加藤和樹インタビュー 舞台『裸足で散歩』「間違いなく面白い作品。ぜひ大切な人と一緒に観に来てください」 【インタビューVol.26】

加藤和樹(DSC_0737)

Google

2024年9月27日(金)大阪・サンケイホールブリーゼを皮切りに、舞台『裸足で散歩』が2年ぶりに再演される。本作は、1960年代冬のニューヨークを舞台にしたニール・サイモンの傑作で、エレベーターも暖房もないアパートに住むことになった新婚夫婦が繰り広げるハートフルコメディだ。

新婚夫婦を演じるのは、2022年の初演時にポールを演じた加藤和樹とコリーを演じた高田夏帆。演出も初演同様に元吉庸泰が手掛ける。

さらに初演から引き続いて一風変わった住人、ヴィクター・ヴェラスコ役に松尾貴史、コリーの母であるバンクス夫人役に戸田恵子が出演。新たに電話会社の男役として劇団ラッパ屋旗揚げメンバーの一人である福本伸一が参加する。

このたびポールを演じる加藤和樹さんにインタビューを行い、2度目のポール役にかける意気込みについて語っていただいた。

加藤和樹
目次

再演が決定して「やった!」と感じた

――2年ぶりの再演ということで、どんなことを感じられましたか?

加藤:単純に「やった!」という感じです。初演が終わった時「再演やりたいね」という話をプロデューサーと話していたのですが、割と早いタイミングの再演だなという感じでした。前回はコロナ禍ということもあって、もっといろんなところで公演をやりたいという思いがありましたので、そういう意味でめちゃくちゃ嬉しい再演決定のお知らせでした。

――再びポールを演じるプレッシャーはありますか?

加藤:プレッシャーはあまりないですが、初演をご覧になった方が「再演はどうなるんだろう?」と思うことへのプレッシャーはあります。プレッシャーよりも、またこのメンバーでできるということの楽しみの方が大きいですね。今回電話会社の男が福本さんに変わられましたけれども、個性的でパワフルなお二人(松尾貴史・戸田惠子)は変わっていないですし(笑)。高田夏帆ちゃんが前回初舞台でしたけれども、今回また2年の時を経ていろんな経験を積まれてきていると思うので、そういう意味でも楽しみです。

――初演時とほぼ顔ぶれが変わりませんが、再演が決定してスタッフや共演者の方と話をされましたか?

加藤:夏帆ちゃんとは話す機会がありました。「再演頑張ります」ということと「怖いです」と言ってたんですが、初舞台であれだけできれば怖いものはないから、そのままやれば全然大丈夫だよという話をしました。戸田さんとは、出演されている舞台『虹のかけら~もうひとりのジュディ』を観に行かせていただいて、楽屋で少しお話しました。

――今回、ご自身の中で新しい挑戦になりそうなことはありますか?

加藤:稽古に入ってみないと分からないところはありますが、前回よりフラットな状態でやりたいと思っています。前回は舞台でコメディを演じる経験があまりなかったので、気負ってる部分がありましたから…。演じながら戸田さんや松尾さんに引っ張られていったところがあるので、今回はもうちょっとラフな感じで、いろいろなことにチャレンジしていきたいと思います。

加藤和樹

――ほとんどカンパニーのメンバーが変わらない中で、電話会社の男役の福本さんだけ変わられます。加藤さんは初めて共演されるそうですが、どんな楽しみがありますか?

加藤:福本さんが演じられる電話会社の男とは、すごく不機嫌なポールが絡んでいくシーンがあります。福本さんに引っ張られないように頑張りたいと思っています。個人的には、僕が子どもの頃に見ていた『るろうに剣心』京都編の十本刀の沢下条張の声をされていた方なので、ご一緒するのがすごく楽しみです。 少しファンモードが出てしまうかもしれないですし、コメディ部分を担ってくださる方なので稽古での芝居を楽しみにしています。

――加藤さんが演じるポールは真面目で石橋を叩いて渡るタイプだと思います。加藤さんご自身はポールと重なる部分がありますか?

