『おすすめエンタメ情報 エンタミーゴ!』編集部が気になる舞台人にゆる~く迫る新シリーズ『エンタミゆるっと~く カフェ』。記念すべき第1回のゲストとして、俳優の中村早香さんをお迎えしました。
最近では、NTTドコモ「dポイント」のCMや、東京芸術祭2022(2022年9月1日~12月11日開催)のプログラムの1つ、野外劇『嵐が丘』(10月17日~26日上演)に出演。劇団「アマヤドリ」に所属しながら、客演舞台や映像などさまざまな分野で活躍を広げる彼女に、舞台のこと、俳優のことなど、お話を伺いました。
念願だった小野寺修二演出作品! 街と仲良くなりながら演じる幸せな時間
――中村さんが出演されている東京芸術祭2022での野外劇『嵐が丘』を観に行きました!セリフもありますが、身体表現メインのお芝居で面白い演出方法でしたが、出演していかがでしたか?
普段から多少は身体を使うお芝居はしているのですが、今回のような俳優さんとダンサーさんたちと一緒に演じる、ダンスメインの公演は出たことがなくて。今回のカンパニーの演出家、小野寺修二さんは、パントマイムなどを演出されている方だったので、初めは稽古についていくのがとても大変でした。
――中村さんはメインのストーリーテラーの乳母ネリー役でしたよね。とても難しい役回りだと思いましたが、どのように役にアプローチしていきましたか?
私、普段お芝居するときは、こういう感情があって、だからこういう動きをして、みたいに役をつくっていくのですが、今回の舞台は身体で表現しなくてはならなかったので、どう動いていいのかがまず分からずかなり戸惑いました。
そうしたら、小野寺さんから、とりあえず動きだけを先に言われ、そこに追いつかせる感情は自分でつくってくださいと言われました。役へのアプローチ方法は人それぞれだと思うのですが、私は動き方が分からなかったので、そう教えて下さったんだと思います。
共演した俳優さんや、ダンサーの方々は表現のアイデアがとても豊富で次から次へと出てくるんです。一方の私は引き出しが少なすぎて何一つアイデアが出せない…。最初のころは、なんで私が受かったのか分からなくて、「ほんとごめんなさい…」と自分を責める気持ちでいっぱいでした(笑)
――そんな苦労を超えてのあのネリー役! 小柄なのにとても存在感がある演技や表現力がとても素晴らしかったです。中村さんは、ずっと小野寺さんの作品に出たかったとお聞きしました!
そうなんです! 小野寺さん主宰の劇団「カンパニーデラシネラ」の舞台は何回か観に行っていて、大好きなんです。本当に美しいダンスの公演をされるんですよ。めちゃくちゃ計算されていて。
ですから、出演が決まったときは、本当に嬉しくて! 今回の公演も、一歩単位で全部演出が決まっていて、少しでも間違えるとやり直しになるので、稽古中は大変でしたが、それ以上に学ぶことが多かったし、共演者はみな素敵な方ばかりで。
その上、あこがれの小野寺さんの演出・作品に出演できることがとても有難く、幸せな時間でした。
――出演はオーディションで決まったのですか?
はい。オーディションは「カンパニーデラシネラ」の小野寺さん、劇団員の崎山さん、藤田さん3人と、私1人という形で行われました。
事前に『嵐が丘』の小説の一節、1ページくらいのセリフをもらい、どういうやり方でもいいので発表してくださいというものと、崎山さんの動きに合わせて一緒に動いてみてくださいというものでした。
この動きのオーディションがとても面白くて。「歩いてください」「今度は綺麗に歩いてください」、といった具合にいろいろな課題で歩いたりしました。
――今回の公演は野外劇という形の公演でしたけど、以前富山の利賀村でも野外劇(劇団SCOT主宰の公演)を経験されていると聞いたのですが、室内と野外でお芝居をする上での意識の違いはありますか?
