【インタビューVol.5】鳴海じゅんインタビュー「これからも進化し続ける鳴海じゅんでいたいです」

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元宝塚歌劇団の月組、星組に所属し、歌、ダンス、芝居の3拍子そろった実力派男役スターとして活躍をしてきた鳴海じゅんさん。特に歌は芝居やショーでソロを担当することも多く、その高い歌唱力に魅了された方も多いだろう。

2019年9月8日(日)、東京・銀座の「NU dish Deli & café」において、東京では久しぶりとなる単独ライブを開催した。今回のライブは8月7日(水)に発売された鳴海さんのファーストシングルCD「遥かな旅人~with all of my heart~」のお披露目ライブでもある。忙しい時間を割いてインタビューにも応じてくださったので、ライブの模様とあわせて鳴海さんの生の声をお届けしたいと思う。

ライブは、音楽プロデューサー・田中準子さんのピアノとゲストヴァイオリニスト・神山里梨さんの演奏による「You raise me up」で幕を開けた。しっとりとした空気に包まれた中、颯爽と鳴海さんがファーストシングルに収録されている「遥かな旅人~with all of my heart~」を歌いながら登場し、続けてジャズナンバーを披露。その後、宝塚時代からのファンにはお楽しみとなる宝塚タイムに突入する。

宝塚歌劇団の演出家、岡田敬二さんの代表曲「ジュテーム」「ル・ポワゾン」、続けて7月に亡くなった演出家の柴田侑宏さんを偲んで「花の業平~忍の乱れ」を歌うと、一気に男役・鳴海じゅんを思い出し、タイムスリップした気持ちになった。

今回のライブの最大の見どころとなったのが15分間の大作『ひとりベルばら』だ。『ベルサイユのばら』といえば宝塚歌劇団の代表的な作品だが、オスカル、アンドレ、マリー・アントワネット、フェルゼンをすべて一人で歌い演じるというもの。ベルばらのオープニングで歌われる♪ごらんなさい、ごらんなさい♪をかわいらしく歌うことから始まり、登場人物それぞれのテーマ曲を随所に演技を交えながら歌い、15分間演じ切ると会場からは大きな拍手が沸いた。「東京でお披露目してよかったー!」と鳴海さんはとびきりの笑顔を見せた。

たびたびMCで「今回は濃いライブなんですよ」とおっしゃっていたが、それもそのはず、このあと宝塚歌劇団のもう一つの看板作品ミュージカル『エリザベート』から「キッチュ」と「最後のダンス」を立て続けに披露。会場は熱気につつまれ一気にラストスパートへ。

有名なラテンのナンバー「グラナダ」を熱唱したあとは、ファーストシングルに収録されているロックなナンバー「ちょいちょいときてパーッとかっこつけて」をノリノリで披露した。続けて同じくファーストシングルの中から「Go My Own~揺るぎない自分へ~」

アンコールで再び「遥かな旅人~with all of my heart~」を歌い、90分間のライブはあっという間に終了した。

ライブ終了後はファン全員とハイタッチし、会場をあとにするファンを最後まで見送るなど、鳴海さんのファンを大切にする思いが感じられる光景を目にすることができた。

ここからは鳴海さんのインタビューを紹介したいと思う。

――素晴らしいライブでした! ご自身で「濃いライブ」とおっしゃっていましたが、単独ライブはいつもこういう感じですか?

そうですね。私はわりとてんこ盛りで歌ってしまうタイプで、お客さんに楽しんでもらえたらという思いで選曲をしています。今回は久しぶりの東京なので、東京の皆さんに「今はこういうことをしているよ」というのを綴るライブにプロデュースしてもらいました。『ひとりベルばら』は、東京でのお披露目の企画なんですよ。

――宝塚時代の鳴海さんの歌声がすごく好きでした。星組時代のショー『サザンクロスレビューⅡ』で、香寿たつきさんと彩輝直(現:彩輝なお)さんが踊る中、女役として歌っていたシーンが印象的でしたが、今日久しぶりに歌声を聴いて宝塚時代よりパワーアップしている感じがしました。退団後はライブ活動に力をいれていらっしゃいますが、どういったことを意識していらっしゃいますか?

パワーアップしているというのは、一番うれしいお言葉です。進化していきたいというのが自分のテーマなのです。

宝塚退団後も、宝塚の男役ということを自分のカラーにして活動をしていきたいと思っていました。現在は歌を中心に舞台やライブ、ディナーショーを行っています。最近は男役をコンセプトに活動している若手の子が多くなってきて頼もしく感じているのですが、私が退団した頃はあまりそういう方がいらっしゃらなかったのです。宝塚歌劇団で育ててもらった自分が持っているものを進化させて、もっとかっこいいって思ってもらえるシンガーになりたいと思っています。

今日のようなライブは、宝塚の現役時代はできなかったのですが、宝塚をご存知ない全国の方々にステージを観ていただいて宝塚を好きになってもらい、宝塚のいいところを宣伝して伝えていきたい。そういう思いで活動を続けさせていただいています。

――今日のライブは鳴海さんの宝塚時代を知らない方でも楽しめる内容でした。ジャズ、ミュージカル、宝塚、ラテン、ロック、いろいろなジャンルの歌を歌っていらっしゃることにびっくりしました。MCでジャズを勉強されているというお話がありましたが…?

