渡辺大インタビュー 舞台『醉いどれ天使』「北山くんが演じる松永とは、兄弟のような間柄に」【インタビューVol.44】

渡辺大(撮影:咲田真菜)

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2025年11月7日(金)より明治座を皮切りに、愛知、大阪で舞台『醉いどれ天使』が上演。黒澤明と三船敏郎が初めてタッグを組んだ伝説の作品が今秋、舞台に蘇る。

映画史に燦然と輝く本作は、映画が公開された1948年4月から約半年後、ほぼ同じキャストとスタッフが集結し、舞台作品として上演。その後、当時の上演台本は長い間眠っていたが近年偶然発見され満を持して2021年に舞台化、大盛況のうちに幕を閉じた。この度、新たなスタッフ・キャストにより、2025年舞台版『醉いどれ天使』が上演される。

三船が演じた闇市を支配する若きやくざ・松永に挑むのは6年ぶりの主演舞台となる北山宏光。松永と対峙する酒好きで毒舌な貧乏医師・真田は、時代劇から現代劇まで、繊細かつ大胆な演技で魅了する渡辺大が演じる。

このたび真田を演じる渡辺大さんにインタビューを行った。稽古中のエピソードや公演にかける意気込みを語ってくださった。

渡辺大(撮影:咲田真菜)

――真田役に決定した際のお気持ちをお聞かせください。

この作品はオリジナルではなく、黒澤明監督が映画として撮られた作品が原作です。真田役は志村喬さんが演じられていましたので、その役をやらせていただくのは本当に名誉なことです。一方で全てを踏襲するのではなく、どう壊すか…ということを考えています。また、真田という役ができる年齢になったんだな…とも思いました。自分の年齢を改めて考えましたし、役者としての人生がまた一つ転換する時期なのかと感じています。

――映画はご覧になっているということですが、真田を演じた志村さんの印象は強烈だったのではないでしょうか?

映画で真田を演じた志村さんと松永を演じた三船さんは、役の設定でいうと50歳と28歳ぐらいで、親子ぐらい歳が離れているんですよ。そこは今回松永を演じる北山くんと僕との関係性とは少し違っています。兄弟みたいな感じになると思うので、僕たちが演じる松永と真田は「よう!兄弟!」って言える間柄になるのかな…と。そこは志村さんと三船さんとは違う雰囲気になっていくと思います。そこをどう演じていくか、今現場で一生懸命作っているところです。

――お稽古が始まって2週間(取材当時)とお聞きしています。松永を演じられる北山さんの印象と稽古場の雰囲気についてお聞かせください。

この2週間で、ほぼ芝居の骨格が出来上がったのは、すごく良いことだと思っています。ただ骨格ができても、そこに関節をつなげてジョイントしていく必要があるので、全体像をもう一回見直す時期に入ってくると思います。

そのときどきで苦しみはあるとは思うんですが、ここまで非常に良い苦しみ方をしてきましたし、良い形を作っています。それは座長である北山くんの生き方といいますか、飾らずに生きているところが影響していますね。だから共演者みんなが遠慮せずに和気あいあいとやっていられるのだと思います。それぞれの役を全うしていますし、無理をしている人がいないのがありがたいですね。

――北山さんとお二人で話し合って、ここはこうしようとか、話し合いをしながら役作りをされていますか?

僕は自分がやりたいことを言語化するのが得意ではないんです。言語化するよりは「これはこうじゃないか」って行動で示したくなるタイプです。(演出の)深作健太さんも特定の人だけに向けて直接言うのはなく、全体に向けておっしゃるんです。

例えば、僕に言っていることでも北山くんに届いているし、北山くんに言っていることは僕にも届いている。そういう方向でいくなら僕も変えていかなきゃいけないよね、北山くんも変えてくれるかな…って思いながら演じられます。

深作さんがおっしゃったことをみんなきちんと咀嚼して動いてくれるから「これだ!」「それだ!」となります。だから非常にスムーズに進んでいるんです。

――深作さんは皆さんを導いてくださっている感じですね。

そうですね。僕は昨年も深作さんと一緒に舞台をやらせていただきましたが、稽古が始まる前に1時間半弱ぐらい、作品の骨格の部分などいろいろなお話をしてくださるんです。それを踏まえた上で本読みをするので、モヤモヤしていた霧が晴れていきます。「これか」「こっちなのか」という感じで…。

スタートで迷子になっちゃうとつまずいてしまいます。でも深作さんは作品の方向性を示してくださるので、あとはそこにどれだけ乗っかれるか、乗り方が分かっていれば大丈夫じゃないかなと思っています。

――俳優さんにとっては、とてもありがたい導き方ですね。

ありがたいですね。きちんと僕らの思いも尊重してくれますし。誰もが「えっ?」ってなるようなことをやらないのがいいです。この座組は恵まれていますね。

渡辺大(撮影:咲田真菜)

――渡辺さんから見て真田というのはどういう人だと思いますか?

