2025年4月27日(日)渋谷の東急シアターオーブで開幕した、ミュージカル『キンキーブーツ』。開幕直前の26日(土)に行われた囲み取材&公開ゲネプロ(東啓介&甲斐翔真Ver.)の様子をリポートする。
『キンキーブーツ』は、2013年のトニー賞で最多13部門にノミネートされ、作品賞、主演男優賞、オリジナル楽曲賞など6部門を受賞したブロードウェイミュージカル。日本では2016年に初演、2019年、2022年に再演され、チケットは全公演即日SOLD OUT。4度目の上演となる今回はメインキャストがほぼ一新。経営不振の靴工場の跡を継いだチャーリーを東啓介と有澤樟太郎、ドラァグクイーンのローラを甲斐翔真と松下優也、靴工場の従業員ローレンを田村芽実と清水くるみがダブルキャストで演じる。
【あらすじ】
舞台はイギリス。父の死去により、経営不振に陥った田舎の靴工場の新社長となったチャーリー。子供のころから知っている従業員たちを解雇しなければならない事態に直面し、途方に暮れる。従業員の一人であるローレンに「新しい市場を開発するべきだ」と言われたチャーリーは、ドラァグクイーンのローラをデザイナーに迎えてドラァグクイーンのためのブーツ“キンキーブーツ”を作り始める。型破りなローラと保守的な田舎町の従業員たちの間に確執が起こるなか、工場の命運をかけて、チャーリーはミラノの見本市にキンキーブーツを出すことを決める……。
劇場ロビーで行われた囲み取材には、ダブルキャストでチャーリーを演じる東啓介と有澤樟太郎、同じくダブルキャストでローラを演じる甲斐翔真と松下優也、そして演出・振付のジェリー・ミッチェルが登壇。やや緊張の面持ちで始まった質疑応答だったが、松下が「ローラ役の松下優也です」とローラの所作で挨拶して笑いを誘うと、一気に砕けた雰囲気に。度々笑いが起こる取材になった。主な質疑応答は下記の通り(一部抜粋)。

ーー明日に初日を控えた、今の気持ちをお願いします。
ミッチェル:最高の気分です。わくわくしていますし、自信に満ちあふれています。どういう状態かというと、皆さん「フルアウト」です。
東:通し稽古を結構やらせていただいたんですが、ようやく明日、皆さんの前で、新しいキャストになった「キンキーブーツ」をお見せできるのを楽しみにしております。
有澤:チャーリー役を演じさせていただきます有澤樟太郎です。クリエイター・スタッフの皆さんに「キンキーブーツ」という作品、チャーリー・プライスという人物の生き方を教えていただき、最後にジェリーに魔法をかけてもらった気分です。カンパニーとしては、士気が最上級に上がっている状態で、本番までにやり残したことはまったくないです。早くお客様に見ていただいて、2025年の「キンキーブーツ」を完成させたいという気分です。
甲斐:ローラを演じます甲斐翔真です。稽古に入る前までは、本当に初日が来るんだろうかというくらい現実味がなかったんですが、これからゲネプロがあって、明日初日というところになりました。この作品は最後のピースとしてお客様が入った瞬間に出来上がるものだとつくづく思いますので、明日の初日が楽しみでしょうがないです。
松下:皆様ごきげんよう、松下優也役のローラです。(一同笑い) もう今はこういう気分です。「キンキーブーツ」、リスペクトをもって稽古初日から挑ませてもらいました。いつも松下優也さんは舞台が始まる前、ゲネプロの前、初日の前は緊張が大きいらしいですが、私ローラはライブ直前かのような高揚感がすごい状態です。すごく楽しみです。
ーーローラ役のお二人、今日、鏡を見てどう思われましたか。
ミッチェル:美しい!
甲斐:今、ミッチェルにも言っていただきましたが、120点です。プロの方々の腕、凄くないですか? 甲斐翔真がちゃんとローラになっています。全身を鏡で見てそう思いました。
ーー準備はどのくらいかかったのでしょうか。
甲斐:だいたい1時間半もかからないくらいです。
ーー松下さんはいかがでしょうか。
松下:今、この渋谷が明るいのは私がいるから! (一同笑い) 何かスイッチが入るような感じがありますね。翔真君が言ってくれたように、ヘアメイクさん、衣装さん、皆さんでローラっていう存在を作り上げてくださっているので感謝しています。メイクもすればするほど、どんどんブラッシュアップされていくし、自分たちからも「もっとここをこうした方が」というのが出てきたりしています。だから今日が最高の状態。でも、明日はもっと最高かも。
ーー身体づくりもされているのでしょうか。
甲斐:ヒールを履いていると、おのずとヒール筋みたいなものができてくるんです。
ミッチェル:この靴を見てください! こういう靴で踊るというのは、本当にすごいことなんです。

