近藤公園、田代万里生、松尾諭インタビュー『キャプテン・アメイジング』【インタビューVol.35】

左から 近藤公園、田代万里生、松尾諭(撮影:咲田真菜)

Google

2025年7月26日(土)~8月3日(日)、東京・シアタートラムにて、せたがやアートファーム 2025『キャプテン・アメイジング』が上演される。

英国出身の劇作家アリスター・マクドウォールによる『キャプテン・アメイジング』は、2013年に英国で初演され多くのメディアが絶賛し、瞬く間に話題となった作品だ。スーパーヒーローに扮する一人の男とその娘の6年間の記憶の物語が一人芝居で描かれる。

演出を手掛けるのは、日本の近代戯曲から海外の翻訳作品、そしてミュージカルと多岐にわたる活躍で才能を発揮し、2022年には『ライカムで待っとく』で第30回読売演劇大賞作品賞を受賞するなど高い評価を得ている田中麻衣子。新しい視点と独自の感性で観客を惹きつける田中の演出が、本作の新たな魅力を引き出すに違いない。

一人芝居でありながら、客席への語りかけではなく、すべてが登場人物との対話として描かれ、いくつもの役を一人の俳優が演じて物語が進行していく。コメディシーンから心が締め付けられるような場面まで近藤公園、田代万里生、松尾諭がトリプルキャストで演じる。

このたびビジュアル撮影が行われた日に近藤公園さん、田代万里生さん、松尾諭さんにインタビューを行うことができた。ビジュアル撮影が終わったあとの近藤さんと松尾さん、インタビュー後に撮影を行う田代さんが、本作への意気込みを語ってくださった。

――本日、ビジュアル撮影があったということでいかがでしたか?

近藤:マントを羽織るのが初めてだったので楽しかったです。

松尾:全身黒の衣装、マントも黒だったので、すごくバットマン感がありました。背景がビビットな赤なので、黒が映えて僕にしては珍しくかっこいいビジュアルになったと思います(笑)。

田代:僕はこのインタビューのあとに撮影するのですが、お二人が結構動きをつけて撮影されていらっしゃいました。スーパーマンが飛んでいるかのような撮影風景で、ありとあらゆる動きをされていたからネタが尽きている感じです(笑)。今、そこをどうしたらいいのだろうと思っていて、ハードルが上がってしまいました。

(ここでビジュアル撮影風景の画像を見せていただく)

――本当に赤に黒が映えてかっこいいですね!

近藤:撮影で風を当てていただいたのも初めてだったので、新鮮でした。

『キャプテン・アメイジング』チラシビジュアル

――台本を少し拝見しましたが、胸がキュンとなってしまう物語でした。これを一人芝居で上演されるわけですが、出演が決まった時のお気持ちをお聞かせください。

松尾:「わー!」っていう感じですね。これはしんどいぞ…と。基本的に舞台はしんどいものですが、一人芝居なのでかなり動かなければいけないと思いました。台本を何回か読むにつれて動かないのもありかもしれないと思いましたが、稽古が始まっていないので、どうなるかわからないです…。

ただ、最初に台本を読んだ時はキャラクターがせわしなく動いている画が浮かびました。それを舞台の上で一人、せりふを言いながら演じるとなるとかなりカロリーを消費して痩せるなと思いました(笑)。

田代:お話をいただいた時に、一瞬「できるかな…」と躊躇する部分はありました。でもこれはご縁だから逃げちゃいけない、向き合わなきゃいけないと思いましたし、台本を読んだ時にこれは未来の自分かもしれないと思ったのです。自分と重なる部分がたくさん発見できたので、未知の世界だけど踏み込んでみないといけないと覚悟を決めました。

――田代さんはミュージカルで拝見することが多いですが、歌がなく一人で表現するというのは大変そうですよね。

田代:歌わないで演じた舞台は、これまで『ラビット・ホール』1作しかないんです。2作目にしていきなり一人芝居ということなので…。

松尾:まだ歌わないと決まったわけではないよね。

田代:(笑)。でも僕としては観終わった時にお客さんから「歌も聴きたかった」って言われないように中身を充実させてお届けしたいなと思っています。

――近藤さんはお話がきたときにどのように感じましたか?

