2024年1月6日(土)から東京・明治座にて、日本テレビ開局70年記念舞台『西遊記』が上演中だ。
『西遊記』は1978年、「日本テレビ開局25年記念番組」として制作され大ヒットしたドラマ。毎週日曜日の20時から放送していたため、大河ドラマを見たい親とチャンネル争いをした昭和世代も多いことだろう。堺正章の孫悟空、夏目雅子の三蔵法師、沙悟浄の岸部シロー、猪八戒の西田敏行は強烈なインパクトがあり、主題歌を担当したゴダイゴの「モンキー・マジック」「ガンダーラ」は大ヒットした。
そんな『西遊記』が45年の時を経て、舞台作品としてよみがえった。2023年11月に大阪で開幕し、その後福岡、名古屋を経て最終地となった東京公演。筆者は1月13日(土)昼の部を観劇した。感想を極力ネタバレを避けて紹介しよう。
『西遊記』主要キャスト
孫悟空:片岡愛之助
三蔵法師:小池徹平
猪八戒:戸次重幸
沙悟浄:加藤和樹
玉竜:村井良大
紅孩児:藤岡真威人
鎮元子:田村 心
玉帝・高伯欽:曽田陵介
虎力大仙:小宮璃央
高翠蘭:柳 美稀
鹿力大仙:押田 岳
羊力大仙:桜庭大翔
銀角:山口馬木也
金角:藤本隆宏
鉄扇公主:中山美穂
牛魔王:松平 健
『西遊記』感想
『西遊記』の舞台化ということで、さぞかし舞台装置が華やかだろうと想像していたが、最初に思ったのは、舞台上が意外にシンプルだということだった。しかしいざ物語がスタートすると、LED映像をふんだんに使った、まさに「最先端、最新鋭の大型アクションスペクタクル」作品として一気に観客を魅了していく。
主人公の孫悟空を演じる片岡愛之助が登場すると、歌舞伎役者らしい所作で立ち回りを披露し、大きな拍手で客席が沸き立った。筆者は愛之助の舞台は初見だったのだが、なるほどこの人は華があると実感、宙を舞う姿がさまになる。当初は、孫悟空を演じるには2枚目すぎないか…と感じたが、思っていた以上にハマっていたのに驚いた。役作りをする上で、孫悟空というキャラクターを自分のものにしたのだろう。
物語は、傍若無人だった孫悟空が天界から追放され、500年間岩に閉じ込められたエピソードからスタート。その後三蔵法師に助けられて岩から抜け出し、天竺へ共に向かうのは、テレビドラマで見たとおりのストーリー展開だ。しかし幼い頃に見たテレビドラマの記憶が薄れていたこともあって、改めて本作を見て「そうだったのか!」と分かる部分がたくさんあった。
三蔵法師を演じる小池徹平は、仏に仕える身らしく穏やかでおっとりとした雰囲気で登場。たびたび「なむ~~」と手をあわせて仏様に感謝するところに癒される。ドラマで夏目雅子が演じた三蔵法師は、低い声で「悟空!!」とたしなめていたので威厳が感じられた。しかし小池が演じる三蔵法師はとてもフレンドリーかつ優しい雰囲気で違いを感じたものの、いざというときは孫悟空たちを叱責する威厳も出していた。
そして孫悟空とともに三蔵法師のお供をする猪八戒役の戸次重幸、沙悟浄役の加藤和樹、玉竜役の村井良大の「でこぼこトリオ」に注目したい。ドラマでは孫悟空、猪八戒、沙悟浄のドタバタぶりが面白かったのだが、本作では龍から白馬の姿になった玉竜が加わった。三蔵法師が乗っていた白馬が玉竜という役として登場するのである。
TEAM NACSでは、一応イケメン担当の戸次が猪八戒を、数々のミュージカルでイケメン役を演じている加藤が沙悟浄役を演じるということで、個人的にものすごく楽しみにしていた。『おにぎりあたためますか』で大泉洋と軽妙なトークを披露している戸次なので、ちょっとぬけている猪八戒を面白おかしく演じてくれるだろうと思っていたが、期待以上の出来だった。
期待以上といえば、加藤の沙悟浄だ。舞台では2枚目を演じることが多い加藤だが、強欲な沙悟浄を茶目っ気たっぷりに演じた。女性っぽい話し方がツボにはまる。長年加藤を応援してきたが「こういう演技もできるのか!」と新たな感動があり、ますます今後が楽しみになった。
そしてそんな2人に絡むのが「馬」の玉竜だ。村井もミュージカルで2枚目を演じることが多いのに「半馬」になって登場したのには爆笑してしまった。さらにお笑い芸人も真っ青になるような村井の見事なボケぶりに、新たな一面を見た。
この3人がことあるごとに丁々発止のやり取りを繰り広げるのが、それが本作の見どころの一つと言っていいだろう。途中「自由の時間(?)」というものがあり、日替わりで3人がネタを考えて披露してくれるというのだから贅沢だ。3人の「ネタ披露」を見て、ぜひM-1グランプリに挑戦してほしいと筆者は思ってしまった。
話を戻すと、孫悟空と三蔵法師一行は天竺を目指す途中、ちょっとおまぬけな兄弟、金角(藤本隆宏)と銀角(山口馬木也)の邪魔が入りつつも着実に歩を進めていく。この金角と銀角の兄弟がまた面白く、抜群のコンビネーションを見せてくれた。ミュージカル『アニー』で、ウォーバックスを渋く演じている藤本が頼りない兄を演じる姿を見て、思わず吹き出してしまう。
そんな中、三蔵法師一行は、牛魔王(松平健)と妻の鉄扇公主(中山美穂)が治める国に立ち寄る。願い事は何でも叶い、民が幸せに暮らしている国だと孫悟空たちは聞かされるが、何か違和感がある。ここで孫悟空たちが秘密を暴き出し大活躍する。
松平はさすがの存在感なのだが、孫悟空と兄弟の契りを交わし、牛魔王が最初に登場するシーンはかなり衝撃的だ。ネタバレになってしまうので詳細は控えるが「健さん、ここまでやってくれるの!」と感動してしまった。得意の殺陣だけではなく、観客を楽しませるためになんでもチャレンジする松平の姿は、エンターテイナーそのものだ。
いろいろ感想を書いたが、西遊記らしさを色濃く残しつつ、令和版らしい新しさがあるエンターテインメント性抜群の作品だった。そしてもう一つ忘れてはいけないのが、各キャストの衣装とメイクの美しさだ。特に猪八戒と沙悟浄は、それぞれピンクとブルーを基調にしたおしゃれな仕上がりになっているので、ぜひ視覚的にも楽しんでほしい。
正月らしく、笑いにあふれた本公演は1月28日(日)まで明治座で上演中。ぜひとも劇場に足を運んでみてはいかがだろうか。
文・咲田真菜
画像提供:日本テレビ
日本テレビ開局70年記念舞台『西遊記』 公演概要
日程:2024年1月6日(土)~1月28日(日)
場所:明治座
脚本:マキノノゾミ
演出:堤幸彦
出演:片岡愛之助 小池徹平 戸次重幸 加藤和樹 村井良大 藤岡真威人 田村心 曽田陵介 小宮璃央 柳美稀 押田岳 桜庭大翔 山口馬木也 藤本隆宏 中山美穂 松平 健
〈料金〉S席(1階席・2階席) 15,000円 A席(3階席) 9,500円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉明治座チケットセンター 03-3666-6666(10:00~17:00)
〈公式サイト〉https://saiyuki-ntv.jp/