周防正行監督5年ぶりの新作として話題の映画『カツベン!』が本日公開となった。
周防監督について、そして主演の成田凌に関してコラムを書かせていただいた関係で、試写会へ行ったのだが、久しぶりに観た周防作品に大爆笑した。
本作品の舞台は100年ほど前の日本。映画に音がなかった時代、映像に合わせて物語の説明をして盛り上げる活動弁士にスポットを当ててストーリーが展開していく。周防監督が得意としている、ちょっとマニアックな世界を深堀している作品だ。
幼い頃から活動弁士に憧れるものの、生活苦から泥棒の仕事を手伝ってしまう青年・俊太郎を演じるのが成田凌。長身で端正な顔立ちの彼が、今回は思い切り三枚目を演じているところが大きな見どころだ。泥棒の世界から足を洗おうとしたものの、昔の仲間や熱血刑事(竹野内豊)に追われるのだが、周防組常連の竹中直人と渡辺えりが演じる映画館・青木館の館主夫婦、そして青木館の映写技師・浜本(成河)に支えられながら、カツベンとして成長していく。
カツベン仲間にはスター気取りのいけ好かない茂木(高良健吾)やかつてはスター弁士だったが、酒で身を滅ぼしてしまった山岡(永瀬正敏)など、キャラが立った人物が次々と登場。そんな汗臭い中で、俊太郎の初恋の相手・栗原梅子(黒島結菜)とライバル映画館の令嬢・橘琴江(井上真央)が華を添える。
今回特に目を引いたのが、成田を闇の世界に引っ張り込んだ泥棒・安田を演じる音尾琢真だ。筆者は、TEAM NACSの中で一番のお気に入り俳優なのだが、実に良い味を出している。とにかく悪党なのだが、なんとなく憎めない。物語の終盤、成田が逃げ、音尾が徹底的に追いかけるシーンがあるのだが、とんでもないドタバタシーンで涙が出るほど笑っていただきたいと思う。
周防作品の良いところは、笑いだけでなく哀しみや苦しみも作品に盛り込まれているところだ。物語のエンディングはちょっと切なさも残るが、決して暗い終わり方ではない。ぜひこの作品を観て、遠い昔の日本はこういう世界だったのか、根本は今と変わらないなと思いを馳せてみてほしい。