近藤:「うえー!?」という感じですかね(笑)。今までで一番「えー!どうしよう…」「わー!ワクワク」という二つの思いがせめぎ合っています。ずっと動悸が激しい状態で台本を読ませてもらいました。

でも、この機会をいただいたからには、やらないわけにはいかないと思いました。僕の師匠である松尾スズキさんがかつて「一人芝居をやると見える世界が広がるよ。広がった後に愕然とすることもあるかもしれないけど」とおっしゃったんです。ですので、ついに僕にも来たか…と思いました。

――近藤さんの世界観は、どのように変わりそうですか?

近藤:そこはまだわからないですね。この間、松尾さんとお会いした時に、実はこういうコメントを引用させてもらいましたって言ったら「あれ? 俺、そんなこと言ったっけ?」とおっしゃっていて…(笑)。

果たして自分がその境地まで行けるかどうか、そこで愕然とするのか。そういうところも楽しみではあります。確実にいえるのは、味わったことのない時間は味わえるだろうと思います。未知の世界を覗けると楽しみにしています。

――今回トリプルキャストですが、お三方のキャラクターが全く違うと感じています。このキャスティングはすごく面白いと思うのですが、皆さんご自身はどう思っていらっしゃいますか? またトリプルキャストとしてお互いに意識すると思いますか?

近藤:タイプが違う人がトリプルキャストでやったほうが、見比べる面白さがあると思います。でも僕自身はそんなに意識することはないですね。お互いの稽古を見るのかどうか分からないですけど、もしそういう時間がなかったとしても、各々から出たものを(演出の)田中麻衣子さんが受け取って何かしらフィードバックしてくださると思います。「こういうのがきた。どちらからのアイデアかな?」と思うでしょうから、そういうのが楽しみですね。

――田代さんはダブルキャストの作品に数多く出演されていますし、慣れているかもしれませんが、今回はいかがですか?

田代:僕はトリプルキャストのおかげで、お二人のバージョンの『キャプテン・アメイジング』を観る権利を得たというのが喜びですね。シングルキャストだったら、この舞台は絶対に観られないわけですから。客観的に作品を観られるのが楽しみです。

――他の方の役作りを観て、焦ったりすることはありますか?

田代:ありますよ! でもその逆もあります。方向性は間違っていないと再確認ができるし、違うバージョンを観たことによって新しいアイデアが生まれる時もあるので、結果として僕の中ではいいことばかり起きています。

――松尾さんはいかがですか?

松尾:3人というのはどうなんだろう…と思ったりもしましたが、結局一人で演じるわけですからね。多分稽古もバラバラでしょうし、特に何か変わることはないかなと思います。

2人がどういう風に演じているか、自分の出番が終わったら観に行きたいと思っています。ただ3人だろうが5人だろうが、そんなにやることは変わらないと思います。多分、田中さんは楽しいんじゃないかなと思うので、それを考えると悔しいな…と。

――どういう意味の悔しさですか?

松尾:演出は大変だと思いますけど、同じ人の芝居を毎日見るのではなく、毎日3人の違う芝居を見るわけですよね。それは絶対に楽しいと思いますよ。だからすごくうらやましいし悔しいな…(笑)。演出をつけるのは、大変だと思いますけどね。

――確かにおっしゃるとおり、3人が演じるのであれば絶対に違うものになりますからね。

松尾:絶対に違うと思います。何か影響されることがあるかもしれないですが、他の人の役作りを見たところで真似はできないですからね。(冗談っぽく)田代くんは全編で歌うかもしれませんが、そんなの僕は絶対に真似できませんから(笑)。

田代:ないない!(笑)。

左から 近藤公園、田代万里生、松尾諭(撮影:咲田真菜)

――演出を手掛ける田中さんのお話が出ましたが、田代さんは田中さんとご縁がありますが、近藤さんと松尾さんは初めてですよね?

