2025年2月13日(木)〜2月23日(日)シアターグリーンBox in Boxにて、舞台『ナイト・ウィズ・キャバレット』が上演される。
芸能⽣活50周年を迎えた、元宝塚歌劇団⽉組男役トップスターで⼥優の剣幸が、2人の男⼥の俳⼈の機微を描いた、劇作家⻄史夏による『ナイト・ウィズ・キャバレット』に挑む。
本作は、第2回せんだい短編戯曲賞の⼤賞を受賞後、10年以上の時を経て、新作として上演。演出は、脚本に演出にと⾃⾝のユニット「あやめ⼗⼋番」のみならず多くのプロデュース公演で活躍中の堀越涼が務める。
剣が演じる五所踏⼦(ごしょ・とうこ)の相⼿役、鏡千⾥(かがみ・せんり)役はシリアスな芝居からコント、ミュージカル、ラジオドラマにと活躍中の小林タカ⿅が務める。
このたび剣幸さんにインタビューをする機会に恵まれた。芸能⽣活50周年を迎えた心境や本公演への意気込みについて語ってくださった。
――まずは50周年おめでとうございます。改めてお気持ちをお聞かせください。
剣幸(以下剣):実は、あまり50年という意識がないんです。周りが「50年目ですね」とおっしゃってくださるので「あ、50年やってきたんだな」と気がつくぐらいの感じです。この1年は、自分が50年続けてきたということよりも、50年続けて観てくださる方がいるありがたさを改めて感じました。
――2月に上演される舞台『ナイト・ウィズ・キャバレット』は、お稽古前(取材時:1月初旬)とのことですが、どんな作品にしていきたいとお考えですか?
剣:一人芝居でもない、多くの人数で作るのでもない、2人だけで 2人の人生を追っていく面白さがある作品です。舞台上には2人しかいませんので、言葉の応酬もあるでしょうし、思っていることを全部ぶつけ合ってバトルをします。大正から昭和にかけ戦争に向かっていく暗い世の中が背景にありますが、お互いにどう生きたかが、お客さんに伝わるように演じたいですね。
出演者が2人だけなので、お客様は集中して見てくださると思うし、時代が暗い方向へ行く中でショーの場面があったりと華やかさもあったり…。緩急をつけながら持っていければ、面白い作品になると思っています。
――今回演じられる役は俳人ですが、剣さんご自身は、俳句はたしなまれますか?
剣:(笑顔で即答)たしなみません! 私、何年か前に3年間NHKの短歌の番組の司会をさせていただいたんです。必ず毎週1首作っていかなきゃいけなくて、すごく苦労して3年間務めました。短歌に触れられて幸せでしたが、3年間で才能がないんだと、ほとほと思い知りました(笑)。
31文字でも難しいのに、俳句は17文字ですし季語を入れなければいけないし…。俳句は物を見る目と感性が相当養われてないと作れないと思っています。だからこそ面白いのでしょうね。
――剣さんが演じる五所踏子は、夢のために嫁ぎ先の家を飛び出します。その後の人生どうなっていくかというのが年ごとに描かれていくのは、特に女性に刺さりそうですね。
剣:そうでしょうね。今回私が演じる五所踏子は、普通の奥さんなのに、俳句ができない抑圧された環境から逃げ出します。自分の感情や夢がすごく大きかった人だろうし、師匠の鏡と一緒に過ごす時間がすごく大切だったと思います。そして、彼女自身もどこかで女性というものを認めてほしかったから、俳句をずっと続けたのでしょうね。
踏子と鏡、2人の男女の人生が交錯していくので、そこの面白さを楽しんでいただきたいですし、踏子の人生は、舞台を観た方それぞれの感覚で楽しんでいただければと思います。
――俳人・五所踏子をどのように演じていきたいと思っていらっしゃいますか?
剣:具体的には考えていないです。もちろん台本をいただいた時のインスピレーションはありますが、それを崩していくのがお稽古場だと私は思っています。相手があっての芝居だから2人でキャッチボールをしながら積み上げていきたいですし、あまり「こうだ!」と決めていないです。
ただ 女性としての信念みたいなものだけは持っておきたいですね。あとは、演出の堀越さんがどんな色をつけてくださるかを楽しみにしています。
――五所踏子さんはすごく熱いものを持っている方だと感じました。パッションを出す感じになりそうですか?
剣:もちろんそれもあります。でもそれだけじゃないと思うんですね。俳人としてどうあるべきなのか、それを模索しながら生きた人です。彼女にはいろいろな感情がいっぱい渦巻いているので、パッションだけじゃない何かが見えてくるほうがよいのでは…と思っています。
――小林タカ鹿さんとは初共演だと思いますが、印象はいかがですか?
剣:この間お会いしたのですが、あまりのかっこ良さに「ひえ~~」となりました(笑)。俳句を詠む人は、ちょっと違う世界にいるイメージがあるんですが、そのイメージにぴったりな方だと感じました。タカ鹿さんが演じる鏡が「俳句はこうだ!」とおっしゃった時の声の響き方がすごく素敵で、せりふの裏にあるものまで全部表現してくださるんじゃないかなと思います。
踏子は、師匠としてはもちろんのこと、鏡にぞっこんですよね。タカ鹿さんは立っていらっしゃるだけですごく素敵なので、そういう意味でもすごくやりやすいと思います。
――演出の堀越さんの印象はいかがですか?
