演出家・桐山知也インタビュー「尖ったチャレンジをなんとしてでも成功させたい」【インタビューVol.30】

桐山知也

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2025年2月15日(土)~ 2025年3月2日(日) 東京・シアタートラムにて、サイモン・スティーヴンス ダブルビル『ポルノグラフィ PORNOGRAPHY/レイジ RAGE』が上演される。

本公演では、イギリスの劇作家サイモン・スティーヴンスの戯曲『ポルノグラフィ』と『レイジ』を同じ演出家と同じ出演者によって同時上演。出演者は亀田佳明、土井ケイト、岡本玲、sara、田中亨、古谷陸、加茂智里、森永友基、斉藤淳、吉見一豊、竹下景子で、演出は、2021年にKAAT神奈川芸術劇場でリーディング公演『ポルノグラフィ』を上演した桐山知也が手掛ける。

このたび本格的な稽古に入る前の2024年12月下旬、桐山知也さんにインタビューをする機会に恵まれた。今回の上演にかける意気込みや、演出家を目指したきっかけについて語ってくださった。

桐山知也

――今回の公演で、桐山さんが目指しているものをお聞かせください。

桐山知也(以下、桐山):2つの作品はイギリスの劇作家サイモン・スティーヴンスさんが書いたもので、それぞれを比較すると、一見静かな作品とガチャガチャした作品という印象があります。その差をはっきり見せたいと考えています。この作品を2つ同時に上演して同時に観られるのは、おそらく世界初の試みでこの先も機会はあまりないと思いますので、2つの作品だけれど一つの世界、それはまさに僕らが今住んでいる世界なんだとこちらに迫ってくるような時間と空間を、舞台上で表現したいと思っています。

――2つの作品は書かれた年代が違いますが、それぞれの作品の魅力をどのように見せていこうと思っていますか?

桐山:『ポルノグラフィ』はサイモンさんの代表作の一つで、日本で何度も上演されています。2005年にロンドンで起きたテロ事件の前後数日間を描いた話ですが、それがあるから『レイジ』があると思っています。『レイジ』については、あるイギリスのメディアが、EUを離脱するイギリスに向けてサイモンさんからのラブレターだと、書いていました。このふたつの作品を通してみることで、2005年、2016年を経て時代が僕らのほうに迫ってきている感覚があります。

現在打ち合わせをしたり、台本を読んだり、プレ稽古をやっていると、世界がどんどん劣化してきているんじゃないかってまざまざと感じています。『ポルノグラフィ』は内なる声を僕らが耳を立てて聞く感じですが、『レイジ』は怒りをぶつけられ、無防備に聞かされてしまう感覚があります。2つの作品のそれぞれの質感みたいなものを出しつつ、それらが迫ってきて現在の世界になっているということを表現できればと思います。

――最近、桐山さんはサイモンさんの作品にご縁がありますね。

桐山:KAAT神奈川芸術劇場で上演した『ポルノグラフィ』のリーディング公演からですが、もちろん以前から、サイモンさんのことは知っていましたし日本で上演されたサイモンさんの作品を観たりしていました。現在、世田谷パブリックシアターの芸術監督をされている白井晃さんが、KAAT神奈川芸術劇場で芸術監督をされていた時に「リーディング公演をやってみない?」と誘ってくださって、そこでサイモンさんの作品の台本と向き合ったらびっくりするほど面白かったんですよ。すごく暴力的でもあるけどあったかい部分があって「何だろうこれは?」とずっと引っかかりがあったんです。

今回、僕はこのふたつの作品のどこに引っかかっているんだろうと考えながら、俳優さんやスタッフの皆さんの力を借りつつ見つけていく作業がとても面白くなると思います。サイモンさんの作品はすごく自由ですし、でも自由すぎるから苦しい部分もあって、もうちょっと書いてくれよって思うところもありますが…(笑)。

――サイモンさんの作品が自由すぎるっていうのは本当にそうですね(笑)。『ポルノグラフィ』の台本を少し拝見しましたが、何人の役者さんが演じてもいいとか、演じる場面の順番はどうやってもいいとか、そこまで自由なのは、演出家として楽しいものでしょうか?

桐山:楽しいですけれど、この台本に対してどんな考えや態度で取り組むのかを突きつけられているような感じがしますね。僕らも今回シーンの順番を入れ替えるので、それはどういうことなのかをまず稽古場にいる皆さんと共有しなければいけないですね。観に来られるお客さんは、もともとの順番を知らないかもしれないですけど、今回この順番で表現する意味がちゃんと伝わるようにしたいです。

それにしても自由ですよね(笑)。ト書きなのかせりふなのか分からないところがあったり、どちらがしゃべっているのか、演出家におまかせだったりしますね。例えば今回『ポルノグラフィ』の中で、兄と妹が登場するシーンがありますが、『ポルノグラフィ』世界初演では兄と弟だったみたいです。それを後から知って「しまったな…」と思いました。それぐらい自由度が高い作品です。

――今回の上演は、白井さんのアドバイスがあったから…というお話がありましたが、桐山さんとしてはサイモンさんの作品について、まだまだわからないところがあるから掘り下げていきたいと、そういう気持ちがあったりしましたか?

