舞台『サイレントヴォイス』W主演 小柳友、松浦司インタビュー【インタビューVol.24】

(左から 松浦司、小柳友)

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2024年7月31日(水)~8月4日(日)浅草九劇(東京)にて、舞台『サイレントヴォイス』が上演される。

本作は、2001年の附属池田小事件を題材に、脚本家・演出家の西森英行が朗読劇として立ち上げた作品で、今回は二人芝居としてリメイクされる。西森が脚本を担当し、演出は相原雪月花が手掛ける。無差別殺人を犯した実行犯と、彼と向き合う弁護士との対話を通じて魂の葛藤を描く濃密な二人芝居が展開。弁護士の平健吾役を小柳友、無差別殺人の実行の佐久田冬馬役を松浦司が演じる。

このたびW主演を務める小柳友さん、松浦司さんに稽古の合間をぬってインタビューを行った。実際に起きた事件をモチーフにした作品を演じるプレッシャーや公演にかける意気込みについて語っていただいた。

目次

出演オファーに葛藤があるも、新しい自分になれる希望を持ち挑戦を決意

――本作に出演が決まった時、どのように感じましたか?

小柳友(以下、小柳):6月にオファーいただき出演が決まったので、舞台にしては公演まであまり時間がないタイミングでした。当時僕は地方ロケなどがありましたので、果たしてこの台本とずっと向き合っていくことができるのかという葛藤がありました。

でも名前を挙げてくださったことは、僕の中に何かを見出してくれたんだろうと考え、受けなければいけないと思いました。そしてこの作品を乗り越えたら新しい自分になれるのではないかと希望も含めてやろうと決意しました。

松浦司(以下、松浦):僕は演出家の相原(雪月花)さんと直接お会いさせていただいて、お話を伺いました。この役を演じられるのか不安があり、出演にあたって警戒してしまう感覚があり、結構迷いました。一方でこの作品に挑戦することで成長できるのではないか、今の自分にとって必要ではないかという思いもありました。相原さんといろいろお話をして、共演するのが小柳さんということもあり出演を決めました。

――実際の事件をモチーフにしている作品ですが、事件の記憶はありますか?

松浦:僕は大阪出身なので、ニュースで見て衝撃が凄かったことを記憶しています。幼いなりに考えれば考えるほど怖かったので、目を背けて逃げる感覚があったように思います。学校の帰り道は、学校の警備の方、警察の方、地域で住んでる方たちが かなり警戒していた記憶がありました。大阪全体がそういう感じでしたね。

小柳:僕は東京の学校でしたが、事件があった当時、警備が強化された記憶があります。学校からの帰り道は大人数で帰りましょうと言われていましたので、大人は気が気じゃなかったんだろうなって思います。

衝撃はありましたが、大阪で起きた事件なので距離感も含め、ニュースで報道されていることと現実のギャップがありました。「テレビでこんなこと言ってるけど本当なの?」と感じていました。

――それぞれの役について、どのような気持ちで臨まれていますか?

小柳:僕が演じる弁護士の平健吾は、自分と似ている部分もあれば、ここだけは気持ちが分からないところもあります。

演出の相原さんは、『心の中で着ている服』という話をよくされるんです。どれだけ自分が心の中で服を着ていて、それを脱いでいくのかということなのですが、この作業が楽しくて魅力を感じます。

でも今回の作品は、どうしても素の「小柳友」が出てきてしまうんです。そこに葛藤があって「役ではこうならないよね」ということと、人間・小柳友がこの状況になった時「これ普通に言える?」というところが結構あるので、正直、役を作っていくのが大変です。

相原さんがいろいろヒントを下さって、平の根底にあるものやこれを付け加えれば台詞が言えるのでは…とアドバイスをいただいたので、だいぶ救われてどんどん前に進んでいけている感じはあります。

――松浦さんは大阪ご出身ですが、今回の役は大阪弁で演じるんですか?

松浦:台本上は大阪弁ではないのですが、ところどころ大阪弁を入れていこうと思っています。標準語と大阪弁を混ぜて話すのは特殊ではありますし、大阪弁のイントネーションをつけることでキツさが増したりするんですけど、台本で書いている言葉の意味を崩さないように混ぜています。

台本を読んでこの事件のことを調べて、実際に犯人が語っていた言葉はコテコテの大阪弁だったんです。自分の頭の中で広がるイメージが、結構キツめでぶっ飛んでしまっているような大阪の方というのがありますが、台本はそうじゃないんです。その中間をどうやって作っていくか、今までやったことがない作業なので苦戦しています。

