松下優也インタビュー ミュージカル『マリー・キュリー』「松下優也ならではのピエールを演じたい」【インタビューVol.38】

松下優也(撮影:咲田真菜)

Google

2025年10月~11月、東京・大阪にてミュージカル『マリー・キュリー』が上演される。2023年に日本で初演され、繊細な人間描写と心に響く楽曲が大きな反響を呼んだ。今回キャストを一新し再演に挑む。

タイトルロールのマリー・キュリーは昆夏美星風まどか、マリーの夫、ピエール・キュリーを松下優也葛山信吾、マリーの親友、アンヌ役を鈴木瑛美子石田ニコル、投資家・ルーベン役を水田航生雷太が演じ、演出は初演から引き続き鈴木裕美が務める。

このたびピエール・キュリーを演じる松下優也さんに取材を行った。出演が決まったときに気持ちや作品への意気込みについて語ってくださった。

松下優也(撮影:咲田真菜)

――韓国ミュージカル『マリー・キュリー』待望の再演となります。出演オファーがあったときのお気持ちをお聞かせください。

僕は初演を観ることができなかったのですが、お客様や業界の方々がこの作品を高く評価していたことは知っていました。演出が鈴木裕美さんということもあり、お話をいただいたときは単純にうれしかったです。裕美さんとまたお仕事をしたいとずっと思っていたので、お声掛けいただけたのがうれしかったです。

ピエール・キュリーという役は、今まで演じてきた役の印象とかけ離れていますし、やったことがない役です。今回「松下優也だからこそできるピエールを見てみたい」とおっしゃっていただきました。僕自身、役柄がぴったり合ってるといわれるよりも「イメージがわかない」といわれたほうが役作りに火がつくタイプなので、楽しみです。

――今回演じられるピエールは、歴史上実在した人物です。演じるにあたって意識されていることはありますか?

出演が決まってから、ピエールの人物像や生い立ちをインターネットで調べたりしました。でも、今回の作品はFact<歴史的事実>とFiction<虚構>=ファクション・ミュージカルなので、どこまで事実に基づいているのか、どの部分をフィクションとしてやるのか、演出の裕美さんが何を求めているかを知りたいと思っています。

ただ、ピエールに会ったことがある人は誰もいないので、残っている資料で見えてくる部分やピエールが大事にしていた芯の部分を持っていれば間違うことはないと思います。脚色については裕美さんや他のキャストと共通認識を持ちたいですし、このミュージカルならではのピエール像を作れたらと思います。

――ファクション・ミュージカルと銘打っている作品ならではの良さや自由さを前面に出していく感じでしょうか?

この作品が、実際にあったFact<歴史的事実>の部分を知るきっかけになればいいなと僕は思っています。僕らは歴史を伝える先生ではなくエンターテインメントをやっているので、そういう意味で「ファクション・ミュージカル」はすごくいい形だと思ってます。

ただ、2023年にミュージカル『太平洋序曲』に出演させていただいた時に感じたことですが、クリエイティブ側と演者側が史実に基づいていることとそうでないところの共通認識を持っていないと苦戦すると感じました。だから今回もみんなで共通認識を持ち、同じ落としどころを持って取り組みたいです。

――今回演じられるピエールは今までのイメージと違うとおっしゃいましたが、どのあたりが違うと感じられるか、お聞かせください。

今回はサポートする側なので、これまでそういう役はあまり多くやってないんです。そこは新たな発見がありそうで面白いと思っています。

大作ミュージカルで主演をやらせていただく機会がありましたが、その時は自分が先頭を切って走って、まわりについてきてもらった感じがありました。でも今回は奥さんであるマリーを支える役なので、皆さんが知ってくださっている松下優也のイメージと違うのかなと思っています。

――アーティストとして、今作の楽曲はどのような印象を受けましたか?

韓国ミュージカルは、音楽の力・歌の力がすごいと思っています。その一方で、繊細に芝居で見せる部分もあると感じています。大規模な劇場での上演ではないので、お芝居や歌のニュアンスがより伝えやすいので、そこが楽しみですね。

――毎回ミュージカルの楽曲に対しての捉え方は違うものですか?

