劇団アレン座 第七回本公演『土の壁』感想・レビュー 今の時代を見事に映し出す鈴木茉美の脚本

『土の壁』

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2022年3月9日(水)~3月13日(日)すみだパークシアター倉にて、劇団アレン座 第七回本公演『土の壁』が上演される。本作は、2019年に上演された『積チノカベ』の再演。原子力発電所の事故を題材に、放射能に汚染された土の上に住む人々とそこから逃れ、土の下に住む人々の分断された生活を描いていく。

3月10日(木)13時の公演を観劇した。

『神の審判』から20年経った、とある場所。そこは荒れ果てた場所なのだが、16歳の樹(小野翔平)、颯佑(⼭⽊透)、晴⼈(松⽥崚汰)は、いつものようにタブレット端末を手に他愛のないことを話していた。廃墟にいるものの、彼らは明るく楽しそうで、会話も今どきの高校生そのものだ。

しかし樹は家へ帰ると、放射能汚染を怖がり外へ出ることができなくなった母親・伊吹(林⽥⿇⾥)に遅くまで出歩いていることを怒られる。母親にクリーナーで念入りに衣服を掃除される樹。樹の住んでいる世界は、想像を絶する大きな秘密がありそうだ。

一方で土の下は、土の上とは違い発展した世界なのだが、どこか人間味がなく無機質な雰囲気がある。人々がタブレット端末を手にコミュニケーションをとっているところは、土の上に住む人たちと同じだ。

地球の近未来を描いているであろう本作だが、そこには、今まさに私たちが直面している問題がすべて詰め込まれているような気がしてならない。

いみじくも公演期間中に3月11日を迎え、原子力発電所の事故があった福島を思い起こさせることはもちろんだ。しかしそれだけではなく、分断された地上と地下の人々を見ていると、コロナ禍で人とのコミュニケーションを絶たれた私たち、そしてもっと言えば、悲惨な戦争に巻き込まれているウクライナの人々のことを考えずにはいられない。なんともタイムリーな公演だと感じた。

物語は、土の下に住む国営局で働く・太陽(來河侑希)が、土の上に住む樹とタブレットを通じてコミュニケーションを取っていくことから、16歳の樹は、大人たちが隠している大きな「真実」を知る。それを知ることで、友達とのんきに遊んでいた日々が一転、深い悲しみと闇に覆われていく。

樹を演じる小野翔平は、そうした気持ちの変化を上手く表現。自分たちが真実を知らされずに犠牲になっていることへの怒りを全身で熱演していた。

反対に樹と同じ16歳で、土の下に住む太陽の姪・萌葱(⼭⽥愛奈)は、のほほんと友人の⽔菜(北村優⾐)と明るく楽しく暮らしている。二人の16歳の対比が、なんとも切なく、やりきれない。

物語の終盤、太陽が樹に投げかける言葉「真実を知らないほうが幸せに暮らせるからだよ」が、ずっしりと重くのしかかる。

世の中が凄まじい勢いで変化している昨今、この言葉の意味は深く、そして私たち大人にいろいろなことを考えさせるきっかけを与える。こうした深い脚本を書く鈴木茉美の次回作をぜひ観たいと感じた。

劇団アレン座第七回本公演『土の壁』

■日程:2022年3月9日(水)~3月13日(日)
■会場:すみだパークシアター倉
〈料金〉プレミアム前方シート6,500円 一般指定席4,500円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈チケット〉http://www.confetti-web.com/tsuchinokabe
〈公式サイト〉http://allen-co.com/tsuchinokabe/
〈公式Twitter〉 @Allen_suwaru

■演出・脚本:鈴木茉美
■出演:小野翔平 林田麻里 山田愛奈 塚越健一(DULL-COLORED POP) 來河侑希(劇団アレン座)
北村優衣 桜彩 松田崚汰
髙野春樹
五頭岳夫 他

文・咲田真菜

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この記事を書いた人

国家公務員・一般企業勤務を経てフリーランスのライターになる。高校時代に観た映画『コーラスライン』に衝撃を受け、ミュージカルファンとなり、以来30年以上舞台観劇をしている。最近はストレートプレイも積極的に観劇。さらに第一次韓流ブームから、韓流ドラマを好んで視聴。最近のお気に入りはキム・ドンウク。

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