2024年9月27日(金)大阪・サンケイホールブリーゼを皮切りに全国17ヶ所を巡演中の舞台『裸足で散歩』が、11月8日(金)に15ヶ所目となる銀座 博品館劇場での東京公演がスタートした。
本作はブロードウェイを代表する喜劇作家、ニール・サイモンによる戯曲だ。ブロードウェイでのヒットに続き、ニール・サイモン自身が映画用に脚色。駆け出しの弁護士で慎重派の夫役にロバート・レッドフォード、社交的で自由奔放な妻役にジェーン・フォンダを迎え、舞台でも演出を担当したジーン・サックスが監督を務めて1967年に世界中でヒットした。
2022年に全国5ヶ所にて上演し好評を博した『裸足で散歩』だが、待望の再演となる本公演の演出は、ミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』の脚本・作詞や、2025年上演予定の舞台『刀剣乱舞』十口伝 あまねく刻の遙へ の脚本・演出を手掛けることが発表と同時に大きな反響を呼んでいる元吉庸泰が、前作に続き務める。
出演は、真面目で少し融通が利かないところもあるが、とにかく妻コリーを愛している新米弁護士ポール・ブラッター役を、第46回菊田一夫演劇賞・演劇賞を受賞し、ストレートプレイからミュージカルまで八面六臂の活躍を続ける加藤和樹、自由奔放だけどしっかりしているところもあり、夫ポールのことが大好きな新妻コリー・ブラッター役を、前作が初舞台で、現在俳優活動以外に音楽活動にも力を入れる高田夏帆が、再びラブラブな新婚夫婦を演じる。
また、真面目に仕事をしているだけなのになぜか変なことに巻き込まれてしまう電話会社の男役には、劇団ラッパ屋の旗揚げメンバーの一人でもある実力派俳優の福本伸一が新たに参加。さらに、一風変わった住人ヴィクター・ヴェラスコを怪しくも憎めないキャラクターとして演じるのは、第56回紀伊國屋演劇賞個人賞に加え、第29回読売演劇大賞優秀男優賞を受賞している松尾貴史、自由奔放な娘とは正反対で保守的な性格で若い夫婦を温かく見守るコリーの母バンクス夫人役には、演劇人としてだけでなく声優としてもファンから支持される戸田恵子が、前作から続いて務める。
【あらすじ】
寒い2月のニューヨーク。古いアパートの最上階に新婚のポール・ブラッター(加藤和樹)とコリー・ブラッター(高田夏帆)が引っ越してきた。工事に来た電話会社の男(福本伸一)も息切れして話せないほどの階段。エレベーターはなく、天窓には穴があき、暖房も壊れ、家具も届いていない。夜には雪が降るらしい。アパートには不思議な住人がたくさん住んでいる。その中のひとり、屋根裏部屋に住むヴィクター・ヴェラスコ(松尾貴史)はブラッター家の窓を通って自分の部屋に行く。コリーはここでの生活をすごく気に入り楽しんでいるが、真面目な弁護士のポールはこのアパートに馴染めずにいた。ある日コリーは、母であるバンクス夫人(戸田恵子)との食事にヴェラスコを誘い、食事を楽しんだ。だが、みんなが帰った後、2人きりになったポールとコリーはケンカをし始めてしまう。 ポールとコリーの新婚生活はどうなってしまうのか?
