ブロードウェイミュージカル『IN THE HEIGHTS イン・ザ・ハイツ』ウスナビ役のMicro(Def Tech)インタビュー【インタビューVol.25】

Micro(Def Tech)

Google

2024年9月22日(日・祝)~10月6日(日)天王洲 銀河劇場にて、その後京都、名古屋、神奈川で、ブロードウェイミュージカル『IN THE HEIGHTS イン・ザ・ハイツ』が上演される。

世界中で最もチケットが取れないミュージカルといわれる『ハミルトン』を生んだブロ-ドウェイの異端児リン=マニュエル・ミランダの処女作『IN THE HEIGHTS イン・ザ・ハイツ』

ミランダ自身が出演した本国版は、2008年度トニー賞最優秀作品賞を含む4部門での受賞をはじめ、数々の演劇賞を受賞し、21年には映画化もされた。ラップやサルサ、ヒップホップなどの楽曲が多数使用され、21世紀のミュージカル界に新風を巻き起こした作品となる。

2014年に日本版が初演。日本人では表現が難しいとされたラップ部分をKREVAが見事な日本語表現に替え、Def TechのMicroをウスナビ役に迎え、日本人に届く日本語歌詞を作り上げた。7年後の21年には新キャストで再演、緊急事態宣言で最後は公演中止を余儀なくされながらも、コロナ禍の日本を熱くさせた。

このたび、初演、再演に引き続いてウスナビ役(平間壮一とWキャスト)を務めるMicro(Def Tech)にインタビューを行った。3度目のウスナビ役に挑む意気込みと『IN THE HEIGHTS イン・ザ・ハイツ』への熱い想いを語ってくださった。

目次

3度目のウスナビ役 集大成・総仕上げと思って挑む

――再々演が決まった今のお気持ちをお伺いできますか?

Micro:『IN THE HEIGHTS イン・ザ・ハイツ』は、僕には「これしかない!」というほど思い入れがある作品ですし、成長させていただいた作品です。嬉しい以上の気持ちがありますし、3度目の正直で、集大成・総仕上げだなって感じています。

――今回はどんなウスナビを演じようと思っていらっしゃいますか?

 Micro:ウスナビ像をはじめとして、作品自体が自分の中でくっきり鮮明になってきたのは大きいです。初演の時はラップができればいいかなと思っていて、演技や役についてあまり深めていけなかったんですけれど、2014年の初演からちょうど10年経ちますし、この間にワークショップで学んできたことを押し出していきたいと思います。

――ワークショップというのは具体的にどのようなことをなさったのですか?

Micro:いろいろな監督さんのワークショップを受けて、舞台に立つ心構えも含めて学びました。演技指導を受け、相手の演技を受けることの大切さなどを学びました。これまでは自分がせりふを言うので精一杯で、相手がせりふを言っているときでも自分のことしか考えていなかったので…。舞台に立ち、音が流れていない無音の中で何かするのは、アーティスト人生の中でほぼなかったですから、最初は嫌というよりも恐怖心がありました。

――音が流れてない舞台に立つ恐怖心…というお話がありましたが、初演の時は戸惑いがあったのではないですか ?

Micro:ありましたね。戸惑いと僕だけがついていけてなかったという想いもありました。ダンス・歌・演技ができるプロの方々に囲まれていましたから。

――戸惑いをどうやって乗り越えてこられたんでしょうか? 再びウスナビ役にキャスティングされたのはMicroさんのウスナビがとても評価されていることだと思うのですが、そのあたりはどのようにお考えですか?

Micro:初演の時は、ビギナーズラックだったと思っています。がむしゃらに一生懸命やったことが功を奏したのではないでしょうか。再演時はウスナビ役がWキャストとなり、平間壮一くんがいてくれたことがすごく大きかったです。Wキャストになったことで 、壮ちゃん(平間)の演技を見て自分に重ね「全然違うな」と比較対象ができたことが、さらにウスナビらしさを出すためにとても良かったですし、必要でした。

――平間さんの存在が大きかったということは、Wキャストになったことは、Microさんにとってプラスに働いたのですね。

 Micro:僕にとっては本当に大きかったですね。彼の演技力はもちろんのこと言葉がちゃんと立ってるし、僕とは全然違うウスナビを作り上げていました。彼だけでなく、初演時も再演時もカンパニーのメンバーとできるだけコミュニケーションを取るようにしました。分からないことはすぐに聞いて、他のキャストの人たちに自分はどう映っているのか見てもらって、アドバイスをもらっていました。

――カンパニーには早いうちから溶け込んでいけた感じはありましたか?