加藤:割と性格的に大雑把なところがあるので、あまりポールと共通点がないんです。 周りには結構真面目だと言われることがあるので、真面目さは似ているのかなと思いますけど、僕はやらなければいけないことを後回しにするタイプなので(笑)、ポールのように決めたことをやるという感じではないですね。

 でも初演で演じてみて思ったのは、彼の真面目なところはコリーを愛しているというところにも関わってくるし、真っ直ぐさにはすごく共感できます。真面目なところが彼の良いところでもあるんですけど、もっと柔軟な考え方ができればいいのにって思ったりはします。

――コリーを演じた高田さんとの思い出は何かありますか?

加藤:夏帆ちゃんが初舞台だということで、最初は発声や準備運動を一緒にやりました。ものすごく天真爛漫な方ですし、コリーとしての純粋さや真っ直ぐさがビシビシ伝わってくるからこそ、こちらも思わず本気になる瞬間がありました。

夏帆ちゃんはずっと「不安だ」と言っていたので、空いてる時間はよくせりふの読み合わせをしてましたね。今回は大きな自信を持って帰ってくると思いますので、どういうコリーになるのかとても楽しみです。前回の経験をいかしてお互い遠慮がなく、どんどんぶつかり合いたいなと思います。

加藤和樹

全国ツアーで楽しみにしていることは?

――今回全国ツアーでいろいろな場所に行かれますが、楽しみはありますか?

加藤:やっぱり食べ物の楽しみはありますね(爆笑)。

僕は以前、舞台『罠』に出演した時に北海道の数か所を回ったことがありました。なかなか道内で観劇がなかったと聞いていたんです。舞台が終わった後にお見送り会みたいなものをさせていただいたんですが、その時に皆さんが「ありがとうございました。めっちゃ楽しかったです」って言ってくださったのがすごく印象に残っています。

前回も町おこしみたいな感じで、いたるところにポスターを貼ってくださっていました。そういう雰囲気がものすごく勇気をくれますし力になるので、公演する土地の人たちに会えるのが本当に楽しみです。

――加藤さんは東京や大阪とか大きい劇場で出演される機会が多いと思いますが、地方へ行かれてお客様と接して、反応が違うと思ったことはありますか?

加藤:全然違いますよ。ここで拍手くるんだ!とか…。公演数も少ないので舞台に対する集中力が違います。一挙手一投足何が起こるんだろうって、前のめりな気持ちで観てくださってる感じがすごく伝わってきました。だからこそどの土地でもいつも「この1回公演を大事にしなきゃ」という気持ちになります。みんなで舞台を作っていることがものすごく伝わってくる会場が多かったです。

そしていろいろな土地の劇場を回れるのがめっちゃ楽しみなんですよ。人もそうですが劇場とも一期一会ですし、もう行けない可能性がある劇場も多いじゃないですか。こういう素敵なところでできるんだっていう、劇場巡りも楽しみの一つです。

――今回初めての劇場はありますか?

加藤:ほぼ初めての会場ではないでしょうか? どの土地もおいしいものがたくさんあると思うので、衣装が入らなくなってしまわないように気を付けたいと思います(笑)。

加藤和樹

舞台『裸足で散歩』としてこだわったシーンは?

――ポールとコリーは正反対な性格ですが、この夫婦の魅力はどんなところだと思いますか?

加藤:はたから見るとラブラブおとぼけカップルだと思うんですよね。突っ込むポイントがたくさんありますが、そこに気付けない彼らが愛おしいんです。お互いちゃんとぶつかり合って初めて分かり合う可愛いカップルなので、そういうところが魅力的です。

――映画で本作をご覧になった方も多いと思います。アパートの階段をたくさん上り、はあはあ言いながら部屋にたどり着くところが面白ポイントの一つです。舞台でそれを表現するのはすごく難しかったのではないかと思いますが、いかがでしたか?