筆者は初日公演(11月8日(金)14時~)を観劇した。その際の感想を紹介しよう。(以下、多少のネタバレがあり)
開演前のひと時、突然会場に「みなさ~~ん!」という声が鳴り響く。驚いて声のする方向を見ると、なんと電話会社の男を演じる福本伸一が客席に現れた。福本はよく通る声で観客に話しかけ「どちらからいらっしゃったの? 東京から? 遠いニューヨークまでようこそ!」と盛り上げる。この時点で作品への期待が高まった人は多いことだろう。
物語がスタートすると、満面の笑顔でコリー(高田夏帆)が殺風景な部屋に入ってきた。愛する夫・ポール(加藤和樹)との新居に到着し、ワクワクが隠せない様子だが、肝心のアパートには家具も何もない。息を切らして訪問してきた電話会社の男(福本伸一)も部屋を見て驚き「本当にここに住むんですか?」とつぶやくが、コリーは「もちろん!」と無邪気に答える。
エレベーターがない5階の部屋で、壁は剥がれ屋根には穴が開いており、どう考えても新婚カップルが住むのにふさわしいとは思えないが、コリーは「この部屋最高!」と心から信じているようだ。部屋は5階だが、1階部分に階段があるらしく(コリーはノーカウント!と盛んに主張していたが…)実質6階分の階段を毎日上ることを考えると、気が遠くなってしまう。この物語では、階段にウンザリする様子を登場人物が面白おかしく演じるところがポイントでもあるのだ。
まずその様子を演じたのは、コリーの夫、ポールだ。仕事帰りのポールは書類を入れたかばんを手に息も絶え絶え階段を上ってきた。呼吸も整わないうちに、ポールの帰りを待ち構えていたコリーは、熱烈なキスで歓迎。息ができず苦しむポールの姿が滑稽で面白い。ポールを演じる加藤は、スーツ姿がビシッときまり、将来有望な新人弁護士といった風情がよく似合う。隙のないポールがコリーに振り回されるところを茶目っ気たっぷりに演じている。
コリー役の高田は、階段で部屋まで上ってきても息ひとつ切らさず、全身で若さと無邪気さを表現。「人間は見る人と行動する人に分かれるけど、私は行動する人」と言い切るコリーは、何かを感じたら即行動する猪突猛進型なのだろう。極めて常識的で物事に対して慎重なポールと、思い立ったら即行動を起こすコリー。正反対の2人だが深く愛し合っていることは確かだ。
そんな2人に関わっていくのが、コリーの母親・バンクス夫人(戸田恵子)と屋根裏部屋に住んでいるヴィクター・ヴェラスコ(松尾貴史)だ。バンクス夫人は「近くまで来たから…」という理由で突然ポールたちの新居を訪問。階段の強烈な洗礼を受け、息も絶え絶え登場するのだが、演じる戸田は、上品な風貌に似合わず疲れ果てた様子を面白おかしく演じる。
そしてポールとコリーの部屋の窓を通らなければ自分の部屋へたどり着けないヴィクター・ヴェラスコは、見るからに変わり者といった風情で登場。ポールはヴェラスコのうさん臭さに懸念を示すが、コリーはすぐに意気投合する。似た者同士の2人の掛け合いがかなり面白く、ヴェラスコを演じる松尾の飄々とした雰囲気とコリーの無邪気でぶっ飛んだ感覚がフィットしている。
物語は3幕で展開していくが、1幕では家具が到着せずに殺風景だった部屋が、2幕ではそれなりに形が整ったかわいらしい部屋に変貌。屋根の穴は相変わらずだが「部屋のアレンジは得意」と自慢していたヴェラスコにコリーがアドバイスを求めたのだろう。そんな部屋の中で、日常生活によく起きるどうってことない物語が展開されていく。ある日、コリーが一人暮らしをしているバンクス夫人を案じ、ヴェラスコとのお見合いの食事会をセッティングしたことで一波乱が起きる。
ポールとコリーはささいなことで意見が食い違い喧嘩になり、コリーは「離婚する!!」とポールに宣言して2幕が終わる。
結婚して1週間も経っていないのに「離婚する!!」と叫ぶコリーはいかにもコリーらしく、それに驚きながらも冷静に受け入れようとするポールもポールらしい。3幕では、ラブラブだった2人がののしり合うシーンが多いのだが、なぜか笑いが起きる。それは電話の故障のために(正確にいうと、コリーと喧嘩したポールが電話を壊してしまったのだが…)訪問した電話会社の男を演じる福本が、オロオロしながらも2人をなんとか取り持とうとするのが面白いからだ。ここは福本の最大の見せ場といっていいだろう。そしてののしり合うポールとコリーも深刻さがありつつも「かわいいな~」「若いな~」とほっこりした気分で見てしまう。
タイトルとなっている『裸足で散歩』は、コリーが「離婚する!!」と叫んだきっかけとなった出来事だ。その不満をぶちまけたコリーに対して、ポールを驚きを隠せなかったが、最終的にコリーの気持ちを理解するために真冬のニューヨークの公園を裸足で散歩するポール。コリーへの愛情が感じられるエピソードに「若い2人に幸あれ!」と心から願う人は多いことだろう。
