藤本隆宏インタビュー 朗読と歌で、観客をピアソラの世界へ誘う「ピアソラの鬱屈した想いも表現できれば」 【インタビューVol.10】

藤本隆宏 Photographer : Yoshihiro Tatsuki

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2022年9月30日(金)~10月2日(日)イイノホールにて『ASTOR PIAZZOLLA 没後30周年トリビュート公演』が開催される。

孤高のバンドネオニスタ、アストル・ピアソラは、ポピュラー音楽界のみならず世界のクラシック演奏家にとってもかけがえのない存在だが、本公演はピアソラの作品を堪能できる世界唯一の公演となる。

2020年のラテングラミー賞にノミネートされたフェデリコ・ペレイロ率いる四重奏団をはじめとして、全公演通じて演奏および男性ダンサーはすべてアルゼンチン人で、世界最高のダンサーおよびマエストロたちが出演。

そして日本人歌手として日替わりで「ピアソラ音楽に思いを寄せる」ゲストが登場し、ピアソラの美しい楽曲を披露する。

このたび10月2日(日)の公演に出演する藤本隆宏さんにインタビューを実施。唯一日本人男性キャストとして出演することになった経緯や意気込みを語ってくださった。

目次

歌と朗読で綴られるトリビュート公演

――このたび上演される『ASTOR PIAZZOLLA 没後30周年トリビュート公演』ですが、藤本さんは10月2日(日)の最終日に出演されます。今回はどのような立ち位置で出演されるのでしょうか?

藤本:現時点で(注:2022年8月2日に取材を実施)まだ台本が出来上がっていないため、いろいろ未定のところはあります。

本公演の企画制作を担当している高橋正人さんが、以前私が出演していたミュージカル『アニー』をご覧になって、ピアソラの役に合うのではないか…と声をかけてくださいました。今回は私のスケジュールの関係で最終日1日のみの出演となりますが、ピアソラが残した言葉や語録を演奏の前や間に朗読して、皆さんをピアソラの世界に誘い、さらに私もピアソラの作品を2曲歌う予定です。

――曲はすでに決まっているのでしょうか?

藤本:1曲は決まっています。「チキリン・デ・バチン(Chiquilin de Bachin)」という,ブエノスアイレスのレストランに花を売りにくる少年を歌った歌で、歌詞の訳は渡辺えりさんが、この公演のために特別書き下ろしてくださったんです。

実はこの間レコーディングをしたのですが、ピアソラの曲って難しいんですけど、奥深くてすごくいい曲なんですよね。訳詞をしてくださった(渡辺)えりさんも大好きなんですよね、ピアソラが。その想いが詞にのっていらっしゃいます。

難しいのですが、あえてチャレンジしたいと思っています。レコーディングのときは楽譜を見ながらできましたが、本番ではそういうわけにはいかないので、自分なりのアレンジを出して、ちゃんとピアソラの音楽、詞を伝えていきたいと思っています。

――渡辺えりさんが訳詞を手掛けられたとは、驚きです。えりさんの書かれた歌詞を藤本さんはどのように感じましたか?

藤本:今まで歌ったことがない、感じたことがない詞だったので、ブエノスアイレスの人々の生活のことを歌いながら感じることができました。

日本人の感覚では絶対歌えないというか、そんなことを感じました。でも何度も言いますが、難しかったです。高橋さんがずっといてくださって「ここはこういう感じで歌うんだよ」とアドバイスをくださったので、大変助かりました。

――渡辺えりさんから何かアドバイスはありましたか?

藤本:特別にいただいてはいないです。すべて高橋さんにお任せ…という感じですね。ただ、ものすごく悩んで書かれたということは伺っています。えりさんとは映画の撮影でご一緒したのですが、その時にもピアソラの話をとても熱く語っていらっしゃいました。えりさんご自身もピアソラの曲を本当にお上手に歌われるんです。今回、出演されるのかと思っていたら「私は出ない」とおっしゃられて…(笑)。

唯一の日本人男性キャストとして出演

――本公演では、フェデリコ・ペレイロ率いる四重奏団が来日されるのも注目ですね。

藤本:2019年に来日された時に、とても評判が良かったとお聞きしています。今回出演される水夏希さんがライブを開催された時も演奏されたそうです。

――本公演で、特に注目すべきところはどんなところでしょうか?

藤本:今回の公演はアルゼンチン共和国大使館が後援についており、なおかつピアソラ財団も関わっている世界でも数えるほどしかない公式行事の一つなんです。そんな中で私は唯一の日本人男性キャストとして出演します。

高橋さんから「藤本さんは、ちょっと日本人離れした風貌だからピアソラが乗り移るんじゃないか」と言われておりまして(笑)、もしかしたらバンドネオンを持ってステージに立ってもらうかも…とおっしゃっていただきました。大変ありがたいことですね。

2022年6月に開催した『Tokyo modern times Vol.3』で、高橋さんとご一緒したのが最初の出会いでしたが、この公演はとても評判がよかったんですよ。高橋さんは素晴らしいセンスで構成・演出をされる方だから、今回の公演でもきっとピアソラの素晴らしさが皆さんに伝わると思います。

ピアソラの作品は「これはどこかで聞いたことがある」「CMで流れていた」と、知っている人がいると思いますが、ピアソラがどんなことを考えながら過ごしていたなど、彼自身の人生についてはご存じない方が多いと思うんです。

