2024年9月13日(金)映画『シサㇺ』が、TOHOシネマズ日比谷ほかで全国公開される。
本作は、江戸時代前期を舞台にアイヌと和人との対立の歴史を描いた壮大な歴史スペクタクル映画。<蝦夷地>と呼ばれた現在の北海道を領有した松前藩が、アイヌとの交易をおこなっていた史実が基になっている。アイヌと和人が共生してきたという認識をもつ北海道白糠町で多くの場面が撮影され、セット建設から撮影まで、町からの全面支援・協力のもと製作された。
松前藩の武⼠で、蝦夷地に交易の旅に出る⾼坂孝二郎役は寛一郎、孝二郎の兄で交易の旅に同行する高坂栄之助を演じるのが三浦貴大、孝二郎の復讐相手となる、高坂家の使⽤⼈・善助役を和田正人、和人に反発心を抱くアイヌの青年・シカヌサシを坂東龍汰、複雑な事情を抱えたアイヌの女性・リキアンノをサヘル・ローズが演じている。
さらに、孝二郎が訪れるアイヌの村のリーダー・アㇰノ役に平野貴大、和人反発派の村のリーダー・イカシコトシ役に藤本隆宏、孝二郎の旅の船頭・伊助役に山西惇、孝二郎の幼なじみ・みつ役に古川琴音、孝二郎の母親・まさ役に富田靖子、先輩の松前藩士・大川役を緒形直人が演じるなど、日本映画界を牽引する俳優陣が作品を支えた。また、交易の鍵を握る重要な人物を要潤が演じているというキャスティングも見逃せない。
このたび、シカヌサシを演じた坂東龍汰にインタビューを敢行した。アイヌ語の長いせりふが印象的だったシカヌサシを演じるにあたって苦労したことや、主人公・⾼坂孝二郎を演じる寛一郎との撮影エピソードなどを語っていただいた。
アイヌ語の長せりふのシーンで苦労したことは?
――シカヌサシ役に決まったときのお気持ちをお聞かせください。
坂東龍汰(以下、坂東):僕は北海道で育ち、父がアイヌの文化にすごく興味がある人で小さい頃から触れて育ってきました。また寛一郎が主役の⾼坂孝二郎を演じると聞いて、この作品に縁を強く感じました。
――シカヌサシの一番の見せ場はアイヌ語の長せりふのシーンでした。かなり大変だったのではないですか?
坂東:北海道の地名がアイヌ語に関係していたりするので触れたことはありましたが、ここまできちんとアイヌ語を勉強したことはありませんでした。せりふを読解していくのがすごく大変で、アイヌ語のせりふの中にどうやってシカヌサシの気持ちをリンクさせていくかが難しかったです。 長せりふのシーンは、強いメッセージ性があるので気持ちを乗せなければいけないし、きちんと孝二郎と会話になっていないといけないので、自分のリアクションなど、どこに焦点を当てていくかが大変でした。
―― 和人対アイヌの気持ちをシカヌサシが孝二郎に対して語るのは、物語の中で肝になったといえます。撮影時は緊張しましたか?
坂東:緊張して前の晩は寝られなかったですね。翌日は無事に撮影できましたが、周りからは普段と様子が違うように見えていたみたいです。いつもは現場で口数が多く盛り上げるタイプなんですが、その日はだいぶ静かだったみたいで…。用意してきたものを120%出せるように自分の中でチューニングしていたのですが、寛一郎に「自分の長せりふのときだけ静かで…」と言われてしまいました(笑)。寛一郎とも撮影を進める上でたくさん話し合いましたし、監督も含めたスタッフ全員でいいシーンにしようという気合が高まっていたので、それが実際に画になって伝わったら嬉しいです 。
寛一郎をはじめとした共演者とのエピソードは?
――寛一郎さんの話が出ましたけれども、撮影時のエピソードはありますか?
坂東:寛一郎とは、もともとプライベートで会うくらい仲が良くて、いつか一緒にお芝居ができたらいいねと話していました。今回共演が決まってすごく嬉しかったです。(北海道)白糠の町で1ヶ月間ロケをしてホテルに泊まりながらの撮影だったので、一緒に体を鍛えたり、おいしいものを食べたり、四六時中一緒にいました。普段東京では話さないような話もできて、より寛一郎のことを知れたし、お芝居も一緒に作れたのは大きかったですね。今度は日本語のせりふで共演したいです。
――ロケは合宿みたいな雰囲気だったのではないですか?
坂東:まさに合宿状態でしたね。実際にアイヌと縁のある町で撮影したことは、すごく意味があったと思います。白糠の町に宿るエネルギーが助けてくれました。アイヌ語の方言指導の先生も含め、実際にアイヌの血を引き継いでいる方々が作品に演者として参加してくださったことで、こういう時にはこういう言葉を使うとか、どんな仕草や言葉が出るのかということを聞けたので、映画に説得力をもたらしてくれました。
――他に共演された方との撮影エピソードはありますか?
