一色洋平インタビュー 『キオスク』「生きた証を懸命に探していく少年を演じたい」【インタビューVol.43】

一色洋平(撮影:咲田真菜)

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2025年12月5日(金)~10日(水)に、パルテノン多摩・大ホールにおいて、舞台『キオスク』が上演される。

オーストリアの人気作家ローベルト・ゼーターラーによるベストセラー小説「キオスク」を作者本人が戯曲化し、ウィーンで初演された本作。ウィーンのキオスク(タバコ店)で働くことになった17歳の青年フランツがさまざまな大人たちと交流し、初恋を通じて成長していく姿、彼がウィーンで出会った愛するものを通して政治、世情と向き合う物語だ。

舞台となる1937年から38年にかけてのオーストリアは、ナチスドイツが台頭し、ヒトラーによるホロコーストが始まり、人種差別が横行する世界。そんな時代に多感な時期を過ごすこととなったフランツの切なくも純粋な青春と、運動がおこる現代への警鐘にも、心が突き動かされる。

このたびフランツ役を演じる一色洋平さんにインタビューする機会に恵まれた。本作に出演が決まった時の気持ちや役にかける意気込み、17歳のフランツを演じるにあたって、自身の17歳の頃の思い出について語ってくださった。

一色洋平(撮影:咲田真菜)


ーー原作を読まれているということで、ご自身の役・フランツをどのようにとらえていますか?

原作を読み、なおかつ映画版も観ています。どちらのフランツも印象が違いました。原作には、ちょっと無鉄砲な少年味を感じました。ある種の快活さが目立って、読んでいくうちに「フランツはどっちに行っちゃうんだろう? そっちに行ったらダメだよ!!」とハラハラしてしまうような…。でも彼なりの道理は通ってるんだろう想像しながら読み進めました。

映画版のフランツはとてもナイーブな印象でした。映像ならではかもしれませんが、お母さんのように温かい目線でフランツを切り取っていた感じがします。フランツのどんな行動にも温かく寄り添う画がたくさん続いていたので、フランツのナイーブな面が可愛らしくも見えて、親のような気持ちで観ました。

舞台版の脚本を読んで、かつ石丸さち子さんの演出になった時、原作・映画版どちらとも違うフランツになると思っています。これから稽古場で役を作っていくことになりますが、生きた証を懸命に探していく少年になるだろうと思いますね。

ーー石丸さんとは、今回の作品について何かお話はされていますか?

ほんの少しLINEでお話をしました。「何か読んでおいたほうがいい資料はありますか?」とお聞きしたら、フロイト教授の資料をいくつか勧めていただきました。物語で、フランツはフロイト教授に「あなたの書いた本を読みます」と言うシーンがあります。そこから自分の生きるヒントを得たかったのだと思いますが、フロイト教授の考えであったり書籍であったり、ものすごく貪欲に知りたがるシーンが印象的でした。僕はフロイトを演じるわけではないけれども、確かに読んでおくのはありと感じました。

石丸さんは「ホロコーストに関する作品はたくさん触れているだろうから、強いていうならフロイト教授の考えに少し触れておくのはいいかもしれない」とおっしゃいました。フランツは、フロイトを知りたがる役として読んでおいたほうがいいと判断されたのかもしれませんね。

ーー17歳のフランツを演じられます。あどけなさや少年っぽさをどのように演じていこうとお考えですか?

僕は34歳なので、ちょうどフランツは半分の年齢ということになります。他の作品でも少年役を演じることが多くて、少年を演じようと意識しすぎるとつまずくんですよね。最終的に戻ってこなければいけないのは、「少年」ではなく「その役自身」を演じるということ。今回であれば「フランツ」。それができれば道は開けると思います。

ただ、一つだけ持っておかなければいけないのは、彼は田舎出身でとても真っ白なキャンバスを持ってウィーンという都会の街に来たということです。色々知ったような気で演じると、途端に僕自身の年相応に見えてしまいます。どれだけ真っ白なキャンバスを持って街に来たかという感覚は、なるべく持っておきたいです。

彼は初めてウィーンに来て、街の匂いや音にやられてうずくまってしまう子です。そのあたりのピュアさは持てるようにしたいです。

ーー実際にウィーンへ行かれたことはありますか?