 Micro:そうですね。率先してみんなに声をかけました。初演時にアブエラを演じた前田美波里さんもすごく丁寧に教えてくださったし、再演時にアブエラを演じて今回もご一緒する田中利花さんから教わることも多かったです。

2人の大先輩俳優から得た助言とは?

――今お話が出たアブエラは、ウスナビと重要な関係性がある役です。前田美波里さん、今回アブエラを演じる田中利花さんといったベテラン俳優と絡むことに関して、どのように感じましたか?

Micro:アブエラはもちろんのこと、ベニーなど自分と接点が多いキャストの方とは、まず仲良くなろうって思いました。『IN THE HEIGHTS イン・ザ・ハイツ』という作品は、敵がいるといったスリリングな話ではなくて、日常のトラブルやコミュニティの仲の良さを描いたりしていますからね。再演時は、よりみんなが仲良くなって、カンパニーの仲の良さが舞台に出ていたと感じています。ウスナビが愛するヴァネッサだけじゃなくて、役と絡んでいく人たちとは、可能な限り率先してコミュニケーションを取るようにしました。

――お二人はどんな方ですか?

Micro:美波里さんに関しては、僕は息子さんの眞木蔵人くんとサーフィン関係で仲良くしていました。まさかお母さんと一緒に舞台に立てるとは思わなかったですね。美波里さんには、何でも率先して自分でやるという役者シップみたいなものを教えていただきました。

利花さんや美波里さんがおっしゃっていたのは、自分の演技力がどうかじゃなく、受けが大切だということです。相手が発したことで自分の心が動いて、そこからせりふが乗ってくる…。初演や再演時、僕は相手のせりふを聞いてるようで聞いていなかったと思うんです。ストーリーが分かっているから予言者のように話し始めちゃうところがありました。つまり心が動く前にせりふが出ていたんです。そして間が怖いので、いつも前のめりになって演じていたのですが、そういうところをお二人から指摘していただきました。

――新キャスト、特にMicroさんに関係してくるのはヴァネッサ役の豊原江理佳さんかと思いますが、どんな点が楽しみですか?

Micro:豊原さんの歌がとにかくヤバい!  R&Bも歌えるしミュージカルの歌も歌えるなんて、めったにいないのではないでしょうか。豊原さんは、映画『リトルマーメイド』でアリエル役の吹き替えをされてますよね。彼女の歌を聞いて、とんでもない子が出てきたと思いました。

新キャストの皆さんとはすでに挨拶をしていますが、新キャスト、アンサンブルの方々を含めて皆さんの歌を聞くのがとにかく楽しみです。男女問わず共演者の皆さんから何かもらえるはずだと思っているので、常に電波を張って、みんなからもらえるものを吸収しまくりたいですね 。

Micro(Def Tech)

新しいことに挑戦し、上を目指していくパワーの源は?

――7月15日リリースされたDef Techのニューシングル「FANTASY」は、これまでの曲とイメージが違うと感じました。ご自身も出演されたラジオ番組で、「FANTASY」の制作に苦労したとおっしゃっていましたが、新しいことに挑戦し上を目指していくパワーの源は何ですか?

Micro:「僕はそうじゃない。僕はこうだから」と決めつけた時から、それ以上の進化も変化もないですよね。否定したらそこから成長がないと思っているので、まずはやってみることにしています。やっぱりダメだったねってなるかもしれないけど、良くなりそうだねってなることもあり得ます。その1%の可能性を捨てたくないし、諦めたくないという気持ちが大きいんです。

若い頃を振り返ってみると「自分の個性はこういうものだ!」と決めなければいけないこともありましたし、その時から変わらなくていいものもあります。でも僕は、何にでもなれるように、変化に対応していけるほうが重要だと感じています。新しい挑戦を止めちゃうと自分の幸せはないと思っています。

――挑戦を続けるMicroさんが考えるライブと舞台の違いは何だと思いますか?

Micro:あえて言うならチームワークでしょうか。もちろん音楽のステージもチームワークですけれど、それぞれが個々でやるべきことをきちんとやって出来上がるのがライブのステージです。お互いに関わり合いながら、団体行動の力で作っていくのが舞台ですね。

Def Techはコンビネーションなので、僕とShenの息が合えば、他がミスってもさほど大事にはなりませんが、舞台はそういかないです。一人も欠けてはいけないので、ライブよりもガラスのようなものだと感じますね。

――舞台を観にいらっしゃるお客さんの反応もライブと大きく違うと思います。最初は怖かったのではないですか?