――演じる役が殺人犯ということで、難しさがありますね。

松浦:台本を読んだときに「なんでこんなことが言えるんだろう」と思う反面、人間誰しもが持っている怒りだったり憎しみだったりがあるのかなとも思いました。人間誰でもそうなる瞬間があるという前提で、僕はこの役に向き合いたいと思っています。「いや、そんなことせえへんよ」って口では言えるんですけど、いろんな人間と関わったりする中で、そうなっていく人とならない人に分けられるのかもしれないですね。

今は、一つひとつひも解いていっていますが、僕が演じる佐久田は、自分で自分を理解していないからこその狂気だったり、精神不安定だったりというのもあると思います。自分の渦というか、そこにどんどん入り込めることが、今回の役づくりのキーなのかなと思っています。

そうは言っても、どうしても「なぜこうなってしまったんだろう」「何でその一言が言えないんだろう」と本当に理解しがたいところがありますね。

――役を演じる上で、共感できるところと全く自分と違うところはどんなところですか?

小柳: この作品では、犯人の佐久田という人物が、精神障害者なのかどうかという部分が重要なんです。彼に対して放つ平の言葉がすごくきついんですよ。「なんでできないの」って言うことはかなり危険な言葉で、例えば目の見えない方になんで見えないの?って言っているのと同じなんですよね。

台本に書いてあるけど、そのまま演じてしまったら絶対に誰かを傷つけるので、そうならないためにはどうするかということを考えています。小柳友が演じるから絶対にそうはさせないよと思うし、そうはなりたくないと思っているので、芝居で絶対に解決しますと相原さんと話しています。

松浦: 確実に佐久田が自分と違うと思ったのは、素直になれないところです。 それを紐解いていくとプライドや意地なんです。佐久田が幼い時に「ごめんなさい」や「ありがとう」って言える性格だったら、こんなことになっていなかったんじゃないかと思います。

意地やプライドに気持ちを寄せ過ぎてしまうと「ごめんなさい」や「ありがとう」が言えなくなって、それが溜まっていって衝動につながっていくのかなと思います。すべてがねじれている佐久田という人間は、自分とは真逆ですね。僕はすぐに「ごめんなさい」って言いますし(笑)。

(左から 松浦司、小柳友)

稽古場の雰囲気と演出家・相原雪月花の印象は?

――今作のように重いテーマでなおかつ2人芝居となると、稽古も大変だと思います。稽古場の雰囲気はいかがですか?

松浦:稽古場は明るいですよ。ピリピリしていないですし、演出の相原さんもこんなに重い題材を扱っているのに、ハッピーな雰囲気を出されています。めちゃくちゃピリピリした現場だったら参っていたかもしれないですね。

小柳:本当に助かっています、相原さん(笑)。

――お互いの印象はいかがですか?

小柳:松浦さんは、まだまだ根底に何かがあるんだろうなというのをずっと見せられてるような気がします。最初に稽古で大阪弁を使った時、ほぼご自身で突発的に試した部分があったんですよ。その時の勢いと感覚が忘れられなくて。

なんとなく体感を味わうためにやっただけかなと思ったら、相原さんが「いい!」って言ったんですよ。結局2日ぐらい悩んで、台本はそのままで、時折大阪弁のイントネーションにすることになったのですが「そんなこともできるの?」って思いました。もっといろいろな面を見てみたいなという存在です。

松浦:役への向き合い方や作り方が真摯なんです。僕とは少し違う役作りをされるので、すごく勉強になります。だからこそ小柳さんに引き出してもらえる瞬間がありますね。歳も近いんですし。

小柳:学年的には1個上なんですけど、同じ歳です。共通点も多くて、実は隣の駅に住んでいて、歩いたら20分ぐらいのところでびっくりしました。今度朝7時にあそこの公園に集合して朝練しようと言ってるんですけど、たぶん叶わないと思います。

松浦:公園でこの作品の稽古をしたら、通報されちゃうかもしれませんしね(笑)。

――演出家の相原さんとは初めて仕事をされるとのことですが、どのような印象をお持ちですか?

小柳:お若いんですけど、すごく芝居に対する熱のある人だと感じています。ものすごく心地良くて、自分が持っている熱に対してちゃんと応えてくれる方なので、素晴らしい方だと思います。

松浦:台本の一文一文に対して「なんでこんな風に思ったんだろう」と、相原さんの中でいろいろなイメージがあるんです。でも相原さんは「私はこうやって思っているけどこれが正解じゃないから、何か思うことがあれば言ってね」と言ってくださいます。

演出家の考えと僕の考えが5対5ぐらいだったら、多分僕はどこかで気を遣いながら役作りをしてしまうと思うんです。そうじゃなくて相原さんは、自分の考えを10ぶつけてきてくれるんです。10ぶつけられたら引いちゃうか何も言えないこともあると思いますが、相原さんは「あなたの考えも10聞かせて」とおっしゃいます。