松尾:今日、初めてお会いしました。

近藤:僕は昨年出演していた舞台を田中さんが観に来てくださって、そのときが初対面でした。

――田中さんとは具体的に役づくりについてお話はされましたか?

近藤:まだそこまではお話していないですが、何でも受け止めてくれそうな雰囲気を持っていらっしゃいます。臆せずにできそうです。

田代:いつも自由にやらせていただいていて、麻衣子さんの前では遠慮なく挑戦できるイメージがあります。やりすぎたり足りなかったりするときは、もちろんアドバイスをくださるんですが「これをやったらやりすぎかな」と思わずに芝居ができる人間関係を築かせていただいています。

演出家っていろいろなタイプがいらっしゃって、すごくリーダーシップがあって「こっちだ!」と引っ張ってくださる方もいらっしゃいますが、麻衣子さんのイメージは引っ張るというよりはグーッとどんどん押し上げてくれる感じです。今回、パワーアップバージョンでくるのか、それとも違う麻衣子さんと出会えるのか、どっちなんだろうと楽しみにしています。

松尾:すごく柔和な方だと思いました。先ほど一緒に取材を受けて、田中さんが同じことをするのではなく変えていくことが好きとおっしゃっていたんです。一緒にものを創るのが楽しくなりそうだという印象がありました。

――今回のキーワードになっているのが「スーパーヒーロー」ですが、皆さんにとってのスーパーヒーローは誰ですか?

田代:僕の父親がテノール歌手だったので、自分の名前の由来でもあるテノール歌手のマリオ・デル・モナコがスーパーヒーローでした。世界一かっこいいと思っていましたし、ずっと聴いていました。マントといえば戦隊ヒーローをイメージしますが、そうじゃないスーパーヒーローが好きでした。

それには理由があって、僕は子どもの頃、戦隊ものが苦手だったんです。同級生はチャンバラやゲームで戦っていましたが、戦うことそのものが苦手でした。争いごとが好きじゃないんですよね。パンチとかしない平和的なヒーロー、例えばみつばちハッチみたいなものが好きでした。

松尾:子どもの頃からヒーローや好きなキャラクターはいろいろいました。でも大人になってから感じるのは、災害とか世界中で大変なことが起きている中、いろいろなものを作ったり直したり、縁の下の力持ちじゃないですけど僕らの見えないところで頑張っておられる人がたくさんいらっしゃいます。そういう人たちって身近な人にとってもヒーローだし、直接関係しない人にとってもヒーローだと思うんですよ。

たくさんのヒーローが世界中にいるんだと思って、そのうちの一人がこの作品に出てくるマークだと思います。……真面目に答えちゃった!(笑)

近藤・田代:(笑)

近藤:お二人のお話を聞いてふっと思い出したのは、子どもの頃、魚市場に行った時に親とはぐれちゃったことがあって、野良犬に追いかけられたんです。その時にあるおじさんが、野良犬を追っ払ってくれたことがありました。たまにふっと思い出すことがあるので、自分にとってはそのおじさんがヒーローだったと思います。

――戦隊もののヒーローの名前が出てくるかと思いきや、素敵なお話をお伺いできて良かったです!

松尾:良かったです。寝ずに考えてきましたから(笑)。

――マークを演じるにあたって、今の段階でどういう風に役作りを考えているか、教えていただけますか?