剣:私は申し訳ないのですが、堀越さんの舞台を拝見したことがないんです。ただ、他の方からいろいろな情報をお聞きして、すごく才能のある方なんだなと思っています。それなのにご本人は一切そういう感覚を外に見せないんです。第一印象は「この少年っぽい人が演出家?」と思ったぐらいです。(一同爆笑)
でもお話を聞いていると、堀越さんの中にあるクリエイティブなものが面白く出てくると感じています。今の世の中に合っているでしょうし、ものすごいアイディアが彼の頭の中にあるんじゃないかという印象を受けました。軽やかな感覚とそれとは正反対のものを持ち合わせていらっしゃるので、今風でもあり昔っぽくもあり、それらがミックスされてすごく面白くなりそうです。
――今回はショーの場面もあるとのことで、俳句とショーを合わせるとどうなるのか興味深いです。
剣:俳人もショーに出演する人たちも同じ表現者ですよね。戦争に向かっていく時代なので、この言葉を使ってはいけないとか、外国の歌を歌っちゃいけないみたいなことがありました。さまざまな規制をかけられている点で、俳人もショーに出演する人も一緒です。そこでお友達同士という関係性からちょっとだけ交流する一場面として、華やかな大正ロマン的なショーをお見せします。美しくて楽しい場面だけれども、時代は暗い方向へ向かっていく…という対比が表現できればと思います。
――冒頭でもお伺いしましたが、改めて舞台俳優として50周年迎え、どんな気持ちをお持ちですか?
剣:まず、私にとっては宝塚音楽学校に入学させていただけたのがあり得ないことでした。私は当時、工業高校に通っていたので、音楽の授業がなかったんです。それなのに宝塚音楽学校を受験すると言ったものですから、まわりは「えーー!」ってなりますよね。
宝塚音楽学校へ入学できましたが、私はものすごく低レベルなところから始まっているので、できる人たちから見ると蚊帳の外でした。だから気楽なんですよね。「下手!」と言われても「そうですよね」って何もかも受け入れられたので、嫌だと思ったこともしんどいと思ったこともなかったです。
その感覚でこれまできていますし、舞台が好きでやってきたので、楽しいから気がついたら50年経っていましたね。
――原点はやはり宝塚音楽学校、宝塚歌劇団というところだと思いますが、特に印象に残っていることはありますか?
剣:宝塚歌劇団で、みんなと何かを作る面白さを教えてもらいましたし、自分の居場所だと思えました。一番自分の人生に合っていたし夢を見られるところでした。(舞台を)いつまで続けられるか分かりませんけど、ずっとこのまま歌ってお芝居していけたら 本望だなって思います。舞台の上で死にたいとまでは言いませんけど(笑)。本当に神様に感謝だし、親にも感謝だし、周りのスタッフの方々、もちろん観てくださっているお客様にも感謝しかないですね。
――私が直近で剣さんを拝見したのは、ミュージカル『エリザベート』のゾフィーでした。歌声はもちろんのこと、ゾフィーが絶命するときの演技は素晴らしかったですね。あのシーンで観客席から拍手が沸き起こったのは、初めてのことだったとか…。
剣:ありがとうございます。ゾフィーは悪役、うるさい姑と思われていますが、それだけじゃないですよね。国を守るものすごい使命があり、少しわがままなエリザベートが嫁いできてしまった。ただそれだけのことだったんです。ミュージカルは「なぜここで歌うのか」という意味が観客の皆さんに伝わることが大切だと思うので、そういう芝居を心掛けて演じました。
――難しいとは思いますが、50年の中でターニングポイントになった作品や印象に残っている作品を一つあげるとすると何でしょうか?
剣:めちゃくちゃ難しいですね…。ターニングポイントというわけではありませんが、宝塚でミュージカル『ミー&マイガール』という作品を1年間演じさせていただいたことです。同じ組で続演って、今ではないですよね。改めて宝塚で育ててもらったので、今までずっと舞台を続けられたのかな…と思います。
――最後にファンの皆様にメッセージをお願いします。
剣:いろいろな時代のいろいろな国の二人芝居がありますが、この作品は俳人2人が戦争に向かっていく時代に必死に生きたことを表現しています。舞台上の2人の熱いバトルを見て、その世界観を感じていただけたら嬉しいです。
特に女性の方は「どの時代でも上を目指す人たちがいたんだ」と、情熱や生き様に胸を打たれるのではないかと思います。この作品を観て「明日からまた頑張ろう!」と思ってもらえたらうれしいです。
そして今は詳しいことはいえませんが、作品の中でサプライズ的なシーンもありますので、楽しみにしていてください。
取材・文:咲田真菜
写真:オフィシャル提供
『ナイト・ウィズ・キャバレット』公演概要
【公演スケジュール】2025年2⽉13⽇(⽊)〜2⽉23⽇(⽇)
【劇場】シアターグリーンBox in Box
【チケット】全席指定11,800円
脚本:⻄史夏
演出:堀越涼(あやめ⼗⼋番)
出演:剣幸/⼩林タカ⿅
公式HP https://night-with-cabaret.com/
公式X 問い合わせ︓info@night-with-cabaret.com
主催:『ナイト・ウィズ・キャバレット』製作委員会