そうですね。例えば『キンキーブーツ』の時は、世界中で上演されている作品なので、いろいろな方が歌っているのを聞きました。それぞれの良い部分をもらった上で、自分の歌に仕上げていきました。英語を日本語にするとリズム的にちょっと…と感じるかもしれませんが、僕は日本語でもかっこよく聞かされるはずだと信じているので、できるだけ研究します。

新作ミュージカルに関しては自分で見つけるしかないので、作りがいがあります。例えば『ケイン&アベル』では、フランク・ワイルドホーンの曲を世界で初めて歌うことになったので、後悔しないようにあらゆる手を尽くして研究し、自分のものにしました。

――ミュージカル俳優・松下優也としての強みや魅力はどこにあると思いますか?

一言で言うと経験値です。僕はもともと音楽でデビューして同時に映画のお仕事をいただき、ミュージカル、ストレートプレイ、映像とこの15年間さまざまなジャンルに挑戦させていただきました。この数年でやっとミュージカルを多くやらせていただけるようになったので、ここまでたどり着くのに一直線の道ではなかったんです。

芝居をするときに僕が一番大切だと思っているのは、いろいろな側面を持たなければいけないということです。「これさえ分かっていたら」という究極の答えはないと思っているので、あらゆる側面があるカオスな状況が、僕にとって一番いい状態だと感じます。これまでのいろいろな経験が、確実に自分の強みになっています。

――ここ数年でいろいろな作品に出演されたからこそ、自覚されたのですか?

いろいろなポジションをやってきたからだと思います。まるで転生したかのように、いろんな役を演じてきましたから。だからこそ今、大きい作品に出演させていただけるまでにたどり着いたと思っています。

僕はクラシックをやってきた人間ではないので、これまではミュージカルの世界で主流ではないのかも…と感じていました。でもここ数年はポップスの音楽を使うミュージカルが増えてきたので、自分が主流になれる作品が多くなったと思っています。ようやく時代に合わさったかな…と感じます。

松下優也(撮影:咲田真菜)

――マリー・キュリーを演じられる昆夏美さんの印象はいかがでしたか?

すごく仲良くなれそう…って感じがしました。僕はよくボケたりすることがあるんですが、ボケをボケとして受け取って、笑ってくださる人だと思いました(笑)。昆さんに対して持っていたイメージと、実際会ってみたイメージは変わらなかったですね。

ミュージカルの第一線で活躍されていることは知っていましたし、歌がめちゃくちゃ素敵な人だという印象がありました。この間、帝国劇場CONCERTで初めてお会いしたんですが、昆さんが歌われた「命をあげよう」が本当に素晴らしかったんです。

ここ数年ミュージカルをやらせていただいて感じているんですが、歌は技術だけじゃなく気持ちが合わさった瞬間に本物になると思っています。昆さんはそれが表現できる方なんですよね。そしてすごくフラットな方なので、気負わず会話ができそうです。

――支えがいがありそうなマリーになりそうですか?

どう考えてもマリー役は歌やセリフの分量が多いから、そういう意味で芝居だけじゃなく隣で寄り添えれば……と思います。

――演出の鈴木さんとは今回3回目ですが、再演が決定した際の松下さんのコメントの中に「いつもたくさんの学びを頂けている」とありました。これまでどんな学びがあったか、教えていただけますか?

裕美さんと最初にご一緒したのが『花より男子 The Musical』でした。学園もので自分も含めて若い役者が多かったので、芝居・戯曲とは? と授業みたいな感じで教えてくださいました。その話がすごく興味深かったんです。例えば悲劇を悲劇的に描くには、その前のシーンでいかに幸せかを表現するのが大事で、それによってより悲劇が際立つと教えていただきました。

その当時、今ほど芝居に対してピンときていなかったので、裕美さんの話で「芝居って面白いかも」と気付いたんです。

――松下さんの演技の土台になっている感じですか?

そうですね。裕美さんのことは芝居で騙せないので、思ってもいないことはやらない、思ったことは言われなくてもやってみるようにしています。裕美さん以外の演出家に対してもそのように心掛けています。

裕美さんがきっかけで、より芝居が好きになったので、今回もまた色々勉強できると思っていますし、前回ご一緒したのは5年前のミュージカル『サンセット大通り』なので、成長したところを見せたいです。

――松下さんが出演されている作品を何作か拝見しましたが、どの役も違う人が演じているように見えてすごいな…と感心しています。『マリー・キュリー』のビジュアルを拝見したときにも「本当に松下さんかな?」と思ってしまいました。そのあたりをご自身は意識することがありますか?