そこで悩んだり、どっちにしようかって迷ったりしていると「じゃあ両方やってみよう」となるので、ものづくりや演出家と役者の関係性をものすごく大切にされている方だと感じました。

もう一つは、相原さんが想い描くものがすごく美しくて、その美しさとこの題材がいい感じでマッチしていますので、作品の良さがより伝わっていくと思います。

――お話を聞いてると珍しいタイプの演出をされるようですね。

小柳:相原さんが「私が演出したことに対して、 俳優さんができなかったら、私の言葉が悪いから」っておっしゃったんです。僕ができないのが悪いんだから…っていう想いでいるのに、相原さんが一生懸命考えて伝えてくれて、俳優を尊重してくださる方ですね。

松浦:相原さんが寄り添ってくれるから、僕たちも引き出されるものがあると思います。作品を 作っていく中で、フィフティフィフティでやっていくということが軸にあると感じています。

――お二人とも今回の作品でいろいろな挑戦ができますね。

小柳:いろいろなことをやらせてもらっています。自分の中でこうやらなきゃいけないけど ここが気持ち悪いっていうところが結構あるんですけど「ここがちょっと気持ち悪いですね」って、演出家に言える関係はすごく不思議です。一つのシーンを1回だけやって、あとずっと話しているときもあります。

松浦:ディスカッションがめちゃくちゃ長いんですよ。相原さんに言われたことを1~2時間ディスカッションして、じゃあ1回やってみようとなって「無理無理」となることもあるんですが、しっかりと紐解いて話してくださるので、頭にきちんと残りますね。

(左から 松浦司、小柳友)

小柳、松浦のパワーの源は?

――お二人が作品に向き合うために、パワーの源にしているものはありますか?

小柳:僕はずっとラムネを食べています(笑)。とにかく甘いものを食べて頭を働かせないと…と思って。

松浦:昨日気付いたんですけど、稽古が始まってからお酒をやめてたんです。普段めちゃくちゃ飲んでるんですけど「あれ全然お酒飲んでないな」って。余裕がなくて参っているのかもしれませんが(笑)。昨日も稽古が終わった後に一杯飲もうかなとお酒を買ってたんですけど、それも手をつけてなくて。お酒を飲んでいないので3キロくらい痩せました。

小柳:確かに痩せましたよね!

松浦:だから僕のパワーの源になっているのは、この作品が終わった後に浴びるようにお酒を飲むことなのかなと思いますね。(一同笑い)ここまできたら最後までお酒を飲まずにいこうと思います。お酒を飲んだらせりふを全部忘れてしまいそうですし(笑)。

観に来ていただいた方々が、それぞれの想いで作品を感じてほしい

――この作品は浅草九劇で上演されますが、あの空間だからこそ出せるものがありそうです。そのあたりの期待感はありますか?

松浦:一番ナチュラルなラインで奥の方にも届きそうな感じがしますし、言葉の棘だったり優しさだったりがすごく伝わっていくと思います。お客さんは引き込まれやすいのではないでしょうか。

小柳: 僕は兄と二人芝居をやったことがあるんですが、ワンシチュエーションの芝居は隣の部屋を覗いている感覚で観られるとよく言いますけど、浅草九劇でこの作品をやれば、お客さんが部屋の中に入っちゃってる感覚になると思います。そうするとかなり濃密なものを観ることになるのではないでしょうか。僕らのやり取りを見て、いろいろ持って帰ってもらえるものがあればいいなと思っています。

――ファンの方に意気込みとメッセージをお願いします。

小柳:実際に起きた事件をモチーフにしていますが、この作品はあくまでもフィクションで脚本があります。何かへの気付きなどを持って帰ってもらえるように僕らは芝居を作っていきたいなと思っているので、ぜひ観に来てください。

松浦:この作品は、自分なりの答えを導いていくものだと思います。人との関わり方だったり言葉だったりを考えるように、各々で感じ方が違うでしょうから、ぜひ観に来ていただいた人には、それぞれの想いで作品を感じてもらいたいです。

取材・文・撮影:咲田真菜

(左から 松浦司、小柳友)

『サイレントヴォイス』公演概要

日程:2024年7月31日(水)~8月4日(日)
会場:浅草九劇

出演:
小柳友(平健吾 役)
松浦司(佐久田冬馬 役)

公式サイト:https://asakusa-kokono.com/kyugeki/2024/06/id-13619

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この記事を書いた人

国家公務員・一般企業勤務を経てフリーランスのライターになる。高校時代に観た映画『コーラスライン』に衝撃を受け、ミュージカルファンとなり、以来30年以上舞台観劇をしている。最近はストレートプレイも積極的に観劇。さらに第一次韓流ブームから、韓流ドラマを好んで視聴。最近のお気に入りはキム・ドンウク。

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