桐山:そうですね。前回はリーディングだったので、いつかきちんと芝居でやりたいとずっと思っていました。リーディング公演から3年ぐらいしか経っていないですけど、今『ポルノグラフィ』を読むとどんな感じになるかなと気になっていました。

『ポルノグラフィ』も『レイジ』も書かれていることは、どこか予言っぽいんですよね。いま現在、それよりもっと先のことも書かれているような気がします。先ほど「世の中が劣化した」という話をしましたが、『レイジ』の中では世の中の劣化ぶりがすごくて、ちょっと先に進み過ぎている感じもしますが、一方で実際の世の中の方が劣化が進んでいる部分もあります。この予言めいた台本と向き合うのは、少しオーバーかもしれませんが、自分がどう生きるのかということを確認できる気がします。

――サイモンさんの作品の魅力はどんなところだと思いますか?桐山さんはご本人と対談されたこともあるんですよね。

桐山:はい。お会いしたことがあります。ご本人は大柄な方で、第一印象は「怖い人かな…」と思ったんですが、実際はすごく優しくて、大きい声でよく笑う方でした。サイモンさんの作品の魅力は、暴力、愛、優しさが表裏一体で現れたりとか、突然シュッと世界が広がったりとか、すごく個人的なことを書いているようで実は大きい世界が立ち上がってくるような、不思議な瞬間が何回もあって、それが素敵だと思うんですよね。

――今回ハードな舞台になるんじゃないかなと思いますが、出演者が11名で、2025年の年明けからお稽古が始まるとお聞きしています。出演者の皆さんに求めることは何かありますか?

桐山:自由に演じていただきたいですね。舞台はみんなで作るものなので、自分の役やシーンだけじゃなく、全員でこれはこういうことじゃないかとか、やや無理やりな読み方や表現の仕方でもいいので、みんなで自由に考えていきたいです。『ポルノグラフィ』は、ワンシーンに一人とか二人しか出ませんが、全てのシーンが並んで初めて作品になるし世界が見えるので、楽しくやっていきたいです。

――桐山さんは、みんなで話し合ってディスカッションしながら作り上げていくイメージなんですね。

桐山:そうですね。そういうイメージが多分強いですね。今プレ稽古をしていますが、出演する俳優さんが「桐山さん、考えがあるなら決めてよ」っておっしゃるけれど、それはまだ出さないようにしています。そういうこともやりながら、相談しながらできるといいかなと思います。

――それは桐山さんのいつもの手法ですか?

桐山:最近、そういう作り方が多いかもしれないですね。昔は「右足から2歩歩いてせりふを言って」みたいなことをやっていた時期もありましたが、今考えると恥ずかしいですね(笑)。

――俳優さんが持ってきた、例えば役作りとか役に対する思いを割とそのまま受け入れていらっしゃるとか?

桐山:受け入れられるものは、受け入れています(笑)。俳優さんがそう思うに至ったのはなぜかということに、すごく興味がありますね。そのプロセスが面白いと思っているので、なるべく聞きたいと思っています。

――この作品で、桐山さんが新しくチャレンジしたいことは何ですか?

桐山: 演出家という職業柄、どうしても台本を正しく理解しようと務めるんです。今回は、少し言い方が良くないかもしれないけれど、理知的に作りすぎないようにしたいと思っています。『ポルノグラフィ』はだいぶ理知的にできるような気がしますが、『レイジ』のほうはかなり支離滅裂なので、あまりそこに理知的にアプローチし過ぎないように「辻褄は合っていないけど、やっちゃえー!」みたいな感じで飛び越えたいし、大胆なチャレンジが今回集まった出演者とスタッフの皆さんとならできると思っています。

桐山知也

――ちょっと公演の話からはそれますが、桐山さんはなぜ演出家になろうと思われたのですか?

桐山:おそらく初めて劇場で見た作品は、劇団四季のあるオリジナルミュージカルでした。当時、絵を描くのが好きな小学生で、パンフレットを買ったら、たまたま「衣装ができるまで」みたいな記事があったんです。「こういう仕事があるんだー」と思い、舞台美術の仕事って面白そうだなって漠然と考えていました。

でも舞台の美術だけじゃなくて、いろんなことを好きなようにやれる人がいるらしいというのを聞いて、それが演出家だったんです。当時、親戚の人たちに「最近舞台を見始めた」と言うと「じゃあ浅利(慶太)さんみたいになるの?」と言う人がいたんですよ。その頃から演出家という仕事を意識するようになりました。

