2019年10月18日(金)東京宝塚劇場で宝塚歌劇花組公演『A Fairy Tale-青い薔薇の精-』『シャルム』が初日を迎えた。本公演は花組トップスター、明日海りおの退団公演となる。
ここ最近、花組公演はライブビューイングか宝塚スカイステージで観ることが続いていた。「明日海りおはチケットが取りづらいトップスター」と言われていたのを肌で実感していたのだが、退団公演の初日を観劇することができ、感無量だ。
『A Fairy Tale-青い薔薇の精-』は、植田景子が作・演出を手掛けたオリジナルミュージカル。トップスターの魅力を最大限に魅せることが得意な植田らしい作品に仕上がっていた。時は19世紀半ばの英国。目に見えない世界に生きる妖精と人間の少女・シャーロットが出会ったことから物語はスタートする。薔薇の妖精エリュを演じる明日海と少女・シャーロットを演じる新娘役トップの華優希が、楽しく戯れるシーンが微笑ましいのだが、妖精の姿を見ることができるのは乳歯が残っている幼い間だけ。大人になったら妖精と過ごしたすべての記憶を消し去ることが自然界の掟となっているが、エリュはシャーロットに自分と過ごした日々を忘れてほしくないため、掟に背いてしまう……。
トップスターの退団公演が新トップ娘役のお披露目公演と重なるというのは過去にもあるが、トップコンビをどう絡ませるのか、結構難しいところだと思う。ところが今回の公演は、とても自然に2人が絡み、そしてそれぞれが独立した見せ場を持っているところが良いと感じた。また言わずもがなだが、明日海の妖精が美しい。これまで男役としてさまざまな役を演じ、そのたびに新たな魅力を出してきたが、この人は人間ではない役が一番似合うのかも…と感じてしまった。華は難しい役を熱演し、個人的には年老いたシャーロットを上手く演じていると感じた。観終わったあとにちょっとほろ苦いものが残る、大人向けのファンタジー作品だ。
『シャルム』は作・演出を稲葉太地が手掛け、パリの街を舞台に繰り広げられるレビュー。プロローグのあとに繰り広げられるスーツ姿で決めた男役が踊るシーンで一気に引き付けられ、明日海を中心に次期トップスターの柚香光をはじめとした男役たちが美しく妖しい雰囲気を魅せる。
ショー全般を通して、明日海がいろいろな衣装を身にまとうのもファンとしてはうれしいところ。退団公演ならではの、明日海りお男役集大成と言えるのではないだろうか。ショーのフィナーレが近づくにつれ、サヨナラ色が濃く出てくるためすすり泣く人も多く見られた。
初日あいさつで明日海は、台風の被害に合った人たちに思いを馳せ、無事に舞台に立てることは当たり前のことではないと改めて感じたと語った。まだ初日が開けたばかりなので、湿っぽさは一切ない挨拶だったが、いよいよ退団に向けてカウントダウンが始まったのだと感じる公演だった。今からチケットを取るのは至難の業だと思うが、ぜひチャンスがあれば観ていただきたい公演だ。