ーー皆さん身長が高くて、稀に見る高身長チームになっています。いつも(他の現場)と違うことはありますか。
有澤:ありますね。僕はいつもお芝居するときこう(下を向く)なることが多いんですが、今回はめっちゃ見上げながらやる芝居が多くなって、新鮮です。
ーーミッチェルさんにお伺いします。今回新しいキャストになりましたが、いかがでしょうか。
ミッチェル:この『キンキーブーツ』という作品は、若い男性が本当の自分を見つけたり、自分に誠実であるとはどういうことかを発見したりしていく物語だと思っています。ここにいる若い4人は、日本のチームの皆さんの導きなどによって、それぞれの方法で自分の役を形づくっていっていると感じています。
ーーキャストの皆さんは、これまでのこの作品を見てきていると思います。今回、オーディションで選ばれ、見ているのと実際に自分が演じるのでは「違うな」と感じた部分はありますか。
東:セリフが結構な量なんです。『キンキーブーツ』という作品には決まった時間があって、その中でどんどんセリフを喋って、物語を進めていかなくてはいけないというのは、慣れが必要でした。見ている側とやっている側では全然違います。ローラなんて、何回も衣装やメイクが変わっていくので、そういう大変さもあると思います。
有澤:僕はもう楽しくて仕方ないです。ずっと夢に見ていた『キンキーブーツ』なので。見ていた時との違い、自分がやってみて感じた違いっていうのは、こんなにもエネルギーが必要なんだということです。それは、本当にやってみて感じました。
甲斐:初演から毎公演見させていただいていますが、こんなにもローラって休憩がないんだっていう……。引っ込む度に衣装を変えて、化粧も落としたりして。幕間もメイクがあって、始まったら終わるまでが一瞬。「あれ、何やってた?」って感じです。考える間もなく、ただローラを生きるっていう、凄く貴重な体験をさせていただいていると思います。
ミッチェル:今、翔真が言ったことについてちょっと。初めてニューヨークでこの作品をやってたときに、本番後ビリー・ポーター(当時のローラ役)を家に送って行くことがありました。タクシーの中で彼に「今日どうだった」と聞いたら、「今日、本番やりましたっけ? あまりにも一瞬で、本番をやったかどうかわからない」と。翔真が言ったように「始まったら終わるまで一瞬」という体感なのでしょうね。
松下:チャーリーとローラだと、メイクもあるのでローラの方が大変かなと思っていました。ただ、稽古に入ると、チャーリーはソロ曲も多いしセリフ量も多いので、意外とチャーリーの方が大変なのかもしれない。でも、劇場(での稽古)に入ったら、やっぱり私たち(ローラ)の方が大変だなと。翔真君の言うように、休憩する暇がない。驚くほどにない。ローラの最初の登場シーンは遅いのですが、登場してからは終わるまで、休憩時間でさえもメイクです。すべてがギリギリですので、本当にスタッフさんは素晴らしいです。ローラは舞台に出ていない時間も常に何かをやっています。
ーー『キンキーブーツ』は多くの観客に愛されている作品です。愛されている理由は何だと思われますか。
ミッチェル:この作品が愛される理由は、この作品が「我々の物語」だという点にあると思います。『キンキーブーツ』を見に来てくださるお客様は、必ず舞台上に自分自身(と重なる人物)を見つけ出すことができると思います。それはローラであったりチャーリーであったり、ローレンやドンであるかもしれない。または工場の従業員の一人かもしれないし、エンジェルスの一人であるかもしれません。そして、コミュニティの中でお互いに受け入れ合うことによって、最高の自分であれるようになるというところが、本作が愛される理由ではないでしょうか。
東:もう何も言うことがないくらい、ミッチェルが言ってくれちゃったな。そうですね、やはりミュージカルなので音楽のすばらしさも(愛される理由として)ありますし、ミッチェルの言うように、舞台上に生きている皆に観客の皆さんが自分を投影できるということもあると思います。チャーリーの成長やローラの言葉に感銘を受けたり、気付かなかったことに気付いたり、そういうことがちりばめられている作品ではないかと思います。
松下:愛される理由、それは私たちが最高だからじゃない?(一同笑い)すごくゴージャスだし、とてもファビュラスな、照明やLEDが煌々として華やかな世界で……でも、とても小さな繊細な部分もある。ダイナミクスとの差が『キンキーブーツ』で僕が好きな点でもあります。ローラは派手な存在で、派手なパフォーマンスをするけれど、根底にはサイモンという存在や、過去があります。そうした部分で見ている皆さんに寄り添うのだと思います。こちらから一方通行でお客様にお届けするだけの作品ではないところが、愛される理由なのではないしょうか。本当の自分を探し求めるあなたに寄り添う作品ではないかと思います。

囲み取材の後はゲネプロ。今回、ゲネプロは26日と27日の2回行われ、26日のキャストは、チャーリー東啓介、ローラ甲斐翔真、ローレン田村芽実。

物語は、チャーリーが靴工場を継いでほしい父の意に反して田舎を出るところから始まる。ロンドンでチャーリー新生活が始まる……と思ったら、すぐに父急逝の知らせが届き、田舎にとんぼ返り。靴工場を継いだ途端に経営難が発覚し、従業員を解雇しなければならない事態に直面し、ロンドンで出会ったドラァグクイーンのローラをデザイナーに招き、ドラァグクイーン用の赤いブーツを作り始める……。