コメディでありながらも「愛って何だろう?」という疑問に対し、答えをくれる深い作品だと筆者は感じた。真面目で不器用なポールと、無邪気でかわいらしいコリー、堅物だけれど優しいバンクス夫人、変わり者だけれど愛情深いヴェラスコ、そしてなぜかトラブルに巻き込まれてしまう災難な電話会社の男(作品の中では、名前が明らかにされる)が演じる心温まる物語を、ぜひ多くの人に楽しんでいただきたい。
東京公演は19日(火)まで。その後11月21日(木)愛知公演、11月23日(土・祝)香川公演が開催される。上演時間は約2時間(途中2回の休憩あり)
文:咲田真菜
舞台写真:オフィシャル提供
東京公演の初日を迎えるにあたり、キャスト全員のコメントが到着したので紹介しよう。
加藤和樹 【ポール・ブラッター 役】コメント
大阪から始まったこの公演もいよいよ東京、博品館劇場での公演が始まります。北は北海道、南は宮崎・大分まで巡って、素敵なお客様との出会いがたくさんありました。あたたかい拍手で出迎えてくれて、笑顔で客席を出ていかれる姿に元気をもらいました。東京でもたくさんのお客様に喜んでもらえるよう、キャスト・スタッフ一同力を合わせて頑張りますので、ぜひ劇場にお越しください。お待ちしております。
高田夏帆 【コリー・ブラッター 役】コメント
初日の大阪でがはがは笑ってくれるお客さんを感じやっと最後の稽古が終わった気がしました。どこの劇場でも温かい空気の中背中を押されて前に進む。感謝をお芝居で返したいなといつもいつも思いました。2週間滞在した北海道では大自然に充電されて力が漲っていく不思議。コリーの力になっていきました。同時に銀座博品館へと何かを調整していく自分も。博品館を意識せざるを得ない。でもこれまでで気付いた事と稽古で積み上げてきたもの、それを忘れなかったら大丈夫。受け取る愛も渡す愛も増し増し。うまくいかなくたってわからなくなったって愛する事だけは諦めない!コリーの不器用な愛が今年も皆様に届きますように。
福本伸一 【電話会社の男 役】コメント
9月27日に大阪サンケイブリーゼで開幕し、それから北は北海道、南は九州まで14ヶ所で公演を行いました。ひとつひとつの劇場に特色があり、お客様の空気感もその地域によって違い、俳優としてとても貴重な経験をさせていただきました。このツアーは人生の宝物です。そしていよいよ東京公演の開幕です。これまでに廻った地方の劇場よりもお客様との距離はより近くなり、お芝居ももっと生っぽくなります。ドキドキです。ちょっと不憫な電話会社の男として(笑)お客様に沢山の笑いと笑顔をお届けできたらいいなと思います。
松尾貴史 【ヴィクター・ヴェラスコ 役】コメント
「こんなに盛り上がるのはすごい」「ここで拍手をいただけるとは」など、各地で上演するにあたっては、一度に限られたお客さんと私たちの一期一会が強く感じられます。しかしそれは、公演数の多い東京などでの公演も、実は毎回が同じことで、それを際立たせて気づかせてくれる貴重な機会でもあります。ご覧くださる皆さんのエネルギーを受け取る場面や瞬間の違いが実に面白く、興味深いのです。演じ手も毎回が新鮮で、お客さんにも新鮮に感じていただけるように気張り続けます。
戸田恵子 【バンクス夫人 役】コメント
久しぶりにハードな地方公演!特に北海道のバス移動、おばちゃんはヘロヘロでしたが、待ってくれているお客様の温かい反応に救われました!ツアーを重ねていきますと本当に各地で反応がまちまちで、演じ手としてもそれが楽しみだったりします。とにかく温かい!東京公演は如実に都会の反応と申しましょうか、いつもクールですよね。これから寒くなっていく季節の中で、少しでもハートウォーミングになりますよう努めます。
『裸足で散歩』公演概要
作 : ニール・サイモン
翻 訳 : 福田響志
演 出 : 元吉庸泰
出 演 : ポール・ブラッター 加藤和樹
コリー・ブラッター 高田夏帆
電話会社の男 福本伸一
ヴィクター・ヴェラスコ 松尾貴史
バンクス夫人 戸田恵子
東京公演
日 程 : 2024年11月8日(金)~11月19日(火)
会 場 : 銀座 博品館劇場
チケット一般発売 : 好評販売中
主 催 : シーエイティプロデュース
お問い合わせ : チケットスペース 03-3234-9999(10:00~15:00 ※休業日を除く)
愛知公演
日 程 : 2024年11月21日(木) 18:30開演
会 場 : ウインクあいち
チケット一般発売 : 好評販売中
主 催 : メ~テレ/メ~テレ事業
お問い合わせ : メ~テレ事業 052-331-9966(平日10:00~18:00)
香川公演
日 程 : 2024年11月23日(土祝) 14:00開演
会 場 : サンポートホール高松 大ホール
チケット一般発売 : 好評販売中
主 催 : 公益財団法人高松市文化芸術財団/高松市
お問い合わせ : サンポートホール高松 087-825-5010(平日9:00~18:00)
企画・製作 : シーエイティプロデュース
公式サイト : https://hadashidesanpo.jp/
公式X : @hadashide_sanpo