加藤:おっしゃるとおりです! 初演ではポールが階段を上がってくるシーンから始まったので、遠くから声が聞こえている雰囲気を出すために、舞台袖から筒状のものに向かってせりふを言いました。このシーンは劇場が変わるたびにお客様にどう聞こえるか、場当たり稽古で毎回こだわってやりました。

ただそれだけではお客様に伝わるかどうかわかりませんし、芝居で真実味を見せるしかないので、一度自宅マンションを階段で上がってみました。上るだけならそんなに大変じゃなかったんですが、これを毎日、仕事へ行く前や帰ってきた時にやるのはきついって思いましたね。お客様には、そういう場面から物語が始まるんだと頭にインプットしていただけると、芝居がものすごくやりやすいのでお伝えしておきます!

――初演時はコメディ初挑戦ということでしたけど、稽古や本番で苦労したことや楽しかったことは何ですか?

加藤:こちらからお客様を笑わせようという気持ちを持っちゃダメだとすごく思いました。役者は芝居をすればよくて、笑いを取りに行っちゃダメなんです。ここぞという時には必要かもしれないですが、この作品はきちんと笑える脚本になっているので、高望みをしないようにしようと思いました。

再演にあたって芝居のテンポの見直しは、稽古で突き詰めていこうと思っています。例えば「別にここは見せる必要ないよね」というところと「ここはちゃんと捉えてお客さんにみてもらわなきゃね」というところにこだわって作っていくべきだと思います。ちゃんと計算されて作られた作品なので、突発的にこれをしよう、あれをしようというアドリブはあまり必要ないかなと思っています。

加藤和樹

――加藤さんはシリアスな役もたくさんこなされてますけれども、コメディとシリアス物それぞれの魅力はどんなところでしょうか?

加藤:どちらも緩急だと思います。クールな役がフッと笑っただけでお客様はドキッとするし、例えばこの作品のポールだったら、ずっと「ワーッ!!」ってなっているのに、ある瞬間にスッとスマートになった時のギャップが魅力的にうつると思いますからね。

――加藤さんはシリアスな作品とコメディ作品を交互にやりたいと思ったりしますか?

加藤:あんまりそういうことは思わないですね。どの作品でも舞台袖ではずっと楽しんでいますし、シリアスな作品ほど舞台袖でふざけたりしています。僕は作品に飲まれることはあまりないですし、役に引きずられないんですよ。初めて舞台上で通すゲネプロは緊張しますが、舞台の本番前に緊張することはほとんどないです。稽古を積み重ねてきて役が自分の中に入っているので、いつ袖から出てもこの役を演じられるという自信ができたからだと思います。

でも、どちらかというと難しいのは明るい役です。気持ちに嘘をつかずにテンションを上げなきゃいけないので、笑いのエネルギーのほうが大変だと思います。

――今年の1月、明治座で上演された舞台『西遊記』を観劇しました。ミュージカル『フランケンシュタイン』などシリアスな役のイメージがあった加藤さんの別の面が見えて衝撃でした。コメディセンスが光っていましたが、本作に出演された経験があったからだとお話を伺って思いました。

加藤:ありがとうございます! あの作品はエンタメショーだったので、実は逆に笑いを取りにいきました(笑)。最初台本を渡されたとき、僕が演じる沙悟浄のせりふがおネエ言葉だったので「マジか」と思いました。演出の堤(幸彦)さんは「普通に男言葉でいいよ」とおっしゃってくださったんですが、それぐらいインパクトがないとダメだと思って「ぜひやらせてください!」と言ったんです。

僕はずっと舞台で面白い役をやりたいと思っていましたが、なかなかそう機会がなかったんです。『フランケンシュタイン』の時も、ずっとシリアスだと憔悴してしまうので、たまに稽古場で「もしフランケンシュタインがこうだったら…」と、真面目なシーンで面白いことをしたり…(笑)。実はそういうことが大好きなんですよ。

加藤和樹

もしポールとコリーが住んでいるアパートに引っ越すことになったらどうする?

――少し話はそれますが、もし加藤さんが引っ越した先のアパートが、ポールとコリーが住んでいる物件みたいだったらどうしますか?

