2024年2月16日(金)より池袋・あうるすぽっとにて、ロマンティックコメディ『さよなら、チャーリー』が上演中だ。
1959年ブロードウェイ初演、「ティファニーで朝食を」の脚本で知られるジョージ・アクセルロッドの脚本・演出、ローレン・バコールのチャーリーで上演された。1964年に映画化。日本での初演は1969年日生劇場にて、浅利慶太演出、越路吹雪のチャーリーで上演し、その後も人気作品として元宝塚歌劇団男役トップスターや池畑慎之介が演じている。
プレイボーイのチャーリーが、仕事仲間のアレキサンダー・メイヤリングの妻、ラスティと不倫関係になり、その現場を目撃したアレキサンダーに撃ち殺されてしまう。チャーリーの葬式を終えてボーっとしていた親友・ジョージのもとに女性の姿をしたチャーリーが現れるというファンタジックな物語だ。女性に転生したチャーリーのハチャメチャぶりに笑いが起きる一方で、チャーリーが女性として生前に関わった人たちと接し、さまざまな想いを抱く切ないシーンもある。
チャーリーを演じるのは、数々の舞台に出演し2023年6月に上演された舞台『吸血鬼すぐ死ぬ』で、吸血鬼・ドラルク役で新境地を開いた山本一慶。そしてチャーリーの親友ジョージは、ミュージカル『憂国のモリアーティ』シリーズで山本と共演している井澤勇貴。チャーリーの不倫相手のラスティ―は、宝塚歌劇団・雪組で男役と女役を演じてきた大湖せしる、夫のアレキサンダーは、日本語と英語を交えて話す独特のキャラクターでおなじみのルー大柴が務める。
筆者は2月21日(水)に観劇。見どころを述べるので観劇予定の方は注意してほしい。
物語は、喪服姿のジョージ(井澤勇貴)、チャーリーの仕事仲間だった映画撮影所社長の妻、フラ二ィ・サルツマン(枝元萌)とチャーリーのエージェントだったアーヴィング(柳内佑介)がチャーリーの家で葬儀をしているシーンから始まる。葬儀に参加したのが3名のみで、生前のチャーリーがいかにハチャメチャな人物であったかが伺える。必死で故人のチャーリーをほめようとするジョージだが、テニスやスキーが上手かったこと以外思い出せない。数々の女性と浮名を流し、仕事も低迷気味で借金があったチャーリーのことを悪く言う人は一定数おり、ジョージも離婚した妻をチャーリーに寝取られた過去がある。
葬儀に出席した2人が帰ると同時に、弔問に訪れたのがチャーリーの浮気相手のラスティ(大湖せしる)だ。筆者はラスティが扉を開けて発した第一声「ジョージ」という声のトーンが大いに気に入った。大湖の男役時代を思わせる声だったが、この声で大湖が演じるラスティが絶対にハマり役になると確信。それぐらいインパクトのある良い登場シーンになったと思う。
ラスティの訪問に驚くジョージだが、なぜチャーリーにこのような悲劇が起きたのかと現場にいたラスティに問い詰める。チャーリーが亡くなった悲しみを共有しながらウィットに富んだ会話が続く。
ラスティが帰って一息つこうと思っていたジョージだったが、思わぬ訪問者が現れる。チャーリーと名乗るトレンチコートを着た女性が現れたのだ。「俺だよ!ジョージ」と言われ、戸惑うジョージ。ここから山本と井澤のとりとめのない会話シーンが始まる。
すでにお気づきだと思うが、物語が始まってからここまで井澤はずーっと舞台上にいる。次から次へとやってくる客人と長い会話を交わすのはものすごくパワーがいるだろう。公演に先立ち行った山本一慶と大湖せしるのインタビューで、井澤が海外戯曲に挑むのが初めてだと教えていただいたが、ジョージのような難役をスマートにこなしている井澤に心底驚いた。とても海外戯曲のチャレンジが初めてとは思えない。
話をもとに戻すと、最初チャーリーは自分が死んでしまったこと、そして女性に転生したことに気付かなかったが、話しているうちに自分の身に起きたことを知り仰天する。ありえない設定をチャーリーとの会話で次第に受け入れていくジョージもなかなか愉快な男だ。