表面上は、豪放磊落で慇懃無礼な人物です。もっと柔和な態度で物事に接していたらみんながわかってくれるのに…と思います。でも「こういう性分だから」と貫くところは、ある種、男が苦手としている部分そのものなのかな。だからこそ芝居の中の真田のモノローグ(独白)が生きてくるんでしょうね。どうやって思いを吐き出すかというところが、今回非常に面白いです。

――確かにこの作品は、本当にモノローグが印象的で上手くできていますね。

舞台を観ていただけたら分かると思いますが、モノローグの吐き出し方がなかなかないパターンだと思うので、面白いなぁと思っています。

深作さんはドイツ文学やドイツ演劇もやっていらっしゃって、わりと観客巻き込み型の演出をされる方です。今回、観客に対してメッセージを送る、せりふを劇中だけではなくお客さんに向けて言うといった点を非常に強く押し出す形になっています。そこは面食らってしまう部分でもあるし、面白がっていただける部分でもあります。

――渡辺さんご自身は真田と共通するところがありますか?

僕は言語化するのが得意ではないので、真田の気持ちがよくわかります。人と会話するときに、心の中でいろいろなことを考えているのに意外と思っていることが言えなかったり、難しいなあと感じたり…。あとは、真田みたいに根はいい人なのに不器用だからそういうことを言っちゃうんだろうな…という人が身近にいたりします(笑)。

――松永も真田も戦争で傷ついた心を抱えているところがあります。渡辺さんは2人にどういうふうに声をかけてあげたいですか?

松永と真田のやり取りって、合理的に話したら10分で終わる話なんです。「病気を治しましょう」「はい。わかりました」と言えばいいわけですから。

でも無駄なやり取りだけど無駄じゃない、非常に絶妙なやり取りで2時間半の糸が切れずに繋がっていきます。それは蓬莱(竜太)さんの脚本の妙だなと思っています。僕が男だからかもしれないけれど、2人のことは黙って見守るしかないのかな…って思っちゃうんですよね。

正解はどこかにあるんでしょうけど、そこにたどり着けるかたどり着けないかは、その人次第ですからね。現代みたいに情報がいっぱいあってゴールの道がわかっている中で、たどり着くのが幸せなのかどうなのか…とも考えてしまいます。

――今作は女性キャストも魅力的な方がたくさんいらっしゃいます。渡辺さんから見て北山さん以外のキャストの印象はいかがですか?

この作品は、松永と真田の物語でもあるんですが、実は女性の物語が主だというのが、僕らの中の共通認識・裏テーマになっています。蓬莱さんは男性なのに、よくぞここまで女性のモノローグを書けるねっていう話をみんなでしていました。ああいう人がモテるんだろうなと製作発表会見でも言っていたんですけど…(笑)。

男が始めた戦争でみんな傷ついている、でも好きになっちゃう私たちのほうがよっぽどおろかなのか、人の心は薬が効いて治るもんじゃないでしょうって思っちゃう複雑なところ、女性の強さと儚さと脆さが、この作品には全部詰まっていますね。

――初日に向けた意気込みをお願いいたします。

盛り上げていきたいカンパニーですので、みんなで頑張って2025年を終わらせようぜ! と思っています。公演が始まったら規定どおりに演じるのではなく、常にブラッシュアップして、自己ベストをどんどん更新していこうと思います。そういう盛り上げ方をしていきたいです。

――最後に劇場に来られる方に向けてメッセージをお願いします。

痛快爽快! という作品ではないですが、これは80年前の過去の物語じゃなくて、世界のどこかで起こっている戦争の惨状をリアルに映している作品だと感じています。穏やかには終われないかもしれないですけれど、何かいろんなものをお土産として持って帰れる作品にしたいです。お客さんに訴え続けていくような作品になると思います。頑張りますので、ぜひよろしくお願いします。

取材・撮影・文:咲田真菜

【クレジット】
スタイリスト/久保コウヘイ(QUILT)
ヘアメイク/大塚貴之(Rouxda)

スーツ\103,400(ボブ/タキヒヨー☎︎03-5829-5671)
その他スタイリスト私物

渡辺大(撮影:咲田真菜)
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『醉いどれ天使』公演概要

原作:黒澤明 植草圭之助
脚本:蓬莱竜太
演出:深作健太

出演:北山宏光
渡辺 大 横山由依・岡田結実(Wキャスト) 阪口珠美 / 佐藤仁美 大鶴義丹

東京公演:2025年11月7日(金)~23日(日) 明治座
名古屋公演:2025年11月28日(金)~30日(日) 御園座
大阪公演:2025年12月5日(金)~14日(日) 新歌舞伎座

公式サイト:https://www.yoidoretenshi-stage.jp

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この記事を書いた人

国家公務員・一般企業勤務を経てフリーランスのライターになる。高校時代に観た映画『コーラスライン』に衝撃を受け、ミュージカルファンとなり、以来30年以上舞台観劇をしている。最近はストレートプレイも積極的に観劇。さらに第一次韓流ブームから、韓流ドラマを好んで視聴。最近のお気に入りはキム・ドンウク。

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