彼は生きているときは、そんなに世界的にメジャーにはなっていなかったので、世の中に認められてない鬱屈した気持ち、怒りみたいなものを表現しながら、1曲1曲をつないでいければ…と思っています。

――改めて本公演にかける意気込みをお願いいたします。

藤本:実は、僕がオリンピックで日本記録を最後に出したのが、30年前の1992年なんです。節目の年に、このような素晴らしい公演に出演できることをとても嬉しく思っています。

実際にピアソラとお会いしたことがある高橋さんによると、ご本人はいたって普通の方で「もっと売れたい!」といった俗っぽいところもあったのだとか。でも突然メロディーの神様がおりてきて、ものすごい曲を書く、まるでモーツァルトのような人だったようです。そういうところが皆さんに伝わればいいのかなと。

そして先ほども言いましたが、生きている間に認められなかったピアソラの鬱屈した部分も上手く表現していきたいと思っています。

また、ステージの後ろには、ブエノスアイレスの街並みや情景がプロジェクターで映し出されるようです。ですから、お客様には本当にアルゼンチンにいるような雰囲気を味わっていただけると思っています。まだまだ海外へ行くことが困難なご時世ですから、旅行気分を味わっていただきたいですし、何よりもぜひ素敵な音楽とダンスを堪能しに会場へいらしてください。

取材・編集:彩川結稀
取材・文:咲田真菜

【公演情報】
『ASTOR PIAZZOLLA 没後30周年トリビュート公演』

■音楽監督(Director Musical)   FEDERICO PEREIRO
■振付(Coreografia)   FERNANDO RODRIGUEZ

■公演日時
2022年 
9月30日 (金)(18:00開演)
10月1日 (土)(13:00 開演 17:00 開演)
10月2日 (日)(13:00 開演 17:00 開演)

■会場 イイノホール

■チケット 全席指定 11,000円(税込)

■出演

FEDERICO PEREIRO      Bandoneón

RAMIRO GALLO         Violin

JUAN PABLO NAVARRO  Contrabajo
EMILIANO GRECO       Piano

CECILIA CASADO Cantante

FERNANDO RODRIGUEZ・ESTEFANIA GOMEZ
(2019年度タンゴ選手権世界チャンピオン)

CRISTIAN LOPEZ

DAVID LEGUIZAMON

EMANUEL DOS REIS

KAZUKI MISHOU

MIRI MURANO

藤本隆宏  TAKAHIRO FUJIMOTO (10/2 出演)

真琴つばさ TSUBASA MAKOTO (9/30.10/1 出演)

大空ゆうひ YUHI OZORA (9/30.10/2 出演)

水夏希 NATSUKI MIZU (10/1.10/2 出演)

夢咲ねね NENE YUMESAKI(9/30.10/1出演)

■エグゼクティブ・プロデューサー 的場博子 HIROKO MATOBA(中南米音楽著作権協会駐日代表)

■ステージディレクター、通訳 齊藤憲三 KENZO SAITO(オフィス・バトゥータ)

■企画制作 高橋正人 MASAHITO TAKAHASHI (クレスクミュージック)

■後援 アルゼンチン共和国大使館 

   アルゼンチン音楽著作権協会(SADAIC) 

CDアルバム『ASTOR PIAZZOLLA Tribute』

発売日 2022年 9月 30日(金)
販売価格 3,850円(税込)

販売先・9/30〜10/2「ASTOR PIAZZOLLA 没後30周年トリビュート」公演 会場物販
office@almamusica.jp or 080-4448-9228(平日11:00〜18:00) 通販によるお申し込み

収録楽曲 
M1アディオス・ノニーノ Adios nonino 演奏 
M2 ブエノスアイレスの冬 Invierno porteno 演奏 
M3 チェ・タンゴ・チェ Che Tango che 壮一帆 
M4 チキリン・デ・バチン Chiquilin de bachi 藤本隆宏 
M5 忘却 オブリビオン Oblivion 真琴つばさ 
M6 失われた小鳥たち Los pajaros perdidos 大空ゆうひ 
M7 同じ苦しみ La misma pena 夢咲ねね 
M8 いつもブエノスアイレスに帰る Siempre se vuelvo a Buenos Aires 水夏希 
M9 白い自転車 La Bicicleta blanca 渡辺えり 
M10 リベルタンゴ Libertango 演奏

音楽監督 フェデリコ・ペレイロ FEDERICO PEREIRO 
訳詞 渡辺えり

演奏 
FEDERICO PEREIRO Y SU GRAN ORQUESTA

FEDERICO PEREIRO Bandoneón 
RENATO VENTURINI 2nd Bandoneón 
RAMIRO GALLO Violin 
ERICA DI SALVO 2nd Violin 
JUAN PABLO NAVARRO Contrabajo 
EMILIANO GRECO Piano 
FERNANDO HERMAN Viola 
KARMEN RENCAR Cello

公式Twitter: https://twitter.com/news_almamusica/status/1562274370609094658

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この記事を書いた人

国家公務員・一般企業勤務を経てフリーランスのライターになる。高校時代に観た映画『コーラスライン』に衝撃を受け、ミュージカルファンとなり、以来30年以上舞台観劇をしている。最近はストレートプレイも積極的に観劇。さらに第一次韓流ブームから、韓流ドラマを好んで視聴。最近のお気に入りはキム・ドンウク。

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