ミュージカル『IN THE HEIGHTS イン・ザ・ハイツ』観劇レポート 

【撮影:引地信彦】

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2024年9月22日(日・祝)~10月6日(日)天王洲 銀河劇場にて、Broadway MusicalIN THE HEIGHTS イン・ザ・ハイツ』が上演中だ。

世界中で最もチケットが取れないミュージカルといわれる『ハミルトン』を生んだブロ-ドウェイの異端児リン=マニュエル・ミランダの処女作であり、傑作と呼ばれる『イン・ザ・ハイツ』。2014年に日本版が初演され、日本人では表現が難しいとされたラップ部分をKREVAが見事な日本語表現に替え、Def TechのMicroをウスナビ役に迎え、日本人に届く日本語歌詞へ作り上げた。7年後の21年には新キャストで再演、緊急事態宣言で最後は公演中止を余儀なくされながらも、コロナ禍の日本を熱くさせた。このたびが3度目の上演となる。

雑貨店を営みながらドミニカへの想いを募らせているウスナビ役に、初演からこの役を演じ続けているDef TechのMicroと、21年から参加し多彩なジャンルの話題作への出演が続く平間壮一がWキャストで出演する。

タクシー会社で働くベニー役には、14年初演以来10年ぶりの出演となる松下優也、ベニーが恋心を抱いているニーナ役には、昨年『ドリームガールズ』でグランドミュージカルデビューを果たし、ミュージカル俳優としての実力を世に知らしめたsara、奥手のウスナビが心を寄せるヴァネッサ役には、ドミニカ共和国生まれで実力派ミュージカル俳優の豊原江理佳、ウスナビの店で働くソニー役には若手ながら舞台経験が充実している有馬爽人、ヘアサロンを経営しているダニエラ役に、ブラジルと日本のミックスで、圧倒的なグルーヴ感は類を見ないエリアンナ、ダニエラのヘアサロンで働くカーラ役には、14年の初演はアンダースタディ、21年の再演にはアンサンブルとして出演していたダンドイ舞莉花、これまで男性が演じていたピラグア屋には、本格派シンガーとして注目を集めるMARU、グラフィティ・ピート役には、プロリーグでも実績のあるダンサーで、本作でミュージカルに初挑戦するKAITA、そして、戸井勝海、彩吹真央、田中利花といったミュージカル界を牽引してきたベテランが出演し『イン・ザ・ハイツ』の世界観を描き出す。

筆者は9月25日(水)の夜公演(ウスナビはMicro [Def Tech])を観劇。その際の感想を記してみたい。

舞台上はマンハッタン北西部、移民が多く住む町ワシントンハイツの雰囲気をうまく出している。アメリカの独立記念日をふくめた3日間の出来事が、この舞台で始まるのだと思うとわくわくする。ウスナビが両親から受け継いだ雑貨店を中心に、ハイツに住むさまざまな人たちの人間模様が生演奏とともに描かれていくのだ。

ここでハイツに住む人たちのバックグラウンドを説明しておこう。

ウスナビ(Micro [Def Tech])は、育ての親であるアブエラ(田中利花)と一緒に住むハイツの暮らしが気に入っているが、将来は母国のドミニカで暮らすことを夢見ている。ウスナビが恋心を寄せているヴァネッサ(豊原江理佳)は、ダニエラ(エリアンナ)のヘアサロンで働いているが、ハイツを飛び出していくことばかり考えている。

有馬爽人、KAITAエリアンナ、豊原江理佳、ダンドイ舞莉花【撮影:引地信彦】

幼い頃から優等生で、スタンフォード大学へ進学したハイツの星、ニーナ(sara)は大学が夏休みに入ったため、ハイツに里帰りしてきた。ハイツの仲間たちは大歓迎するがニーナの表情は暗い。アルバイトと勉強の両立がハードすぎて落第してしまったため、奨学金が打ち切られてしまったというのだ。優等生のニーナが落第するなんて…とハイツの仲間たちは驚くが、ニーナの父親・ケヴィン・ロザリオ(戸井勝海)が経営するタクシー会社で働くベニー(松下優也)は、そんなニーナを優しく慰める。

松下優也、sara【撮影:引地信彦】

ニーナは父親の会社が厳しい状態にあることを分かっているため、大学を辞めたと両親に伝える。母親のカミラ・ロザリオ(彩吹真央)は驚き、父親はなぜ相談しなかったのだと怒り大騒動に発展。せっかくのアメリカ独立記念日のパーティーが台無しになってしまった。そんな中、ハイツに大規模な停電が起きて住民たちはパニックに陥る…。

sara、彩吹真央、戸井勝海【撮影:引地信彦】

ウスナビの雑貨店に次から次へのハイツの住人たちが集まり、やがてM1「In The Heights」が始まる。これが大迫力で序盤からハートをつかまれ、特にアンサンブルの歌の力強さに圧倒される。

Micro [Def Tech]【撮影:引地信彦】

ウスナビを演じたMicro [Def Tech]は、以前エンタミーゴでインタビューをさせていただいたが、その際に「3度目の正直で、集大成、総仕上げ」と語っていたとおり、役への意気込みがビシバシ伝わる演技だった。ヴァネッサに対するシャイな態度やアブエラを母のように慕って優しく見守る姿はまさにウスナビそのもの。シャイすぎてちょっとじれったいところも、また魅力的だ。