加藤:僕だったらまず下調べしますよね(笑)。でももし何かの手違いでそうなったとしたら、とりあえず住んでみると思います。ネタになるし、ちょっと面白いじゃないですか。

例えば食事をしていて、注文したものと違うものがきちゃうときがありますが、僕は「それでいいですよ」というタイプなんです。割と郷に入っては郷に従えタイプなので、引っ越した先が予定と違ってもよっぽどじゃない限りは住んでみようかなと思いますよ。

――作品の話に戻りますが、演出家の元吉さんは、どのような演出をされる方ですか?

加藤:前回初めて演出家としてご一緒しましたが、演出しながらご自身も楽しまれるタイプなので面白いです。面白い時は笑ってくれるし、じゃあこうしてみようとか、どんどんアイデアが出てくる方ですね。

再演で一番大変なのは演出家だと思うんですよ。元吉さんが今回どういうアプローチをしてくるのか、ビジョンがあれば我々は従いますし、一緒に作っていきましょうとおっしゃるなら、いくらでもアイデアを出します。今回はみんな余裕があると思うので、一緒に作品を作っていけたらいいですね。

――今回のポールで、特に注目してほしいところはありますか?

加藤:前回は「ポールってこういう人だよね」というのを演じてたところが正直ありました。あとは笑いを取らなきゃいけない…とか。今回は、一番翻弄される役なのでもっと新鮮にポールとして生きて、リアクションをしていきたいと思います。リアクションが一辺倒になっちゃうと面白くないので、常に新鮮なリアクションを心がけたいです。

――改めてこの作品の魅力を教えていただけますか?

加藤:日常にありそうな出来事ですし、他人事だとは思えないところや出てくる人たちが愛おしくてバカばっかりというところです。まともな人は電話会社の人だけで、出てくる人、出てくる人みんなどこかずれてる個性的なキャラクターたちが作品の魅力だと思います。

――今回お越しいただくお客様にメッセージをお願いします。

加藤:間違いなく面白い作品です。あまりそう言うと自分にプレッシャーをかけてしまいますが…。 人間同士ってぶつかったときこそ相手の考えていることが分かると思います。だからこそ人に対して優しくなろうとか、自分のこういうところが悪かったなと思えるものなので、この作品は観劇後、周りの人たちに優しくなれる作品なんです。ぜひ大切な人と見に来ていただけると嬉しいです。

取材・文・撮影:咲田真菜

加藤和樹

舞台『裸足で散歩』公演概要

作:ニール・サイモン
翻 訳 :福田響志
演 出 :元吉庸泰

公演日程:
大阪公演/2024年9月27日(金)~29日(日) サンケイホールブリーゼ
静岡公演/2024年10月5日(土) 富士市文化会館 ロゼシアター
東京プレビュー(曳舟)公演/2024年10月10日(木) 曳舟文化センター
東京プレビュー(西東京)公演/2024年10月13日(日) タクトホームこもれびGRAFAREホール
東京公演/2024年11月8日(金)~11月19日(火) 銀座 博品館劇場

他、茨城、神奈川、北海道(幕別、士別、中標津、札幌、大空)、宮崎、大分、宮城、愛知、香川公演あり

出 演 :
ポール・ブラッター役:加藤和樹

コリー・ブラッター役:高田夏帆

電話会社の男役:福本伸一

ヴィクター・ヴェラスコ役:松尾貴史

バンクス夫人役:戸田恵子

企画・製作 :シーエイティプロデュース

公式サイト :https://hadashidesanpo.jp/
公式X :@hadashide_sanpo

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

国家公務員・一般企業勤務を経てフリーランスのライターになる。高校時代に観た映画『コーラスライン』に衝撃を受け、ミュージカルファンとなり、以来30年以上舞台観劇をしている。最近はストレートプレイも積極的に観劇。さらに第一次韓流ブームから、韓流ドラマを好んで視聴。最近のお気に入りはキム・ドンウク。

目次