野外劇と室内劇というのはやはり全然違いますね。室内の劇場ではセットによって世界観が出来上がっているので、そこだけに集中してやればいいんですけど、野外だとここが『嵐が丘』のセット、ここが舞台、と決められても、それだけでは全然成立しなくて。外の音も風景も無視できない。だから、それら含めて感じながらやるしかないんです。
本番前、私はいつも集中するために走っているのですが、今回はそれをやめました。その変わりに、街と仲良くなる感覚が大切だなと思ったので、開場30分前に外に出て、空や街など外の景色を眺めながら、感じながら歩くようにしてました。
はいりさんのようになりたい! 片桐はいりさんの尽きない魅力
――片桐はいりさんとの共演はいかがでしたか?
はいりさんは、もうほんとさすがなんですよ~!!(感嘆のため息)人としても本当に素敵なんです!
まず、お芝居に対してアイデアがめちゃくちゃある人で、稽古場でも言われたことをそのままやるのではなくて、こうやりたい、ああやりたいとどんどんアイデアが出てくる方で。それが面白いから全部採用されるんです。
今回の公演でも開演前に歌いながら、客席をまわっていたと思うんですけど。
――見ました! ちょっと汚れた衣装で、客席のまわりを歌いながら、話しながら歩いているの! え? はいりさん? こんなところに? って、ガン見しちゃいました!
ですよね!twitterでも「会場にヤベーやつ入ってきちゃった、不審者入ってきちゃったと思ってたら、はいりさんが歌っていた」「汚い恰好しながら歌ってた」「あんまり直視できないからこっそり見てた」とか、いろいろつぶやかれていたみたいです(笑)
はいりさんのあの歌は日替わりなんですよ! 楽屋の客席用のモニターを見て、「今日は子どもが多いからアニメにしよう」「今日は年齢層が高めだからこういう感じにしよう」といった具合に、客席の状況に合わせて全部歌を変えているんです。
そもそも歌うこと自体演出がついていたわけではなくて、はいりさんが歌いたいから歌っているだけというか。そこであんな素敵な歌を聞かせるってすごいですよね。声も素敵ですし!
楽屋でも、ほんと分け隔てなくて。私たち全員同じ楽屋だったんです(笑)
最初は、はいりさんは個室でという話もあったそうなのですが、みんなと同じでいいからって言われたみたいで。「みんな食べて!」ってお菓子をいっぱいもってきてくれたりもして、ほんとにとても気さくな方でした!
――はいりさんって画面を通して見ていてもとても魅力的ですものね。テレビとかで拝見すると必ず何かやってくれそうで目で追ってしまいます。
はいりさんのお芝居は、いい意味で意気込まなくて肩の力が抜けているんです。その場の空気感に合わせて芝居をされていて、すごく自由なんですよね。だから芝居もすごく柔らかくて、でも決めるところは決める!
私は不安だからガチガチに固めないとダメなタイプなんですけど、そういうところがまったくなくて。だから、はいりさんのお芝居は今の私のあこがれで、はいりさんみたいに開いた芝居ができるようになりたいと、今回の共演で強く思いました!
それに、はいりさんのような豊かな人間にもなりたいと。はいりさん、いろいろなところを旅するし、いろんな映画をたくさん見ていらっしゃるんです。それに感銘をうけて、私もまず旅に出ようと思っています。行先はまだ決めてないんですけど(笑)
くちパクコーラスで培った演技力が原点?!
――ところで、そもそも中村さんが俳優をやろうと思ったのはいつからですか?
小学校の国語の授業のときに音読した「くまの子ウーフ」がきっかけです(笑)セリフの部分を演じるように読んだら、先生に「さやかちゃんは役者とか向いてると思うわ」と言われて。それをうのみにして、「私役者向いてるんだぁ」って。それが始まりです(笑)
――小学校のころからお芝居やってたんですね。
いや、違うんです! そこでお芝居やりたいと思っていたのに、中学校で間違えてコーラス部に入っちゃいまして…(笑)
――え?間違えて?(笑)
新入生歓迎会で、コーラス部が歌いながらお芝居するオペレッタみたいなものを発表していて、それが演劇部のものよりも面白かったので入部したんです。
そうしたら、オペレッタは新入生歓迎会用だったようで、歌しか歌わなくて…。さらに困ったことに、私ほんと音痴で。今だから言えますが、ずっと声を出さずにくちパクで3年間乗り切りました!