田中利花、Micro [Def Tech]【撮影:引地信彦】

ウスナビが恋心を抱いているヴァネッサを演じる豊原も、これぞヴァネッサ!といいたくなるほど役にフィットしている。本人も幼い頃にブロードウェイで本作を観て感激し、演じるなら絶対にヴァネッサと思っていたという。アルコール中毒の母親を抱えて苦労しているヴァネッサは、ハイツの人々が好きだけれど、いつかはこの町を出ていきたいと考えている。ウスナビの気持ちに気付いているようだが、彼を翻弄してしまうところはちょっと小悪魔的だ。豊原はそんなチャーミングなヴァネッサを圧倒的な歌唱とダンスで魅力的に見せる。

豊原江理佳【撮影:引地信彦】
豊原江理佳【撮影:引地信彦】

そしてもう1組のカップルがニーナとベニーだ。筆者はニーナを演じるsaraもベニーを演じる松下優也も初見だったのだが「なぜこれまで目にすることがなかったんだ!!」と後悔するほど、2人の歌が素晴らしかった。ソロはもちろんのことデュエットが格別で、2人の声の相性がとてもいいのか、聞いていて心地良い。これからこの2人が出演する作品は、欠かさず見たいと本気で思った。

sara【撮影:引地信彦】
松下優也【撮影:引地信彦】

全体的に若い息吹がビシバシ感じられる舞台ではあるが、ベテラン陣の安定感ある歌唱も聞きごたえがある。アブエラ役の田中、ケヴィン・ロザリオ役の戸井、カミラ・ロザリオ役の彩吹のソロパートを聞くとホッとする。こうしたベテランの変わらぬ歌声は、舞台をビシッと締める役割を果たしているのだとつくづく感じる。

田中利花【撮影:引地信彦】
戸井勝海【撮影:引地信彦】
彩吹真央【撮影:引地信彦】

ヘアサロンを経営しているダニエラを演じるエリアンナは、迫力ある歌と時折見せるお茶目なしぐさにクスッと笑ってしまうし、ヴァネッサの同僚・カーラを演じるダンドイ舞莉花との息ぴったりのやり取りで楽しませてくれる。

エリアンナ【撮影:引地信彦】

ウスナビの従兄弟でお調子者のソニーを演じる有馬や、ソニーの親友のグラフィティ・ビートを演じるKAITA、ピラグア屋のMARUなど、アンサンブルを含めて若手の活躍も目覚ましい。

有馬爽人【撮影:引地信彦】
MARU【撮影:引地信彦】

ここまで書いて改めて思ったのは、キャスト全員、歌とダンスがすごいということ。誰が歌っても、誰が踊っても文句なしに満足できる舞台に仕上がっているのが『IN THE HEIGHTS イン・ザ・ハイツ』なのだ。上演時間2時間40分(途中休憩20分)で、最初から最後までグイグイ物語に引き込まれて、ワシントンハイツの世界から抜け出せなくなる。そしてそれがなんとも気持ちがいい。

暑い夏のたった3日間の出来事を描き、停電が起きたり大切な人が亡くなってしまったりいろいろ事件は起きるけれど、それでも歌とダンスとともに笑顔で乗り切ろうとする彼ら・彼女らのパワーから元気をもらえる。こうなったら平間壮一が演じるウスナビも観たくなってしまった。10月6日の千秋楽までになんとか時間を作って劇場へ行こう。

文・咲田真菜
舞台写真:オフィシャル提供

目次

Broadway Musical 『IN THE HEIGHTS イン・ザ・ハイツ』公演概要

原案・作詞・作曲 リン=マニュエル・ミランダ
脚本 キアラ・アレグリア・ウデス
演出・振付 TETSUHARU
翻訳・訳詞 吉川徹
歌詞 KREVA
音楽監督 岩崎廉

出演
ウスナビ:Micro [Def Tech]/平間壮一(Wキャスト)
ベニー:松下優也
ニーナ:sara
ヴァネッサ:豊原江理佳
ソニー:有馬爽人
ダニエラ:エリアンナ
カーラ:ダンドイ舞莉花
ピラグア屋:MARU
グラフィティ・ピート:KAITA
ケヴィン・ロザリオ:戸井勝海
カミラ・ロザリオ:彩吹真央
アブエラ・クラウディア:田中利花
ほか

公演日程・会場
《東京公演》 天王洲 銀河劇場 2024年9月22日(日・祝)~10月6日(日)
《京都公演》 京都劇場 2024年10月12日(土)~10月13日(日)
《名古屋公演》 Niterra日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール 2024年10月19日(土)~10月20日(日)
《神奈川公演》 大和市文化創造拠点シリウス 1階芸術文化ホール メインホール 2024年10月26日(土)

公式HP https://intheheights.jp/
公式X @intheheightsjp

企画・製作 アミューズ/ぴあ/シーエイティプロデュース
お問い合わせ 【公演事務局】 information2@pia.co.jp(平日 10:00~18:00)

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この記事を書いた人

国家公務員・一般企業勤務を経てフリーランスのライターになる。高校時代に観た映画『コーラスライン』に衝撃を受け、ミュージカルファンとなり、以来30年以上舞台観劇をしている。最近はストレートプレイも積極的に観劇。さらに第一次韓流ブームから、韓流ドラマを好んで視聴。最近のお気に入りはキム・ドンウク。

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