バロック音楽劇『ヴィヴァルディ -四季-』観劇感想 辰巳琢郎と高田翔が、親子の愛と葛藤を魅せる(写真あり)

カメラマン:井川由香 (C)2023-2024 ArtistJapan

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2024年1月6日(土)新国立劇場 小劇場にて、バロック音楽劇『ヴィヴァルディ -四季-』が、愛知公演、兵庫公演を経て開幕した。

バロック音楽の中でも人気が高いアントニオ・ヴィヴァルディの「四季」は、誰もが一度は聞いたことがあるヴァイオリン協奏曲。1723年にアントニオ・ヴィヴァルディが45歳の時に作曲したとされ、昨年、誕生から300年を迎えた。

本作は、アントニオの父・ジョバンニ・ヴィヴァルディが、息子と育んだ栄光と挫折の人生を四季になぞらえ、代表曲「四季」の生演奏とともに、サン・マルコ広場に近いカフェに集う人々との触れあいを希望あふれる物語として描いていく。

辰巳琢郎が演じる父・ジョバンニ・ヴィヴァルディは、息子の才能を見抜き成功へと導き、息子アントニオを演じるのは高田 翔。自身の才能で成功しながらも父の敷かれたレールの上で悩むナイーブな役どころを好演している。そんな親子を「親子喧嘩もカフェの名物!」と暖かく迎えるのは、一色采子が演じるカフェの女主人メリッサ。世話好きで明るく、ピエタ(孤児院)出身者たちのお母さん的存在だ。さらにジョヴァン二を父親のように慕うフランコ役の冨岡健翔、アントニオに想いを寄せるアンナ・マリア役の舞羽美海らが出演している。

筆者は2014年1月10日(水)14時の回を観劇した。極力ネタバレを少なくして感想をお伝えしよう。

ステージ上は物語の中心となるカフェと劇場をイメージした造りとなっており、ステージの奥で、花井悠希(ヴァイオリン) 林愛実(フルート) 山本有紗(電子チェンバロ)の3人が生演奏で物語を盛り上げる。この生演奏が心地良く、音楽を担当した中村匡宏がアントニオ・ヴィヴァルディの曲を魅力的に編曲している。

物語の冒頭、暗がりから辰巳が演じるジョバンニ・ヴィヴァルディが登場する。彼はすでに息絶えているのか、これまでの人生を回顧し、私たち観客をサン・マルコ広場に近いカフェに誘う。

辰巳は本作で48歳から81歳までを演じている。同サイト・エンタミーゴで取材をさせていただいたときも感じたが、長身でスラッとした体型が今回の衣装と非常にマッチしている。働き盛りの40代をエネルギッシュに演じる一方で、歳を重ねていくごとに動作がゆっくりとなり、白髪交じりの髪形に変化していく。しかしどれもいわゆる「イケオジ」で、ダンディなことこの上ない。

辰巳琢郎

もちろん見かけだけでなく、高田が演じる息子、アントニオへの深い愛情も随所に感じられる。低い身分に生まれたけれど、類まれな音楽の才能を持ったアントニオをなんとか世に出したいとあらゆる手を尽くすのは、名プロデューサーそのものだ。そして遠慮することなく行きつけのカフェで息子の自慢話をするところに、思わずクスッと笑ってしまう。

本来であれば、息子の自慢話ばかりする客は辟易するだろうが、それを温かく受け入れているのがカフェの女主人・メリッサを演じる一色だ。彼女が登場すると場面がパッと明るくなる。

一色采子

世話好きだけれどおせっかいではなく、一定の距離を保ちつつジョバンニとアントニオ親子を見守る。そしてジョバンニとメリッサが語り合うシーンは、ベテラン俳優の安定感ばっちりで、落ち着いて観られる。特に物語の後半、年老いたジョバンニが「君と出会った頃、君はすでに未亡人だった。それを聞いたときは少しうれしかった」とメリッサに打ち明け、当のメリッサが「何を言ってるの!」と笑い飛ばすところは、大人の余裕が感じられるとても良いシーンだと感じた。

そして名作曲家、アントニオ・ヴィヴァルディを演じた高田は、才能豊かで心優しい青年だが、心のどこかで父親の言うがままに人生を歩いている自分に疑問を持っている。

高田 翔

アントニオの才能を妬む人々から執拗に嫌がらせを受けたりするが、屈することなく己の道を究めようとする。しかしそれは父親のサポートがあったからこそ成しえたことだというのは、アントニオが壮年期に入ってようやく気付くのだ。古今東西、親子というものはヴィヴァルディ親子と同じなのかもしれない。高田は優しい青年から、父親に反発し背中を向けながらも父親を拒み切れない悶々とした気持ちを静かに表現していた。

