが、初日を迎えた感想というのは「初日を迎えたな~」ってぐらいしかあんまり思わないですよね。これから始まるので、身を委ねてみんなで頑張っていきたいなという気持ちでございます。
見どころは、僕は舞台が2分割されている作品に出演するのが初めてで、面白いなと思っています。視覚的にも分かれているし、メアリーとバーバラで分かれている女性陣のバランス、そして2人はそれぞれ良し悪しがあるじゃないですか。そういうところも面白いなと思うので、男性の方は「俺だったらどっちの嫁がいいな」と楽しんでいただけると思います。
十碧:バーバラ・スミス役の十碧れいやです。私は3度延期を経験していて、4度目の正直になります。やっと初日が迎えられることがすごく嬉しいです。場当たりをやってみて、自分の中でいろいろハプニングやハッとすることがあったので、千秋楽まで気が抜けないと思います。でもお客様に楽しんでいただけるように精一杯お届けしたいと思います。
見どころポイントとして、警察官のお二人の対峙のところもそうなんですけど、私はジョンが出てくるたびに、汗がどんどん増しているところを挙げたいです。ジョンはずっと舞台上にいるので、体を使って全身で演じている山本さんはあっぱれだなと思って、見どころです!
ピクニック:ポーターハウス役のピクニックと申します。よろしくお願いします。初日を迎えた感想は、自分のことで精一杯なのですが、見ている方も少し気を抜いていたら、話がジェットコースターのように進んでいくので、気を抜かないでほしいですし、そうならないように僕らも頑張りますので、真剣に見ていただきたいです。
前回まで、警察署は西署と東署だったのに、今回からウィンブルドンとストレタムという、ものすごく言いにくいものになっていて、東と西だったらもっと言いやすかったと思いますけど(笑)僕らはそれを乗り越えて今ここに立ってますので、よろしくお願いします。
見どころは、ストレタムとウィンブルドンを本当に言えるのかというところと、僕は小澤さんが見どころだと思います。小澤さんはこういう感じの役をやったことがないというので、どんだけのものを見せてくれるか。皆さん、楽しみにしていただきたいです。個人的には、圧がすごいなと思ったので、生で感じていただければなと思っております。
小澤:ボビー・フランクリン役の小澤亮太です。コツコツ稽古をやっていくうちに、会話のキャッチボールが素敵な状態になっていき、積み上げて積み上げてやっと初日を迎えられるんだなって嬉しさがあります。これからいろんなハプニングがきっと起こると思うので、このドタバタの中でどう対処していくかっていうのも、自分の中でドキドキしながらやります。
見どころは、僕はオープニングの静けさが好きで、平和だな~みたいなところから始まるのがすごくいいなと思っています。そこから急にドタバタしだすので、そこが見どころです。
――最後に、今回は演出も務めた山本一慶さん、メッセージをお願いします。
山本:演出も務めさせていただきましたが、大したことができてないんですけれども、皆さんの力があったからこそ、今ここに全員で立っているのだと思っています。お互いがお互いを支えていかないと、この舞台は最後まで駆け抜けることができず、かといって、駆け抜けるスピードを落とすわけにもいかず…。
本当にコメディは、信頼関係が大切だなと改めて思っています。見て笑顔になって帰れる作品だと思うので、お客さんにはぜひハードルの高いものだと感じず、ただただこの夏、笑いに来ていただけたらなと思っていますので、ぜひ劇場に足を運んでいただけたらなと思います。よろしくお願いいたします。
ここからは、極力ネタバレなしでゲネプロの模様をお伝えしよう。
『RUN FOR YOUR WIFE』ゲネプロレポート
青と赤を基調にした2つの部屋に、不安な表情をしたメアリー(舞羽美海)とバーバラ(十碧れいや)が現れる。落ち着きなく部屋を歩き回るのだが、意を決して電話をする。夫のジョン(山本一慶)が、行方不明だからだ。
時間になっても帰宅しない夫に不安は募るばかり。なぜならジョンは時間をきっちり守るタイプで、これまで帰宅時間に遅れたことがないからだ。
フォトセッションで小澤が見どころの一つとして挙げたこのシーンは、筆者もお気に入りだ。メアリーとバーバラが静かに上品に、警察に対して夫の行方を捜してほしいと訴えるところは、まさに嵐の前の静けさといえるし、このシーンを演じる舞羽と十碧の美しさが舞台で映えている。
ここでメアリーとバーバラは、ジョンのことを「平凡で普通の人」と表現するが、とんでもない! ジョンは2人の妻を持つ、実に非凡な男なのだ。