――実は桐山さんのプロフィールを拝見して岐阜県出身ということで、私は愛知県出身なので親近感がわいたんです。劇団四季はおっしゃるとおり以前から名古屋でも公演をしていますが、舞台公演の中では、いわゆる「名古屋飛ばし」をされて名古屋で観られないことがあったと思うんです。ですので、どのように舞台に興味を持ったのか、演出家を目指すきっかけは何だったのだろう…と疑問に思ったんです。

桐山:僕の母親が、舞台に興味を持っていたことも影響していたかもしれません。劇場へ行くことがそれほど特別なことではなかったというか…。僕は岐阜県の多治見市の出身なので、比較的電車で名古屋へ出やすかったんです。中日劇場で舞台を観て、帰りに松坂屋に寄ってご飯を食べて帰るという、いわゆる「晴れの日」みたいな感じがありました。松竹さんの公演が名古屋にくれば観て、パルコさんの公演がくれば観て…それが続いていった感じですね。

――今回はシアタートラムで初演出ということで、楽しみなことはありますか?

桐山:自由が利く劇場だと思うので、今回も自由にやらせていただく予定です。初めて来たのは、学生時代にピーター・ブルックの「しあわせな日々」を観たりしたときで、劇場ってこんなことができるんだなと感じたり、来るたびに毎回違う印象を抱いていました。

お芝居を観ている人にもあまり観ていない人にも「劇場ってこんなことができるんだ」と、少しでも伝えられたらいいかなと思います。トラムはお客さんと近いので、伝わりやすい反面、観客の皆さんに見破られてしまう怖さは感じますけどね。

――最後に公演への意気込み等をお聞かせください。

桐山:今回2本上演するということで、かなり世田谷らしい尖った企画だと思いますし、自分が一観客だったら観に来るだろうなと思います。劇場側からの期待にも応えたいし、もちろんお客さんの期待にも応えなきゃいけないので、本稽古が近づいてきてちょっとヒリヒリするような思いでもあります。

繰り返しになりますが、この無謀なチャレンジ、尖ったチャレンジをなんとしてでも成功させないといけないなと思っています。出演する俳優さんとスタッフの皆さんにかなり負担をかけるので、それに見合うだけのものを作りたいです。そしてお客さんには長時間トラムの椅子に座ってもらうことになるので、それが気にならないというか、気になってもそれだけの価値があったという思いを持って帰ってほしいです。

作品自体は、分かりづらい表現も多々あるような気がしていて、お客さんに想像してもらい、パズルを組み合わせるような感じになるかもしれません。ただ物語を受け入れるだけじゃなく、自分も参加しているみたいな感覚をお客さんに感じてもらえたらなと考えています。大変な稽古になるだろうと思いながらも、きっとこれまでにない楽しい経験になるだろうなという感じがしています。

取材・文・撮影:咲田真菜

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桐山知也(きりやま・ともや)プロフィール

舞台演出家。岐阜県生まれ。主な作品に『紙風船』『命を弄ぶ男ふたり』『ベニスの商人』(水戸芸術館ACM劇場)『わが町』(文化庁次代の文化を創造する新進芸術家育成事業)『THE GAME OF POLYAMORY LIFE』(趣向)『彼らもまた、わが息子』(俳優座劇場プロデュース)『ポルノグラフィ』(KAAT神奈川芸術劇場 リーディング公演)『THE PRICE』(劇壇ガルバ)『彼方からのうた』(ゴーチ・ブラザーズ)『最後の面会』(名取事務所)など。

また、演出助手等として、野村萬斎、白井晃、蜷川幸雄、サイモン・マクバーニーといった演出家の作品に参加。近年の参加作品に『ある馬の物語』(白井晃演出)『子午線の祀り』(野村萬斎演出)『罪と罰』(フィリップ・ブリーン演出)『ハムレット』(サイモン・ゴドウィン演出)などがある。

2010年文化庁新進芸術家海外研修制度研修員として1年間ベルリンにて研修。

サイモン・スティーヴンス ダブルビル『ポルノグラフィ PORNOGRAPHY/レイジ RAGE』公演概要

宣伝美術:秋澤一彰 宣伝写真:山崎伸康

日程:2025年2月15日(土)~ 2025年3月2日(日)
会場:シアタートラム
料金:一般 8,000円 高校生以下 4,000円

演出:桐山知也

出演:亀田佳明、土井ケイト、岡本玲、sara、田中亨、
古谷陸、加茂智里、森永友基、斉藤淳、吉見一豊、竹下景子
スウィング:伊藤わこ、森永友基

お問い合わせ:
世田谷パブリックシアターチケットセンター03-5432-1515
営業時間:10:00~19:00

公式サイト:https://setagaya-pt.jp/stage/16041/

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この記事を書いた人

国家公務員・一般企業勤務を経てフリーランスのライターになる。高校時代に観た映画『コーラスライン』に衝撃を受け、ミュージカルファンとなり、以来30年以上舞台観劇をしている。最近はストレートプレイも積極的に観劇。さらに第一次韓流ブームから、韓流ドラマを好んで視聴。最近のお気に入りはキム・ドンウク。

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