ないんですよ。写真で見る限り大都会で、すごいなと思います。娯楽、衣食住、何も困らない街だろうと思います。逆にフランツの故郷は、もはやRPGで描かれているような大自然ですよね。フランツは育ったところと真逆の環境のウィーンに来て、すがるような気持ちで働く場所となるキオスクに辿り着いたと思います。そこで初めて会ったのが石黒賢さん演じるオットーだったというのは、フランツに運の強さを感じますね。

ーー共演される一路真輝さんは、かなりウィーンに関して詳しいのでいろいろ教えてもらえるのでは…?

そうですね。なんと言ってもミュージカル『エリザベート』で、エリザベートを演じられた方ですからね(笑)。いろいろな資料をお持ちのような気がしますから、見せていただきたいですね。ただ、今作の話よりもエリザベートの話ばかりして、脱線してしまうかも…(笑)。

一色洋平(撮影:咲田真菜)


ーーオットーと出会えたフランツは強運の持ち主というお話がありました。オットーを演じられる石黒賢さんとはお会いしましたか?

先ほど初めてお会いしました。来年60歳になられるとは思えないかっこよさと若さがある方でした。初めてお会いしたのですが「こういう大人になれたらな」と思いましたね。もしかしたらフランツもオットーに対して、同じ思いを抱いたかもしれません。

ーーどんなお話をされましたか?

作品のお話もさせていただきましたが、すごく印象的だったのは石黒さんが猫ちゃんを飼っているというお話です。子どもの時から必ず猫がいる生活を送っていらっしゃったそうで、1匹だと猫も寂しいだろうから必ず2匹以上飼うようにしてるとか。

年を重ねるとペットがいなくなることへの悲しさが増していくということ。それから日本はペットのように弱いものに対して優しい人が多いから、僕は日本がすごく好きだとおっしゃっていました。ガンジーの言葉で、その国の民度は、ペットのような弱い立場のものに対してどれだけ優しく接せられるかで測れるという言葉があると石黒さんに教えていただきました。石黒さんの言葉の端々や感性にかっこよさを見出しました。

ーー今回共演されるにあたって、石黒さんとはたくさんやり取りをされると思うので、楽しみですね。

そうですね。序盤でガッツリとお世話になるのは石黒さんなので…。この作品は、オットーとの絆が深ければ深いほど物語の後半がきつくなってくる仕組みになっていると思います。

僕は、この作品は不条理劇だと思うんです。本来の意味での不条理劇は、一見理解しにくいことがどんどん展開されたりしていきますが、それとは別で、この作品を読んで何度も不条理だなって感じたんです。そう感じた回数は計り知れなくて、同じ人間同士でこうもひどいことがおきてしまう時代というのは本当に不条理だと思いました。

ユダヤ人の方々が迫害された理由って、実は明確には無いらしいんですよ。ヒトラーが上に立つために何かを虐げて強さを見せなければならず、たまたま標的になったのがユダヤ人だったようです。ユダヤ人も「なぜ僕らは殺されているんだ」と理由も分からず、どんどん殺されていく。彼らのそばにいたフランツも、なぜユダヤ人は訳が分からないままどんどん殺されていくんだろうと疑問に思っていたわけです。

でもそれに賛成しなければ自分たちの命も危ないという、訳がわからない世界にいたと思うんです。フランツは後半「自分がおかしいのか、世界がおかしいのかわからない」というせりふを言います。

おかしいのは世界に決まっているけれど、フランツはまだまだ真っ白いキャンバスを持ってる子だから、どっちなのか判断できない。でも最後に彼は「世界がおかしい」といえるんです。当時の状況においては相当な決断だったと思いますが、それでよかったと思います。17歳の彼は、あの時代に生きるには純朴すぎたというようなコメントを石丸さち子さんもされていましたけれど、彼が生きていてよかったと思えるようなラストにしたいです。

ーー劇中でフランツが影響を受けた大人たちが他にもいますが、他に共演が楽しみな方はいらっしゃいますか?

