4年ぶりのフルバージョンで、新国立劇場 中劇場にて上演中のミュージカル『アニー』。先日チーム・バケツの公演を観劇した。
キャスト(チーム・バケツ)
アニー:深町 ようこ
ウォーバックス:藤本 隆宏
ハニガン:マルシア
グレース:笠松はる
ルースター:財木琢磨
リリー:島ゆいか
ほか
コロナ禍で、ここ数年は短縮バージョンで上演してきた本作。ようやくフルバージョンを観ることができるとわくわくした気分で開演を待った。
アニー役の深町は、自然体で生き生きとアニーを演じ、よく通る声でせりふがとても聞きやすい。歌声も耳に心地良く、これまで観劇してきたアニーの中で最もナチュラルな演技をしていると感じた。また、ハニガン役のマルシアやウォーバックス役の藤本隆宏など、大人キャストと物おじすることなくやり取りし、豊かな表情を見せるところに、将来性を感じた。
そして今回の公演で実感したのは、パワーアップした大人キャストたちだ。
藤本は2年ぶり、5度目のウォーバックス役となる。筆者は2019年から藤本が演じるウォーバックスを観てきたが、改めてこの役は藤本にぴったりのハマり役だと実感した。
何度も同じ役を演じることは、とても難しいことだろう。しかし藤本が演じるウォーバックスは、常に進化を続け、2年ぶりの登場となった今年は、さらに円熟味を増したウォーバックスになっていた。金儲けしか考えてこなかったウォーバックスがアニーと出会うことで変化していく様を、人間味たっぷりに表現。そして今回は少しお茶目でおどけた姿も垣間見られ、アニーに影響を受けて優しい人間になっていったことを体現していた。
アニーがいる孤児院の院長、ハニガンを演じるマルシアもパワーアップしていた。アニーら子どもたちをいじめる嫌な大人なのだが、筆者はマルシアが演じるセクシーなハニガンが大好きなのだ。アルコール中毒で若い男性には色目を使うどうしようもない女性なのだが、一人で孤児院を切り盛りしているのに子どもたちにバカにされ、どこか哀れな雰囲気がある。そういうもの哀しさが出せるのは、マルシアの役作りのたまものだろう。そしてなんといっても抜群の歌唱力で、圧巻の歌声を聞かせてくれる。マルシアが歌い終わったあとは、ひときわ大きい拍手が送られていた。
そしてウォーバックスの秘書、グレース役の笠松も役にぴったりハマっている。凛とした立ち姿で、上品かつ仕事ができる女性を見事な存在感で演じていた。マルシアと対峙するシーンでは、美しいソプラノで茶目っ気も披露。アニーをやさしく包み込むグレースの存在に、観ている側も癒される。
一方でアニーを利用して悪だくみをするルースター役の財木琢磨とリリー役の島ゆいかも大健闘していた。マルシアと3人で歌い、踊るシーンは息もぴったりで、本作の見せ場の一つとなっている。財木は長い手足を存分に使い、軟弱な優男を好演、島はハニガンにも負けない意地の悪さを出しつつも、キュートで魅惑的なリリーを演じていた。
アニーが相棒の犬、サンディと一緒にホームレスの人々とやり取りするシーンが復活し、やはりフルバージョンは良いなあ…としみじみ感じた。実はこのシーン、個人的にとても好きで、なおかつアニーがどういう子なのかを表す象徴的な場面だと感じているからだ。
アニーが歌う「Tomorrow」の歌詞にあるように、明日はきっといいことがあると笑顔を絶やさず、つかみ取った明るい未来。アニーをはじめとして、孤児院の子どもたちやダンスキッズたちが躍動する心温まるミュージカルをぜひ親子連れで観劇してほしい。
東京公演は、同劇場で5月8日(月)まで上演。8月には、松本公演、大阪公演、名古屋公演、新潟公演が予定されている。
文:咲田真菜
丸美屋食品ミュージカル『アニー』
東京公演
日程:2023年4月22日(土)~5月8日(月)
会場:新国立劇場 中劇場
全席指定:8,900円(税込)
主催・製作:日本テレビ放送網株式会社
協賛:丸美屋食品工業株式会社
2023年夏のツアー情報
松本公演
2023年8月5日(土)
まつもと市民芸術館 主ホール
大阪公演
2023年8月9日(水)~8月14日(月)
シアター・ドラマシティ
名古屋公演
2023年8月18日(金)~8月20日(日)
愛知県芸術劇場 大ホール
新潟公演
2023年8月27日(日)
新潟県民会館 大ホール