2人が現実を受け入れ、チャーリーが着替えをしようと席を外したときに、またしても意外な客人が現れる。チャーリーを撃ち殺したアレキサンダーだ。人を殺したのに保釈金で出てきてしまうのはなんともすごい時代だが、ジョージに対してチャーリーを撃ち殺したことを悔やんでいると話す。妻のラスティを寝取られた怒りはあったものの「あんなに楽しい奴はいない。そんなチャーリーが好きだったよ」と告白。ルーは渋い演技を披露しつつ、お約束の「トゥギャザー」をせりふに盛り込んでくるところはさすがだ。
女性の姿になったチャーリーと会ってしまうアレキサンダーだが、自分を殺した恨みを晴らそうと殴りかかるチャーリーとのバトルはかなり笑える。
思いがけない客人が帰り、チャーリーは改めて女性として生きていくことについてジョージと考える。元来楽観的なのか、美しくグラマラスな女性に生まれ変われたことを喜び、それはそれで楽しんでみようと明るく語るチャーリーを「お前ならできる!」と励ますジョージ。
とりとめのない会話をしながら、時々「やっぱり女性になるのは無理!!」とパニックに陥るチャーリーがなんとも面白い。不安定な心境を表現豊かに演じる山本。舞台『Run For Your Wife』や舞台『吸血鬼すぐ死ぬ』で、山本一慶という役者の底力を見てきたが、今回もそれ以上の力量を見せつけられた気がする。そしてなんといってもチャーリーが可愛くて憎めなくて本当に魅力的なのだ。
女性として生きていくなら、女性らしいふるまいをしなければとダンスを踊るチャーリーとジョージのシーンは大きな見どころだ。ジョージは女性になったチャーリーにドキドキするようになる。
2幕では、女性の姿になったチャーリーが一夜明けて、ジョージ以外の人たちと会話を交わすシーンが繰り広げられる。1幕ではがさつだったチャーリーが、外見を整えたことで美しくなったことはもちろんのこと、所作も優雅になっていくのを山本は見事に演じていた。
特に注目したいのは、かつて不倫相手だったラスティと女性として会話するシーンだ。複雑な女心を酒の力を借りて吐露するラスティ。それを女性として受け止めなんともいえない寂しい表情になっていくチャーリー。最初は殺伐とした雰囲気で始まるものの、少しずつ変化していく2人の空気感は、本作のハイライトシーンといっていいかもしれない。
チャーリーは女性に転生したことで、生前に自分が関わった人たちが自分のことをどう思っていたのか知ることができた。それなりに苦い想いや切ない想いを味わうわけだが、それがあったからこそ自分の気持ちに素直になれる。女性の姿で暮らした2日間でチャーリーが気付いたことは何だったのだろうか。そしてかつて妻を寝取られてもチャーリーを憎むことができなかったジョージは、チャーリーに対してどのような感情を抱いていくのか。チャーリーとジョージが迎える結末をぜひ劇場で堪能してほしい。
本公演は2月25日(日)まで(1幕:75分/休憩:15分/2幕:60分)。この3連休はぜひ池袋・あうるすぽっとへ!
文:咲田真菜
舞台写真:オフィシャル提供(カメラマン:山副圭吾 (C) 2024.ロマンティックコメディ「さよなら、チャーリー」)
ロマンティックコメディ『さよなら、チャーリー』公演概要
作 :ジョージ・アクセルロッド
訳 :小田島恒志
演出:岡本さとる
製作:アーティストジャパン
日程:2024 年2 月16 日(金)~2 月25 日(日)
劇場:池袋あうるすぽっと
出演:山本一慶、井澤勇貴/大湖せしる、神谷敷樹麗、枝元萌、柳内佑介/ルー大柴
料金:S 席8,500 円 A 席7,500 円(税込・全席指定)
取り扱い:アーティストジャパン、チケットぴあ、イープラス、ローソンチケット
お問い合わせ:アーティストジャパン 03-6820-3500 https://artistjapan.co.jp/
公式サイト:https://artistjapan.co.jp/goodbye-charlie2024/
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