壮一帆さんは、ミュージカル『ドッグファイト』でご一緒したことがあります。“ひとつの現場に壮一帆さんが一人いて欲しい!” と思うほど本当に気のいい方なので(笑)、久々にお会いするのがとても楽しみです。

陳内将さんは、舞台裏で「素敵でした」とわざわざお声がけしてくださったことがありました。そこでちらっとお話ししたことがあったので、今回念願かなってご一緒できるのがうれしいです。

そして楽しみといえば、フロイトを演じられる山路(和弘)さんは特別かもしれません。ずっとフロイト教授を演じられてきたというのもありますし、フランツ少年を導いていく人物の一人がフロイトというのは、今作の大きな魅力の一つだと思っています。

山路さんに直接お会いしたことはなくて、学生の頃からかっこいい方だなと客席から見ていました。でも奥様(俳優・声優の朴璐美)には、この間お世話になりました。舞台『鋼の錬金術師』で、僕はエドワード・エルリック役を演じていますが、朴璐美さんはアニメ版でエドワードを演じられているというご縁があります。ご夫婦共にご一緒できるのは嬉しいですし、新鮮で楽しみです。

一色洋平(撮影:咲田真菜)


ーーところで一色さんはどんな17歳でしたか? フランツと共通するところはありますか?

17歳といえば高校2年生ですが、陸上部に所属していたので、陸上競技のことしか考えていなかったです。陸上のために何を食べたらいいか、どんな風に過ごしたらいいかとか。

その頃、陸上部の部長を任されたんです。結構な強豪校だったんですが、部長を任された瞬間に選手としていい成績を残すことを諦めました。チームをまとめるためには、自分がいい記録を残すことよりもチームがいい記録を残すことに注力しようとシフトチェンジしたのです。

最初に「脱いだ服は畳め」「靴を揃えろ」とか、部活の方針を決めていきました。部員の中には「速く走れればいいじゃん」と言う人もいました。

でも他校から応援される学校になろうというのが僕の方針だったんです。神奈川県大会であれば県内の学校は敵同士ですが、関東大会や全国大会へ行くと神奈川という一つのチームにならなければいけないんです。その時に「あそこの学校は強い人はいるけど、人として応援できないな」と思われると、上の大会へ行けば行くほど仲間に入れてもらえなくなります。

そうなったら孤独な気持ちになるのは自分たちだから、応援されるチームになることを方針として決めて、部員たちの賛同を得づらくともそれに向かってやろうと思ったのが17歳の頃でした。

同級生で2016年のリオオリンピックに出場した選手もいたぐらい、とても競技力があったチームだったんです。同じくらい人間力をつけるとさらに上にいけると思ったので、時代を変えていかなきゃいけない! って思い始めた時期でした

ーーとても大人びたかっこいい17歳だったんですね!

僕の方針に一番賛同できずに居た同級生が、最後の引退試合となったインターハイの110mハードルで優勝したんです。涙涙で彼のところに「よかったね」と駆け付けると、ふと彼の私物を入れておく箱が目に留まったんです。そこに脱いだ服がきれいに畳まれているのが見えた時は、感動しちゃいましたね。彼は「服を畳め」と言っても一度も畳んでくれたことがなかったので。

17歳の時の僕が、フランツと共通点があるかどうかは分かりません。でも、フランツがオットーやフロイト教授と出会ったように、人に恵まれたというところは共通しているかもしれません。

同級生にいろいろ言われるのは嫌だっただろうに、聞いてくれた仲間がいたり、好きなようにやりなさいと言ってくれた顧問の先生がいたり、応援してくれる保護者の方がいたり…。そういう方々と出会えたのは幸運でした。

ーーフランツのように影響を受けた人はいらっしゃいましたか?

そうですね…(しばらく考えて)たくさんいらっしゃるんですが…。中学時代の陸上部の顧問の先生に影響を受けました。その時の先生が「競技力よりも人間力を磨け」と教えてくださいました。「困っている人をすぐに見つけられるような人になりなさい」とおっしゃっていて、高校に入って陸上部の部長としての在り方に迷った時、その先生に相談をしていました。

先生は繰り返し「やっていることはきっと合ってる」と言ってくださいました。「まずは人間力」という考え方は、17歳の頃も影響を受けましたし、役者をやっている今も影響を受けています。

ーー今でもその先生とは交流がありますか?