そしてアントニオが影響を受けた2人の女性の存在も重要だ。一人はアントニオに想いを寄せる音楽家、アンナ・マリア(舞羽美海)、そしてアントニオがオペラ作品で成功するきっかけとなった歌手、アンナ・ジロー(青木梨乃)だ。

左から 舞羽美海、青木梨乃

音楽の才能にあふれながらも、アントニオを師として尊敬するだけでなく男性として思いを寄せるアンナ・マリア。一方で自分の感情をストレートに表現し、アントニオが作曲するオペラを見事に歌い上げるアンナ・ジロー。名前は同じだけれど、あまりにも対照的な2人の女性は、アントニオの音楽人生に大きな影響を与えていく。舞羽と青木はそれぞれ歌唱シーンがあるため、見事な歌声に酔いしれることができる。

舞羽美海
青木梨乃

そしてもう一人、忘れてはいけないのが、フランコを演じた冨岡健翔だろう。孤児であるフランコは、ジョバンニのことを実の父のように感じている。

冨岡健翔
左から 辰巳琢郎、冨岡健翔

アントニオへの深い愛情を目の当たりにして「親子っていいな…」と素直に言葉にできる純粋な青年だ。彼の見せ場は何といってもジョバンニに反抗するアントニオを一喝するところだ。彼が怒りの声を上げた瞬間、その場の空気がピリリとなり緊張感が走った。終始、ジョバンニを支えていく誠実なキャラクターは、この物語で存在感を放った。

一時はアントニオとジョバンニの関係は悪化するが、ジョバンニが年老いた頃に、2人は和解する。父親の深い愛情を知ったアントニオとジョバンニのシーンは、自らの父親や息子を思い出し、感慨深く感じる人も多いだろう。

左から 辰巳琢郎、高田 翔

そしてジョバンニは、自分の死期を悟り、アンナ・マリアにアントニオを支えるようにお願いする。ジョバンニは、最後の最後まで、息子のことを心配する父親なのだ。

左から 辰巳琢郎、舞羽美海

本作は、ヴィヴァルディ親子が歩んだ軌跡を、生演奏とともにみつめていく贅沢な作品だ。生演奏はもはやBGMではなく、作品の一部となっている。ヴィヴァルディの曲が好きな人は、本公演を観てかなり高い満足度が得られるだろう。

東京公演は1月14日(日)まで。音楽と芝居が見事に融合した作品を観に、ぜひ劇場に足を運んでほしい。

文:咲田真菜
舞台写真:カメラマン:井川由香  (C)2023-2024 ArtistJapan

目次

バロック音楽劇『ヴィヴァルディ -四季-』

◆愛知公演:2023年12月9日(土)・10日(日)ウインクあいち大ホール(公演終了)
◆兵庫公演:2023年12月27日(水)~28日(木)兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール(公演終了)
◆東京公演 :2024年1月6日(土)~14日(日)新国立劇場 小劇場

料金:S席8,800円 A席7,700円(税込・全席指定)
取り扱い:アーティストジャパン、チケットぴあ、イープラス、ローソンチケット

原案:伊藤 大、上演台本・演出:岡本さとる、音楽:中村匡宏

出演:辰巳琢郎 高田 翔 冨岡健翔 我 膳導 薗田正美 橋本巧望 市瀬秀和 須賀貴匡
舞羽美海 寿 三美 青木梨乃 浅井ひとみ 亜聖 樹 / 一色采子

演奏:花井悠希(ヴァイオリン) 林 愛実(フルート) 山本有紗(電子チェンバロ)

お問い合わせ:アーティストジャパン 03-6820-3500 https://artistjapan.co.jp/
公式ホームページ:https://artistjapan.co.jp/vivaldi/
X(旧Twitter) @aj_vivaldi

企画・製作:アーティストジャパン 
お問い合わせ:アーティストジャパン 03-6820-3500 https://artistjapan.co.jp/

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この記事を書いた人

国家公務員・一般企業勤務を経てフリーランスのライターになる。高校時代に観た映画『コーラスライン』に衝撃を受け、ミュージカルファンとなり、以来30年以上舞台観劇をしている。最近はストレートプレイも積極的に観劇。さらに第一次韓流ブームから、韓流ドラマを好んで視聴。最近のお気に入りはキム・ドンウク。

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