Micro:違和感がありましたね。何を考えてるんだろうと思っていました。お客さんが着席しているところで歌うことがありませんでしたから、何をやってもうまくいっていないんじゃないかと不安がありました。それも利花さんや他の共演者の皆さんが「気にする必要ないんだよ」とおっしゃってくださいました。座って観ていても感動するときはするものなんだからって。救いになりましたね。

――今回の舞台、こういうところを見てほしいというアピールポイントを教えてください。

Micro:今年は1月1日に能登半島で地震が起きて、自分の帰るべき場所に帰れない方々がたくさんいらっしゃいます。2011年の東日本大震災もそうですし、さらに10年戻ると9.11のニューヨークテロがありました。人間だけでは解決できない問題、紛争、戦争が起きています。

『IN THE HEIGHTS イン・ザ・ハイツ』で描く、一体どこが自分たちの心のよりどころなんだろうというテーマは普遍的なものだと思います。この作品は、本当に行くべき場所、つくべき仕事、やるべきこと、本当のホームってどこなんだっていうのを、改めて僕らに訴えかけてくると思います。

東京で頑張っているけれど、本当にこれでいいんだろうかって考えてしまう人もいると思います。『IN THE HEIGHTS イン・ザ・ハイツ』は、そういう時に必要な作品になると思うので、心のよりどころをお互いに見つけていく…そこが一番大きなポイントじゃないかと思います。SNSが普及すればするほど、自分の居場所はここじゃないって思いがちなので、今ここで頑張る強さ、踏ん張る強さみたいなものを、この作品から溢れさせていきたいです。ひとり一人の大切な人生において、この作品に触れて「この選択が良かった」って思えるようになればいいですね。

――Microさんの心のよりどころは何ですか?

Micro:誰かが喜び感謝してくれるほどその人に尽くせた時、充実した想いがあふれます。 それは結局自分のためかもしれないけど、相手に尽くしていくことで何かが築き上がっていくように感じます。

――『IN THE HEIGHTS イン・ザ・ハイツ』は、これからお稽古が始まるとのことですが、意気込みをお聞かせください。

Micro:僕自身、『IN THE HEIGHTS イン・ザ・ハイツ』という作品の理解が深まってきました。今回も壮ちゃんとWキャストで、初演でベニーを演じた松下優也くんが10年ぶりに帰ってきてくれたので、ひとり一人と心を通わせながら成長し吸収していきたいです。以前感じていた不安や恐怖心はほぼ払拭できているので、舞台で演じるということがもっと面白くなっているはずです。新鮮かつ魅力あふれるウスナビを演じきりたいです。

取材・文・撮影:咲田真菜

Micro(Def Tech)

Broadway Musical 『IN THE HEIGHTS イン・ザ・ハイツ』公演概要

原案・作詞・作曲 リン=マニュエル・ミランダ
脚本 キアラ・アレグリア・ウデス
演出・振付 TETSUHARU
翻訳・訳詞 吉川徹
歌詞 KREVA
音楽監督 岩崎廉

出演
ウスナビ:Micro [Def Tech]/平間壮一(Wキャスト)
ベニー:松下優也
ニーナ:sara
ヴァネッサ:豊原江理佳
ソニー:有馬爽人
ダニエラ:エリアンナ
カーラ:ダンドイ舞莉花
ピラグア屋:MARU
グラフィティ・ピート:KAITA
ケヴィン・ロザリオ:戸井勝海
カミラ・ロザリオ:彩吹真央
アブエラ・クラウディア:田中利花
ほか

公演日程・会場
《東京公演》 天王洲 銀河劇場 2024年9月22日(日・祝)~10月6日(日)
《京都公演》 京都劇場 2024年10月12日(土)~10月13日(日)
《名古屋公演》 Niterra日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール 2024年10月19日(土)~10月20日(日)
《神奈川公演》 大和市文化創造拠点シリウス 1階芸術文化ホール メインホール 2024年10月26日(土)

公式HP https://intheheights.jp/
公式X @intheheightsjp

企画・製作 アミューズ/ぴあ/シーエイティプロデュース
お問い合わせ 【公演事務局】 information2@pia.co.jp(平日 10:00~18:00)

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

国家公務員・一般企業勤務を経てフリーランスのライターになる。高校時代に観た映画『コーラスライン』に衝撃を受け、ミュージカルファンとなり、以来30年以上舞台観劇をしている。最近はストレートプレイも積極的に観劇。さらに第一次韓流ブームから、韓流ドラマを好んで視聴。最近のお気に入りはキム・ドンウク。

目次