ありますね。お会いすると心のメンテナンスができます。キュッキュッとネジを締めてもらっているような感じになります。

ーー一色さんのご活躍を見て、先生はどうおっしゃっていますか?

あはは! うれしそうにしてくれています。ポスターを持って行ったりすると、それをずっと飾ってくれていたり、いろんなところに張り替えてくれたり…。ポスターに画鋲のあとがいっぱいあるのを見ると、いろいろな場所に張ってくれたんだなってうれしくなります。

芸能の仕事のことを先生に説明するのも楽しいですね。この舞台はこういう舞台で、出演されている方はこういう方で…って。そうすると先生は「そっか、そっか」って聞いてくださいます。親孝行ではなく、恩師孝行? になっているかどうかはわかりませんが…。先生からすると、舞台上やテレビ画面の中で、僕の走り方が変わっていないところが懐かしく、うれしいみたいです(笑)。

ーーちなみに一色さんが陸上でなさっていた競技は何ですか?

短距離100メートルをやっていました。短距離の世界がすごい世界だなと思うのは、何年間も努力してきたことがたった10秒で決まることです。100m に集中するためには、板チョコ1枚分の糖分を使うという研究結果もあるのだとか…。だから、プロアスリートって本当にすごいんですよ。

一色洋平(撮影:咲田真菜)


ーー公演のお話に戻りますが、11月からお稽古が始まるにあたり、意気込みをお聞かせください。

僕の他に出演者が7名いらっしゃいますが、それぞれいろいろな役を演じられ、1人10役以上演じられる方もいらっしゃいます。演劇的仕掛けが面白い作品なんですが、一つひとつの役から、自分自身がどれだけ影響を受けられるかが大切だと思っています。

テーマはヘビーですが、この作品では、一主人公として真ん中に立ち、渦にちゃんとのまれたり抗ったりできるかが大事だと思っています。意気込むところは意気込みますが、それと同じくらい柔らかくいることも大事だろうと感じています。

ーー最後に、ファンの方へメッセージをお願いいたします。

まず一つに、公演が行われるパルテノン多摩という劇場に来てほしいです。僕は出演するのは初めてですが、公演を観に行ったことが何度もあります。環境が唯一無二なんですよ。都心に暮らしていらっしゃる方にとっては、息抜き、深呼吸のできる場所です。「こういう空気を欲していた」と鼻からも肌からも入ってくるみたいな場所なんですよ。

都心から少し電車に乗りますが、よかったら今作を機会にパルテノン多摩デビューしてほしいと思います。サンリオが好きな人にもおすすめですし、少し早めに来て散歩をするのもおすすめです!

演劇のいいところは、上演する価値のあるものを、今まさにリアルタイムで上演できるところだと思います。日本は平和ですが、国によっては、女の子がおもちゃを持って外を歩いていただけなのに爆撃にあってしまうという日常が今現在だってあります。そういう意味で『キオスク』は、決して遠い時代の作品ではないと思います。エンターテインメントとして楽しんで頂きつつも、遠い存在ではない物語として共有できたら嬉しいです。

公演期間が6日間と短いですが、その間、観客の皆さんと作品を一緒に育てていけたらと思っています。よかったら、12月の観劇リストに加えてください!

取材・撮影・文:咲田真菜

目次

『キオスク』公演概要

日程:2025年12月5日(金)~10日(水)
会場:パルテノン多摩・大ホール
チケット料金 ¥10,000(全席指定・税込)
チケット取扱い パルテノン多摩/イープラス/チケットぴあ
お問合せ先 パルテノン多摩共同事業体  042-376-8181(10:00~19:00休館日を除く)

作:ローベルト・ゼーターラー
翻訳:酒寄進一
演出:石丸さち子

出演:一色洋平  石黒 賢
壮 一帆  陳内 将  内田健司  小石川桃子
一路真輝  山路和弘

公式サイト:https://www.kiosk-stage.jp

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この記事を書いた人

国家公務員・一般企業勤務を経てフリーランスのライターになる。高校時代に観た映画『コーラスライン』に衝撃を受け、ミュージカルファンとなり、以来30年以上舞台観劇をしている。最近はストレートプレイも積極的に観劇。さらに第一次韓流ブームから、韓流ドラマを好んで視聴。最近のお気に入りはキム・ドンウク。

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