映画『ロボット・ドリームズ』感想 期待感が一切裏切られない102分間! 

© 2023 Arcadia Motion Pictures S.L., Lokiz Films A.I.E., Noodles Production SARL, Les Films du Worso SARL

Google

2024年11月8日に日本で劇場公開されたアニメーション映画『ロボット・ドリームズ』。第96回アカデミー賞長編アニメーション映画賞にノミネートされた本作品は日本の観客の心もとらえ、異例のロングランヒットとなっている。

ほのぼのとしたタッチで描かれた主人公・ドッグとロボットが、アース・ウィンド・アンド・ファイアーの『セプテンバー』に合わせてリズミカルに踊る予告映像は、間違いなく本作品のひとつの大きな魅力を伝えている。

だがこのティーザーを見て、子ども向けの、あるいは、かわいらしくて楽しいものが好きな人だけのためのエンターテインメント作品だと思い込んでいるのだとしたら、それは大きな誤解だ。

これは、人生の哀歓を知る大人だからこそ真に味わえる作品なのだから。

原作は米国の作家、サラ・バロンのグラフィック・ノベル。脚本・監督のパブロ・ベルヘルは、『Torremolinos 73』などの作品を世に送り出した奇才で、ニューヨーク居住経験のあるスペイン人。本作品はベルヘル監督が初めて手掛けたアニメーション映画である。

<ストーリー>
大都会ニューヨーク。ひとりぼっちのドッグは、孤独感に押しつぶされそうになっていた。そんな物憂げな夜、ドッグはふと目にしたテレビCMに心を動かされる。数日後、ドッグの元に届けられた大きな箱――それは友達ロボットだった。セントラルパーク、エンパイアステートビル、クイーンズボロ橋……ニューヨークの名所を巡りながら、深い友情を育んでいくドッグとロボット。ふたりの世界はリズミカルに色づき、輝きを増していく。しかし、夏の終わり、海水浴を楽しんだ帰りにロボットが錆びて動けなくなり、ビーチも翌夏まで閉鎖されてしまう。離れ離れになったドッグとロボットは、再会を心待ちにしながら、それぞれの時を過ごす。やがてまた巡りくる夏。ふたりを待ち受ける結末とは――。

© 2023 Arcadia Motion Pictures S.L., Lokiz Films A.I.E., Noodles Production SARL, Les Films du Worso SARL
© 2023 Arcadia Motion Pictures S.L., Lokiz Films A.I.E., Noodles Production SARL, Les Films du Worso SARL
© 2023 Arcadia Motion Pictures S.L., Lokiz Films A.I.E., Noodles Production SARL, Les Films du Worso SARL
© 2023 Arcadia Motion Pictures S.L., Lokiz Films A.I.E., Noodles Production SARL, Les Films du Worso SARL
目次

(以下、ネタバレあり感想)

舞台は1980年代のニューヨーク。登場するのは擬人化された動物たち。セリフなしで物語は展開する。

孤独に暮らす主人公・ドッグは、「友達ロボット」と出会い、友情を育んでゆく。ところが夏のある日、海水浴を楽しんだ後、ロボットは錆びて動けなくなってしまう。その日を最後に、翌年の夏までビーチは閉鎖。頑丈なフェンスが張り巡らされ、ドッグがロボットを救える術はない。

離れ離れになったまま、秋が来て、冬が過ぎ、春を迎える。ドッグとロボットはそれぞれに、せつない夢を見る。そんな姿を見た観客の多くはおそらく、この「ふたり」が再会し、ふたたび楽しく暮らせるようになるエンディングを願っただろう。しかし、そんな理想的な結末だったとしたら、この作品がこれほど人気を博することはなかったかもしれない。

シンプルなハッピーエンドではない。だが、ネガティブな幕引きというわけでもない。その結末に自らの経験を重ね合わせながら、すぐそばにいる特別な誰か、遠くにいる特別な誰か、今は亡き特別な誰かとの出会いの尊さをかみしめ、多くの大人たちが涙しているのだろう。