ライブの中でもお話をしましたが、東京キューバンボーイズやアロージャズオーケストラの皆さんとステージに立つ機会をたくさん与えていただいています。アロージャズオーケストラは関西のビッグバンドですけれども、今年の10月にもアロージャズオーケストラのライブに出演する予定となっています。そのような機会を与えていただいているので、勉強してレパートリーを増やしていきたいなというところです。

――これから挑戦していきたいジャンルはありますか?

今回発売されたファーストシングルCDもいろいろなカラーを出したいと思って、さまざまなジャンルの歌を入れました。ジャンルにとらわれず、与えていただいたものに自分が染まれるようなシンガーになれたらいいなと思っていますし、まだまだ先かもしれませんが、宝塚の原点となるシャンソンに挑戦していければいいなと思います。シャンソンは難しいですし、奥が深いですからね。

――シャンソンもきっと合うでしょうね。ライブ中に鳴海さんが「私が歌うと夜の雰囲気になってしまう」とおっしゃっていましたが…

そうなんですよ。声が低いので「ミッドナイトアワー」ってなってしまう(笑)。今後は大人っぽい曲にも挑戦してみたいし、本来のエネルギッシュな部分も持ち続けていきたいですね。今だからできる、宝塚の現役時代ではない鳴海じゅんということで、歌える曲をいっぱい増やしていきたいと思います。

――個人的にはどういうジャンルの曲が好きですか?

宝塚音楽学校に入ってまず習うのは基礎的な部分なのでクラシックから始めますが、音楽学校に入って初めてカンツォーネに出会いました。カンツォーネが好きで、特にカンツォーネのポピュラーソングにすごくはまりました。宝塚の公演でも歌うことが多かったですからね。

――現在はプレーヤーとしてだけでなく、歌を教えていらっしゃるとのことですが、これはどういう形で活動をされているのですか?

宝塚音楽学校を目指す受験生を中心に、老若男女問わず下は幼稚園生や小学生を教えています。趣味で歌いたいという人はもちろんのこと、この間は童謡コンクールにチャレンジをしたいという小学生が来て1次審査を通過しました。『レ・ミゼラブル』のオーディションを受ける人も来られていました。

遠方の人は歌っているところを動画配信してもらってアドバイスをしています。福岡県の方がレッスンを受けていますし、今日も長野県の生徒さんのお母さんがライブに来てくださいました。

人前で声を出す人が苦手という人には立ち居振る舞いのレッスンをしたりして、生徒さんが希望されるものを教えています。まずはお問合せいただいて、その上でいろいろなレッスンをしていきたいなと思っています。

――教える立場になって、何か変化はありましたか?

まずは人の内面的なものを感じ取れるようになりました。歌を歌うということは、ものすごくその人の精神状態が現れると思いましたし、自分もそうだなと感じたのです。歌を歌う技術を教えるというよりも、一人ひとりのメンタルに寄り添いながら歌を楽しんでもらえる、歌うことが大好きになってもらうレッスンにしたいというところがあります。悲しいな、今日はしんどいなというときは、声が出ないじゃないですか。半分カウンセラーみたいな感じですね。でもそういう気持ちでやっていれば、レッスンをして楽しかったとか、今日は元気になれたとか、歌が上手になったと言ってもらえるようになったと、喜んでまた来てくれたりするんですね。

現役で宝塚の舞台に立っている子や音楽学校の生徒も来ますし、それこそ宝塚OGの子も来るんですよ。今日ライブに来てくれた綺華れいさんも私と一緒に舞台に立ちながらも、歌のレッスンがしたいと来てくれています。みんな真面目でしょ?(笑)そういう気持ちがうれしいですよね。一緒に上へあがっていきたいという思いがあるので、私は「一緒に上手くなるための良いところ探しの旅に出ようね」と言ってレッスンをしています。

――教えることとプレーヤーを一緒にやることで、相乗効果がありそうですね。

自分にとっては、学びになることのほうが多いかもしれません。どこまで教えることができているのか分からないのですが、自分に返ってくることのほうがものすごく大きいので、これからも新たな未来の形として、歌を教える立場を続けていけたらいいなと思っています。

――これからどういった活動をしていきたいと思いますか?

皆さんの望む鳴海じゅんで居続けたいです。宝塚を退団した後、いろいろ迷って一度は髪を伸ばしてスカートをはいてみたりもしたんですが、「私は男役の姿でいることが自然やな」と思った時にファンの皆さんがついてきてくれたし支持をしてくださいました。実は宝塚OGになってからファンになってくださった方が多いので、すごくうれしいんですよ。今回リリースしたCDのコンセプトも男役というよりはピュアな自分という感じで、実はCDのジャケットが男性にとても好評なんですよ。

だからこのままのキャラで居続けられたらと思います。そしてプラスアルファとしてこんなこともできるんだという新たなカラーやいろいろな歌のジャンルに挑戦することで「女性の鳴海じゅん」も感じていただける舞台人になれたらいいなと思います。

取材・文・撮影:咲田真菜

ファーストシングル「遥かな旅人〜with all of my heart〜」

2019年08月07日発売
価格:1,389円(税抜)

タイトル
1.遥かな旅人 ~with all my heart~
2.Go My Own ~揺るぎない自分へ~
3.遥かな旅人 ~with all my heart~ (Instrumental)
4.Go My Own ~揺るぎない自分へ~ (Instrumental)
5.ちょいちょいときてパーッとかっこつけて

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