さも歌っているかのように表情豊かに演じていたので、ある意味ここで演技力が磨かれたのかも(笑)?!
出場したコンクールで賞をとったときは、みんな泣きながら喜んでいるんですけど、私は歌ってないから何も感動できなかったという…。でも周囲の人は誰も気づいてなさそうだったので、それも言えずという…。
――見事な演技力! では、それを活かして、高校ではやっと念願の演劇部に?
はい、今度は絶対間違えないぞと、念願の演劇部に入部しました! でも、楽しかったのですが、部員が少なかったこともあり、役者よりもスタッフ業をすることが多くて。
もちろん役者をやったときは楽しかったのですが、向いてないとも思ったので、もう高校で演劇は最後にしようと思い、大学は心理学科に進学しました。なのに、友人の付き合いで見学にいった演劇サークルに気が付いたら入っていました(笑)お芝居が高校とはレベルが全く違っていて、本当にめちゃくちゃ面白かったんです。
――運命的なもの感じますね。
そうなんですよ。上手いこと演劇を続けるように結びついていくというか。
大学2年生のとき、今所属している劇団「アマヤドリ」の前身である「ひょっとこ乱舞」という団体ができ、私も出演させてもらうようになりました。
でも、演劇は楽しいけど職業にはならないとも思っていたので、大学卒業したら終わりにしようと思っていたんです。ですから、大学卒業前に「一緒に劇団やろう」と誘ってくれた主宰・広田淳一からのお誘いも、演劇をやめるという理由でお断りしていました。
だけど、就活の波に乗り遅れ、幼稚園教諭を目指せる専門学校を探していたときに出会っちゃんですね、演劇の専門学校に!学校見学に行ったら、もう行きたく行きたくて。
もちろん劇団に誘ってくれた、主宰・広田にも「私は演劇の専門学校に行こうと思います。演劇は続けることになりますが、劇団に入れなくてすみません」ときちんと事情を話しました。
そうしたら、広田から「専門学校にいくのは間違っている。演劇をやりたいなら、実地でやるべきだ。お前は劇団に入った方が伸びていくはずだ」といった、3枚くらいのすごい熱量の手紙をもらいまして。その手紙に感動して、今の劇団「アマヤドリ」に入ったんです。広田淳一とは、もう20年以上の付き合いになりますね。
――熱い手紙3枚も! それは感動しますよね。そういう経緯で今の劇団に入られたんですね! その劇団での活動はいかがですか?
毎年、客演として富山の利賀村(前述)の野外劇に参加していたので、最近はあまり所属劇団の公演には出演できていなかったのですが。劇団でお芝居するときが一番楽で安心感がありますね。私が一言うだけで百のことを分かってくれるという信頼関係があるので、ある意味甘えちゃうところがあったりします。劇団員たちはみんないい子で、可愛いんですよ!
俳優は、人生のプラスαを創り出せる存在
――劇団の活動に加え、客演やdポイントのCMなど、活躍の幅を広げられてますが、今後の目標、やりたいことは?
一つは映像にも力を入れていきたいです。dポイントのCMに出演したときの反響が大きくて、テレビの効果を思い知ってしまったので(笑)友人ももちろんですが、両親もとても喜んでくれたことがとても嬉しかったんです。
もう一つは、新国立劇場の小川絵梨子芸術監督が企画されているフルオーディションの舞台に出演することです! もう絶対出たいです! 言った方が叶うかもしれないので、思い切ってここで言っちゃいます(笑)
それと、身体表現、野外劇、自主企画、一人芝居…。私欲張りだからやりたいことが多すぎちゃって(笑)可能性のある限り、今後もいろいろなことに積極的に挑戦していきたい思います!
――最後に、中村さんにとって俳優とは?
作品を通して世界中の人と繋がれる人。舞台や映画やドラマは、なくても生きていけるけど、あった方が人生が豊かになる。俳優は、そんな人生のプラスαを創り出せる存在だと思っています。
取材・撮影・文:彩川結希
OFFトーク 中村早香さんに聞く10の質問