ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』有澤樟太郎&松下優也Ver. ゲネプロレポート

左から 松下優也、有澤樟太郎(撮影:咲田真菜)

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ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』が、東急シアターオーブ(東京)にて上演中だ。

経営不振に陥った老舗の靴工場の跡取り息子チャーリーがドラァグクイーンのローラに出会い、差別や偏見を捨て、ドラァグクイーン専門のブーツ工場として再生する過程が描かれた同名イギリス映画(2005年公開)をミュージカル化。シンディ・ローパーのパワフルで魅力的な書き下ろしの楽曲の数々が話題を集め、今なお人気を集める大ヒット作品だ。日本では、2016年に初演、2019年、2022年に再演され、全公演SOLD OUT。4回目の上演となる今回はメインキャストがほぼ一新され、チャーリー、ローラ、ローレンの主要3役がWキャストとなった。

筆者は初日に先立ち行われた、チャーリー役・有澤樟太郎、ローラ役・松下優也、ローレン役・清水くるみによるゲネプロ公演を取材したので、その模様をお伝えしよう。

左から 熊谷彩春、有澤樟太郎(撮影:咲田真菜)

イギリスの田舎町・ノーサンプトンの老舗の靴工場「プライス&サン」の4代目として産まれたチャーリー・プライス(有澤樟太郎)は、靴工場の跡継ぎを望む父親の意向に反して、婚約者の二コラ(熊谷彩春)とロンドンで生活を始める。田舎町にウンザリしていた2人は、都会で新しい生活をスタートさせウキウキしていたが、その矢先にチャーリーの父が急死。チャーリーは、やむを得ずノーサンプトンに戻り靴工場を継ぐのだが、経営難で倒産寸前だったことを知り、途方に暮れる。

有澤樟太郎(撮影:咲田真菜)

チャーリーを演じる有澤は、苦労知らずのボンボンといった風情を上手く醸し出している。品が良く、誰にでも紳士的に接する一方で、ひとつのことに情熱を傾けられず、どこか世の中を冷めた目で見ているふしがある。靴作りに対しても、チャーリーなりのこだわりがあるものの、父親のように情熱を傾けられないところにジレンマがあるようだ。婚約者の二コラが熱い視線を送る高級な赤い靴をやんわりと否定するところに、靴屋の4代目としてのプライドが見え隠れする。

有澤の演技で、チャーリーがどんなキャラクターなのか、観客は序盤でしっかり把握することができた。そんなチャーリーが倒産寸前の靴工場を立て直すべく奔走している時に出会ったのが、ドラァグクイーンのローラ(松下優也)だ。男性に絡まれていたローラを助けようとしたのがチャーリーだったのだが、華やかに歌い踊るローラを見て、少々気後れするチャーリー。

松下優也(撮影:咲田真菜)

松下は、ダイナミックでありながらも繊細な心を持つローラを見事に演じていた。初日前会見ではローラになり切ってコメントをしていたが、ローラが持つ感情や心の痛みをきめ細やかな演技でみせた。

筆者は、ミュージカル『イン・ザ・ハイツ』で松下を初めて観て以来注目しており、今回のローラ役を楽しみにしていた。期待を裏切らない出来栄えで、とりわけチャーリーとの間に友情が生まれる瞬間の楽曲「Not My Father’s Son」には、泣かされた。ボクサーとして大成できなかったローラの父親が、息子に対して望んでいた夢、それを叶えてあげられなかったローラの複雑な気持ちを歌うシーンなのだが、松下の情感のこもった歌唱が深く心に刻まれた。

有澤樟太郎、松下優也(撮影:咲田真菜)

ローラの「すぐにブーツが壊れてしまうの」という言葉をヒントに、ドラァグクイーンが履くブーツを作って靴工場を立て直そうとするチャーリー。靴工場で働く従業員のローレン(清水くるみ)が「ニッチなところに目をつけたらどうなの?」とアドバイスしたことでひらめいたアイデアだった。

清水くるみ(撮影:咲田真菜)

ローレンを演じる清水は、キュートで少しおっちょこちょいなキャラクターを魅力的にみせた。清水は今年の2月に上演されたミュージカル『ミセン』で、主人公グレの同期インターン社員・ヨンイを演じ存在感を示していたが、今回もソロの見せ場となる「The History of Wrong Guys」を見事に歌いこなした。

チャーリーに頼まれてデザイナーとして一緒に仕事をすることになったローラは、靴工場の現場主任・ドン(大山真志)から偏見のまなざしで見られたりするが、持ち前の明るさと優しさで、チャーリーの靴工場で、なくてはならない存在になっていく。

大山真志、松下優也(撮影:咲田真菜)
(撮影:咲田真菜)
有澤樟太郎(撮影:咲田真菜)

初めて夢中になれるものを見つけたチャーリーは、ドラァグクイーンが履く「キンキーブーツ」の製作に没頭していく。そしてローラの「ブーツの色はレッド!!」の言葉どおりの品が出来上がった。その喜びを爆発させ、1幕ラストでキャスト全員が歌い踊る「Everybody Say Yeah」は圧巻だ。