松尾:何回か台本を読んでみましたが、まだ全然固まっていません。ただ、マークというキャラクターを固めずに作っていけたらと思います。僕の中のマークに出会えるのを楽しみにしながら、常にその気持ちで最後まで走れたらと思います。

田代:家族の話なので、奥さんや娘の顔・声が、僕の中で具体的に思い浮かぶような域までマークを生きていきたいと思っています。

近藤:まだどうするか固まっていませんが、マークの特徴の一つに口下手な部分があって、口下手に関しては絶対お二人に負けないと思っています(笑)。

マークが娘とのやり取りの中で、何とか必死に思いを伝えようとつたないながらも言葉を絞り出す姿にハッとさせられる瞬間があります。そういうところを大事に進んでいきたいなと思っています。

――今回の公演を楽しみにしている方に、メッセージをお願いします。

近藤:アメコミやヒーローものに馴染みがある方は、タイトルの『キャプテン・アメイジング』というのを見て「おっ!」と思うかもしれません。そういうものが好きな方はもちろん、馴染みのない方も楽しめる作品だと思います。

マークが頼りなかったり、ダメだったりする部分をおかしみとして、お客様に楽しんでいただくことを目標にしています。夏休み期間中ですので、ぜひ親子で観ていただきたいです。

田代:この作品はごく日常を描いていて、マークの脳内劇場がずっと続きます。でもいわゆる歴史物とか難しいワードが出てくるわけではなく、日常会話がずっと続いていくし、誰にでも当てはまることだらけの話です。事前に何かを読んでおかないといけないとか勉強しなきゃいけないというのは全く無いので、ふらっとシアタートラムに来ていただきたいなと思います。できれば誰かと一緒に来て、観終わったあとに感想を言い合って楽しんでいただきたいです。

松尾:3人でやる意味がありますし、同じ台本ですが、三者三様で全然違うものになると思います。もしお金と時間に余裕があれば、3人見比べてもらいたいですね。真夏で暑い時期ですけど、劇場はクーラーが効いていますので、夏休みを劇場で過ごしていただくのもいいんじゃないかなと思います。

田代:この作品は、短くてサクッと観られるのがいいですよね。

松尾:そうね! サクッとね。ぜひ!(笑)。

取材・文・撮影:咲田真菜

左から 近藤公園、田代万里生、松尾諭(撮影:咲田真菜)
目次

せたがやアートファーム2025『キャプテン・アメイジング』

【作】 アリスター・マクドウォール
【翻訳】 永田景子
【演出】 田中麻衣子

【出演】 近藤公園/田代万里生/松尾諭 (トリプルキャスト・五十音順)

【東京公演】 2025年7月26日(土)~8月3日(日) シアタートラム
【お問い合わせ】
世田谷パブリックシアターチケットセンター https://setagaya-pt.jp/
03-5432-1515(10:00~19:00)

【主催】 公益財団法人せたがや文化財団【企画制作】 世田谷パブリックシアター
【後援】 世田谷区 世田谷区教育委員会

【愛知公演】 2025年8月23日(土)~8月24日(日)  春日井市東部市民センター
【お問い合わせ】かすがい市民文化財団 0568-85-6868
【主催】公益財団法人かすがい市民文化財団
*愛知公演の出演は近藤公園/松尾諭(ダブルキャスト・五十音順)

『キャプテン・アメイジング』 公式X(旧Twitter)】 ユーザー名 :@captain_a_sept
【『キャプテン・アメイジング』 公式Instagram 】 ユーザーネーム:captain_amazing_sept
【世田谷パブリックシアター公式X(旧Twitter)】 ユーザー名: @SetagayaTheatre
【『キャプテン・アメイジング』公式ホームページ】 https://setagaya-pt.jp/stage/25010/

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

国家公務員・一般企業勤務を経てフリーランスのライターになる。高校時代に観た映画『コーラスライン』に衝撃を受け、ミュージカルファンとなり、以来30年以上舞台観劇をしている。最近はストレートプレイも積極的に観劇。さらに第一次韓流ブームから、韓流ドラマを好んで視聴。最近のお気に入りはキム・ドンウク。

目次