その後、ジョンは無事にメアリー宅に帰宅するが、仕事中トラブルに遭遇し、頭を包帯でぐるぐる巻きにしている。このアクシデントのせいで、これまで綿密に計画を練って2人の妻と楽しく過ごしていた生活が、一気に崩れていく。ジョンが時間に正確なのは、2人の妻の間を行き来する上で重要だからなのだ。
とにかくこの作品は、電話をしているシーンが多い。現代のようにアクシデントがあったらスマホですぐに連絡が取れるという時代ではないため、いわゆる「家電」が大活躍し、かつ事態を混乱させていく。「緊急事態で連絡を取りたい!!」と思っても、思うように相手と連絡が取れないところがドタバタに拍車をかけていくことになる。
山本が演じるジョンは、情けないところがあるものの、なんとも憎めないキャラクターだ。2人の妻を持つほどモテるようには見えないのだが、とぼけた感じが母性本能をくすぐるのかもしれない。何度見てもジョンは山本にぴったりのハマり役だと感じる。
そんなジョンの秘密の生活を知ってしまったのが、ジョンとメアリーの家の上に住むスタンリーだ。スタンリーはジョンに借金をしている無職のお調子者だが、石田は生き生きと演じている。前回公演で演じたルー大柴とは、全く違った雰囲気を出しているため、キャストが変わると作品のイメージがこんなに変わるのかと驚く。
2人の妻との生活をなんとか守りたいと必死で走り回るジョンに巻き込まれてしまうスタンリー。彼がその都度つく嘘で、さらに事態が混乱していく様が本当に面白い。石田のコメディーセンスはかなりのものだし、ジョンだけでなくメアリーとの絡みも多いので注目だ。
そして怪しい行動をとるジョンを追い詰めていくのが、トラウトン警部だ。
松井はほとんど笑わず、厳しい表情でジョンを問い詰めていく。しかしジョンとスタンリーの嘘に巻き込まれ、勘違いをして狼狽する松井の姿に爆笑してしまう。
そしてもう一人の警察官、ポーターハウス警部は、真面目でお人好し。すっとぼけたところがあるのでジョンとスタンリーの嘘をさらに増幅させ、別の物語を作ってしまうところが面白い。彼は職務に忠実なだけなのに、ドタバタに巻き込まれてとばっちりを食ってしまうのだが「地で演じているのでは?」と感じてしまうほど、ピクニックにぴったりはまっている。
そしてバーバラの隣人として登場するボビーは、ドタバタ劇のスパイスとしての役割を果たしている。ピクニックが「圧がすごい!」と言っていたように、独特の雰囲気があるボビーを小澤は迫力のある演技で見せた。
エレガントでキュートな2人の妻が、ジョンがつく嘘によって、どんどん崩壊していくところも見どころとして挙げたい。メアリーとバーバラの変貌ぶりをじっくり楽しんでほしいし、実はこの2人が直接絡むシーンは少ないので、2人が対峙するところは貴重なシーンとして目に焼き付けてほしい。
気合を入れて見なければストーリー展開に追いついていかないところはあるものの、単純に大笑いできて楽しめる作品だ。さらに、舞台セットの色使いと出演者の衣装や持ち物がきれいにリンクしているところにも注目したい。2分割された世界が、視覚的にも楽しみを与えてくれる。
本公演は7月19日(水)まで同劇場にて上演。なお、新聞記者役は日替わりキャストが演じるので、こちらも楽しみにしたい。
取材・撮影・文:咲田真菜
ロンドンコメディ『RUN FOR YOUR WIFE』
日程:2023年7月12日(水)~19日(水) 劇場:あうるすぽっと
作:レイ・クーニー
訳:小田島雄志/小田島恒志
監修:菅原道則
演出:山本一慶
出演:山本一慶(ジョン・スミス)、舞羽美海(メアリー・スミス)、十碧れいや(バーバラ・スミス)
松井勇歩(トラウトン警部)、ピクニック(ポーターハウス警部)、石田隼(スタンリー・ガードナー)、小澤亮太(ボビー・フランクリン)
<新聞記者役・日替り出演>
12(水) 14:00 KIMERU、12(水) 18:30谷水力、13(木)18:30安井一真、14(金)18:30松田岳、15(土)12:00鯨井康介15(土)16:30鈴木裕樹、16(日)12:00髙木俊、16(日)16:30松村泰一郎、17(月)12:00橋本真一、18(火)14:00竹中凌平、18(火)18:30りゅうと、19(水)14:00宇野結也
料金:7,700円(税込み、全席指定)
企画・製作:アーティストジャパン
お問い合わせ:アーティストジャパン 03-6820-3500 https://artistjapan.co.jp