(撮影:咲田真菜)
有澤樟太郎、松下優也(撮影:咲田真菜)

2幕では、キンキーブーツをミラノの見本市に出展しようと意気込むチャーリーと靴工場のメンバー、そしてローラの間に亀裂が入る。初めて夢中になれるものを見つけたチャーリーは、チャンスを逃したくないと強引に自分の考えをまわりに押し付ける。そんなチャーリーに憤った工場の従業員はそっぽを向き、ローラもひどい言葉を投げつけてきたチャーリーに背中を向ける。

松下優也、有澤樟太郎(撮影:咲田真菜)

仲間を失ったチャーリーは、初めて彼らがかけがえのない存在だと思い知る。ここで歌う有澤のソロ「Soul of a Man」は、絶唱という表現がぴったりはまる。チャーリーの後悔と悲しみがひしひしと観客に伝わってきた。落ち込むチャーリーをローレンが励まし、再びチャーリーは立ち上がる。

有澤樟太郎(撮影:咲田真菜)
清水くるみ、有澤樟太郎(撮影:咲田真菜)

ミラノの見本市で奮闘していたチャーリーのもとに戻ってきたローラ。颯爽と登場し、エンジェルスの仲間たちとともにランウェイを闊歩する姿は圧巻だ。

(撮影:咲田真菜)

筆者はこれまで、松竹ブロードウェイシネマで上映されたミュージカル『キンキーブーツ』しか観たことがなく舞台観劇は初めてだったが、改めてシンディ・ローパーの楽曲の素晴らしさを実感した。そして、ラストで歌い上げる「Raise You Up Just Be」のタイトルどおり、自分らしく生きることの大切さを教えてくれる作品だった。

本公演は、 東急シアターオーブで5月18日(日)まで上演。そのあと大阪・オリックス劇場で5月26日(月)~6月8日(日)まで上演される。チャーリー・東啓介、ローラ・甲斐翔真、ローレン・田村芽実Ver.も全く違う魅力があり、運よくチケットをゲットできた人は、ぜひどちらのバージョンも楽しんでいただきたい。

取材・文・撮影:咲田真菜

目次

ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』公演概要

東京公演:2025年4月27日(日)~5月18日(日) 東急シアターオーブ
≪チケット料金≫
【平日】S席:15,000円/A席:12,000円/B席:8,000円 (全席指定・税込)
【土日祝】S席:16,000円/A席:12,500円/B席:8,500円 (全席指定・税込)

大阪公演:2025年5月26日(月)~6月8日(日) オリックス劇場
≪チケット料金≫
【平日夜】S席:15,000円/A席:12,000円/B席:10,000円/C席:8,000円/D席:6,000円
【土日祝・平日昼】S席:16,000円/A席:12,500円/B席:10,500円/C席/8,500円/D席:6,500円

【CAST】
CHARLIE PRICE(チャーリー・プライス):東 啓介 ・ 有澤樟太郎
LOLA / SIMON(ローラ / サイモン):甲斐翔真 ・ 松下優也
LAUREN(ローレン):田村芽実 ・ 清水くるみ
NICOLA(ニコラ):熊谷彩春
DON(ドン):大山真志
GEORGE(ジョージ):ひのあらた
PAT(パット):飯野めぐみ
TRISH(トリッシュ):多岐川装子
HARRY(ハリー):中谷優心
ANGELS(エンジェルス):穴沢裕介、佐久間雄生、シュート・チェン、大音智海、工藤広夢、轟 晃遙
ANGELS/SWING(エンジェルス/スウィング): 本田大河、長澤仙明
SIMON SR.(サイモンシニア):藤浦功一
MR.PRICE(ミスタープライス):石川 剛
RICHARD BAILEY(リチャード・ベイリー):聖司朗
MARGE(マージ):舩山智香子
MAGGIE(マギー):伊藤かの子
GEMMA LOUISE(ジェンマ・ルイーズ):熊澤沙穂
HOOCH(フーチ):竹廣隼人
MUTT(マット):趙 京來
YOUNG CHARLIE(ヤングチャーリー):奥田奏太、星 駿成、村山董絃
YOUNG LOLA(ヤングローラ):古澤利音、見﨑歩誠、髙橋維束

SWING:上條 駿、加藤文華

【Creative Staff】
脚本:ハーヴェイ・ファイアスタイン
音楽・作詞:シンディ・ローパー
演出・振付:ジェリー・ミッチェル
日本版演出協力・上演台本:岸谷五朗
訳詞:森雪之丞

【オフィシャルサイト】
http://www.kinkyboots.jp/
【オフィシャルX/オフィシャルInstagram】
@Kinkybootsjp

【主催】
アミューズ・フジテレビジョン・サンライズプロモーション東京
【企画・製作】
アミューズ


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この記事を書いた人

国家公務員・一般企業勤務を経てフリーランスのライターになる。高校時代に観た映画『コーラスライン』に衝撃を受け、ミュージカルファンとなり、以来30年以上舞台観劇をしている。最近はストレートプレイも積極的に観劇。さらに第一次韓流ブームから、韓流ドラマを好んで視聴。最近のお気に入りはキム・ドンウク。

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