幕が上がると物語はノンストップ。あっという間に一幕が終わってしまい、囲み取材でローラ役の甲斐が言っていた「始まったら終わるまでが一瞬」という言葉が頭をよぎる。とはいえ、初見でも物語についていけないということはない。セリフや歌を通して、状況やそれぞれの気持ちを追っていくことは十分にできる。



ただ、靴工場のデザイナーになったローラ(甲斐)が、古参の従業員たちにあわせるために男性の恰好をして登場するシーンでは、一瞬、誰が出てきたのか分からなかった。ドラァグクイーン姿では圧倒的な存在感を放っていたローラが、メイクを落としドレスをスーツに、ハイヒールから革靴になったとたん、線の細い気弱そうな青年になってしまう。甲斐はハイヒールを脱いでも、身長190センチの東演じるチャーリーとさほど変わらない長身であるにもかかわらず、一回りも二回りも小さくなってしまったように見える。別の人が演じているのではないかと思うほどの落差からは、男性の姿をした自分らしくない自分に、本来の自信や誇りを失いかけたローラの苦しさが伝わってくるようだった。


2幕も1幕同様のスピード感で進んでいく。工場の命運をかけてミラノの見本市に出ることを決めたチャーリーは、気負いすぎてローラや従業員たちとすれ違ってしまう。一人になって自分の振る舞いを振り返って落ち込むチャーリーをローレンが励まし、従業員たちと和解して、舞台はミラノの見本市に移り、ラストは客席から自然と手拍子と歓声が上がる幕切れ。

最初から最後までほぼ出ずっぱりのチャーリー(東)。空回りして落ち込み、大きな体を丸めるようにしてローレン(田村)と話すシーンでは子犬のようにも見えたが、長い手足を生かした大きな動きと、その豊かな声量で、ドラァグクイーン姿のローラ(甲斐)と並んでも引けを取らない存在感を発していた。その2人が並んで歌い踊るのだから、ラストシーンは圧巻だった。



あっという間に幕が下り、華やかなショーの余韻の中で思い出すのは、囲み取材の際、演出・振付のジェリー・ミッチェルが言っていた、「登場人物の中に自分と重なる人物がみつかるはず」という言葉。自分の性格や考え方に近い人物は誰か、こうありたいと思う人は誰か、確かに考えさせられた。
取材・文・撮影:春木 光

ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』公演概要
東京公演:2025年4月27日(日)~5月18日(日) 東急シアターオーブ
≪チケット料金≫
【平日】S席:15,000円/A席:12,000円/B席:8,000円 (全席指定・税込)
【土日祝】S席:16,000円/A席:12,500円/B席:8,500円 (全席指定・税込)
大阪公演:2025年5月26日(月)~6月8日(日) オリックス劇場
≪チケット料金≫
【平日夜】S席:15,000円/A席:12,000円/B席:10,000円/C席:8,000円/D席:6,000円
【土日祝・平日昼】S席:16,000円/A席:12,500円/B席:10,500円/C席/8,500円/D席:6,500円
【CAST】
CHARLIE PRICE(チャーリー・プライス):東 啓介 ・ 有澤樟太郎
LOLA / SIMON(ローラ / サイモン):甲斐翔真 ・ 松下優也
LAUREN(ローレン):田村芽実 ・ 清水くるみ
NICOLA(ニコラ):熊谷彩春
DON(ドン):大山真志
GEORGE(ジョージ):ひのあらた
PAT(パット):飯野めぐみ
TRISH(トリッシュ):多岐川装子
HARRY(ハリー):中谷優心
ANGELS(エンジェルス):穴沢裕介、佐久間雄生、シュート・チェン、大音智海、工藤広夢、轟 晃遙
ANGELS/SWING(エンジェルス/スウィング): 本田大河、長澤仙明
SIMON SR.(サイモンシニア):藤浦功一
MR.PRICE(ミスタープライス):石川 剛
RICHARD BAILEY(リチャード・ベイリー):聖司朗
MARGE(マージ):舩山智香子
MAGGIE(マギー):伊藤かの子
GEMMA LOUISE(ジェンマ・ルイーズ):熊澤沙穂
HOOCH(フーチ):竹廣隼人
MUTT(マット):趙 京來
YOUNG CHARLIE(ヤングチャーリー):奥田奏太、星 駿成、村山董絃
YOUNG LOLA(ヤングローラ):古澤利音、見﨑歩誠、髙橋維束
SWING:上條 駿、加藤文華
【Creative Staff】
脚本:ハーヴェイ・ファイアスタイン
音楽・作詞:シンディ・ローパー
演出・振付:ジェリー・ミッチェル
日本版演出協力・上演台本:岸谷五朗
訳詞:森雪之丞
【オフィシャルサイト】
http://www.kinkyboots.jp/
【オフィシャルX/オフィシャルInstagram】
@Kinkybootsjp
【主催】
アミューズ・フジテレビジョン・サンライズプロモーション東京
【企画・製作】
アミューズ