坂東:アイヌ語のせりふですが、僕はホテルの部屋で覚えるより、白糠の自然の中に入って撮影時と似た環境で頭の中に入れたいと思っていたので、毎日3~4時間くらい海でせりふを覚える時間を作っていました。そしたら和人反発派の村のリーダー・イカシコトシ役の藤本隆宏さんも、海近くを走りながらアイヌ語のせりふを覚えていらっしゃって、2人で「どのぐらい入りました?」「まだ全然入らないよ」「キツイですよね」「頑張ろう」と言いながら、ねぎらい合っていましたね。
共演者の皆さんやスタッフさんも含めて、すごく仲の良い現場だったんですよ。皆さん同じホテルに泊まっていましたし、夜ごはんを食べに行ったら必ず誰かがいるという環境でした。一緒にご飯を食べに行ったり、サウナに行ったり、海でガラス石拾いをしたり、皆さんとずっと一緒にいた思い出があります。ここまで長期間地方ロケの経験がなかったので、町の人たちとの関わりもできたし特別な1ヶ月間でした。
幼い頃に聞いたアイヌのルールで影響を受けたこと
――お父様がアイヌのことに詳しいとのことですが、小さい時に聞いて印象に残っていることはありますか?
坂東:アイヌの決まりみたいなものなんですが「全てのものに神が宿っている」と言われていました。昔からモノを大切に思う気持ちや感謝しながら食べるとか、すごく影響を受けましたし、全てにおいて神が宿っているって素敵な考え方だと思っていました。だから僕はモノが捨てられないんですよ。服とか愛着が沸いてしまうんですよね。
でも昨日、上京して初めて買ったバスタオルを捨てました。 7年以上使っていたので名残惜しかったのですが、さすがにと思って…(笑)。丁寧にさよならをしましたが、新しいバスタオルを買ったので今度も大切に使おうと思います(笑)。
役者としてひと山越えたと感じるシカヌサシ役 今後の目標は?
――今回シカヌサシを演じて、役者として得られたことはありましたか?
坂東:役者として今後の自信に繋がる経験になりました。シカヌサシを演じるという自分の中での戦いが今でも印象に残っているし、いまだにせりふを全部覚えているんですよ。それぐらい海でのせりふを覚える時間で体の中に染み込んだと思うので、なかなか抜けないんだと面白い発見になりました。日本語のせりふは次の日には忘れられるのに…(笑)。
僕はせりふを覚えるのが遅くて毎回大変なんですが、この作品では何回も音源を聞いて歌を歌うように覚えたので、小さい頃に聞いた子守唄を忘れないみたいな感覚なのかもしれませんね。
――今後はどんな役を演じていきたいですか?
坂東:うーん そうですね…(しばらく考えて)。機会があればフランス語や英語などのせりふを言う役にチャレンジしたいですね。今回せりふが自分の中に残っているってことは、そういう作品にチャレンジしたら、また何か自分の力になるんじゃないかなと思うからです。
――今回の作品はアイヌのリアルな暮らしを描いていますが、改めて作品の見どころをお願いいたします。
坂東:僕はアイヌの歴史をここまでしっかり知る機会は初めてでした。僕らの世代の人たちがこの作品を観ることにすごく意味があるし、北海道で起きていた史実を基に描かれています。映画はその事実を知るきっかけになると思いますので、そういう機会を『シサㇺ』という映画で逃さないでほしいし、そこからアイヌの文化や歴史に興味を持ってくれる人が増えればいいなと思います。
僕自身も今までやったことがないビジュアルやせりふがある役なので、応援してくださっている方に新たな一面を見せられるんじゃないかと思います。壮大な映画だし、歴史で難しそう…怖そう…と思う人もいるかもしれないですけど、僕は見終わった後、すごく心が温かい気持ちになりました。
主人公の孝二郎が心の優しい青年で、彼の人生を追うことに意味があると思っています。今の若者は情報が入りすぎて何を精査していいかわからない状況にあると思いますが、彼のまっすぐさ、登場人物みんなに共通する当時生きていた人たちの信念みたいなものに、改めて心が洗われるのではないかと思います。ぜひ劇場で観ていただきたいですね。
取材・文・撮影:咲田真菜
ヘアメイク :ゴトウ ヤスシ
スタイリスト :OLTA 後藤泰
映画『シサㇺ』概要
2024年9月13日(金)TOHOシネマズ日比谷ほかで全国公開
監督:中尾浩之 脚本:尾崎将也
主題歌:中島みゆき「一期一会」(ヤマハミュージックコミュニケーションズ/ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス)
出演:寛一郎 / 三浦貴大 和田正人 坂東龍汰 平野貴大 サヘル・ローズ 藤本隆宏 古川琴音
山西惇 佐々木ゆか /
要潤 / 富田靖子 / 緒形直人
制作プロダクション:P.I.C.S.
配給:NAKACHIKA PICTURES
(C)映画「シサム」製作委員会
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公式HP:https://sisam-movie.jp