筆者は映画を鑑賞した後に原作本を手に取った。映画のストーリーは、ほぼ原作に忠実に展開していた。そのうえでベルヘル監督は、原作に対する愛と、原作者に対する敬意を持ちながら、原作にない場面をいくつか加えていた。

たとえば映画の冒頭で、主人公のドッグは電子レンジで冷凍食品をあたため、自室で「ひとり」、食事をする。わずか十数秒のこのシーンは、ドッグを取り巻く状況を雄弁に語ると同時に、ディテールを丁寧に(時にコミカルに、時にほろ苦く)描く監督の才を如実に伝えており、筆者の期待感は否応なく高まった。そして、その期待感は、102分間を通して一切裏切られることはなかった。

筆者が本作品を鑑賞したのは、日本での公開から3ヶ月が経過した平日の昼間だったが、劇場の客席は年齢性別問わず、さまざまな観客で盛況だった。本作品の評判がじわじわと広がっていると同時に、何度も観たいというリピーターも増えているのかもしれない。

2025年2月中旬現在、全国約35館で上映中。もしあなたが本作品に興味を持ちながらもためらっているのであれば、もうこれ以上迷う必要はない。今すぐ上映館を検索して、足を運んでほしい。

文・CS Toca

『ロボット・ドリームズ』概要

監督・脚本:パブロ・ベルヘル 原作:サラ・バロン アニメーション監督:ブノワ・フルーモン
編集:フェルナンド・フランコ アートディレクター:ホセ・ルイス・アグレダ
キャラクターデザイン:ダニエル・フェルナンデス 音楽:アルフォンソ・デ・ヴィラロンガ

<受賞>
第96回アカデミー賞 長編アニメーション映画賞 ノミネート
第51回アニー賞 長編インディペンデント映画賞 受賞
第76回カンヌ国際映画祭 正式出品
ヨーロッパ映画賞 長編アニメーション映画賞受賞
アヌシー国際アニメーション映画祭 コントルシャン部門 作品賞受賞
シッチェス・カタロニア国際映画祭 観客賞受賞
フェロス賞 コメディ映画賞|作曲賞|最優秀ポスター賞 受賞
ゴヤ賞(スペイン・アカデミー賞) 脚色賞|長編アニメーション映画賞 受賞

2023年|スペイン・フランス|102分|カラー|アメリカンビスタ|5.1ch|原題:ROBOT DREAMS
字幕翻訳:長岡理世|配給:クロックワークス

公式HP:https://klockworx-v.com/robotdreams/
公式X:@robotdreamsjp
© 2023 Arcadia Motion Pictures S.L., Lokiz Films A.I.E., Noodles Production SARL, Les Films du Worso SARL

<サントラ 商品仕様>

サントラジャケ写

発売日:2025年1月29日
タイトル:『ロボット・ドリームズ』オリジナル・サウンドトラック(音楽:アルフォンソ・デ・ヴィラロンガ)
原題:Robot Dreams (Original Motion Picture Soundtrack) Music by Alfonso de Vilallonga
品番:SICP 31752
定価:2,970円(税抜価格2,700円)
●世界初CD化
●アース・ウインド&ファイアー「セプテンバー」を追加収録!
●初回仕様限定:封入特典「ドッグとロボット友達ステッカー」
●日本版ジャケット
●「セプテンバー」の歌詞・対訳付き
●解説:高橋芳朗

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

小劇場での演劇活動期間の後、劇作家を目指すも、あえなく挫折。紆余曲折を経て、フリーランスのライター、翻訳者、動画編集者となる。

YouTubeで「源氏物語をこよなく愛する81歳のばあさんがあれこれ語るチャンネル」を運営中。
www.youtube.com/@80NHK-wd3yh

目次