あまり僕自身は意識していないです。でも役のマインドになれば外側もおのずと違ってくるのかもしれません。だから役によって印象が違うように見えるのだと思います。

うまく説明できるかわからないですけど、例えばこの作品でどう爪痕を残すかとか、僕はそういう邪念が入らないです。「役者としてこう見られたい」というのが初めからなかったので、いただいた役に染まっていける準備ができているのだと思います。

これまで「この役をやってる僕を見て!」と1ミリも思ったことがなかったことが、僕にとっては大きなことだったと感じています。「自分が!」ではなく、物語と役に集中した先に答えがあるし、それをやってきたからこそ分かったことがあります。だから演じる役によって印象が違うのかもしれません。

――『キンキーブーツ』の初日前の取材をさせていただいた時、松下さんがローラになり切ってすごく声を張っていたのが印象的でした。

(笑)。演じている役に影響を受けやすいところはあるかもしれませんね。それを楽しんでいる自分もいます。だからこそ、この仕事は面白いです。自分を持っているからこそ、自分を手放すことが怖くないんです。

――『マリー・キュリー』に話を戻しますと、マリーは揺るぎない信念を持っている女性です。松下さんはそういう女性をどう思うか、そしてそれを献身的に支えるピエールについてどう思うか、お聞かせください。

マリーもピエールもお互いに同じ研究をしている研究者なので、男女関係なく尊敬しますよね。自分の仕事に対して常に勉強しながらやってるわけですから、尊敬することは自然なことだと思います。上も下もなく尊敬し合っているところは、すごく理解ができます。

――松下さんご自身は、マリーみたいな女性をどう思いますか?

うーん、どうだろう…??(少し間があって)いいんじゃないかな(笑)。人として素敵だと思うので、そういう意味で「いいんじゃない?」って思います。

――これからお稽古が始まっていくと思いますが、ファンの皆さんにこういうところを見てほしいというアピールはありますか?

ピエールは、ここ数年演じてきた役の中にはなかったイメージの役ですが、本番の頃には、僕なりのピエールが出来上がっていると思います。

舞台はいろいろ計算して緻密に作らなければいけないですが、舞台に上がったら計算したり緻密に考えたりしたことは忘れて、その時に感じた気持ちで演じるからこそ人に届くと思っています。大きい劇場じゃないからこそ感じ取れるものも大きいと思います。

この作品はすごく悲しいお話だけれど、感動してもらえる作品だと思うので、ぜひ観に来ていただきたいですね。

取材・文・撮影:咲田真菜

松下優也(撮影:咲田真菜)
目次

ミュージカル『マリー・キュリー』公演概要

【東京公演】 2025年10月25日(土)~11月9日(日) 天王洲 銀河劇場
【大阪公演】 2025年11月28日(金)~11月30日(日) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ

【脚本】 チョン・セウン 【作曲】 チェ・ジョンユン
【演出】 鈴木裕美 【翻訳・訳詞】 高橋亜子

【出演】
昆 夏美 星風まどか(Wキャスト)/松下優也 葛山信吾(Wキャスト)/鈴木瑛美子 石田ニコル(Wキャスト)
水田航生 雷太(Wキャスト)
能條愛未 可知寛子 清水彩花 石川新太
坂元宏旬 藤浦功一 山口将太朗 石井 咲 石井亜早実 飯田汐音(Swing)

【企画・製作】 株式会社アミューズクリエイティブスタジオ

公式サイト https://mariecurie-musical.jp/
公式X @mariecurie_jp

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

国家公務員・一般企業勤務を経てフリーランスのライターになる。高校時代に観た映画『コーラスライン』に衝撃を受け、ミュージカルファンとなり、以来30年以上舞台観劇をしている。最近はストレートプレイも積極的に観劇。さらに第一次韓流ブームから、韓流ドラマを好んで視聴。最近のお気に入りはキム・ドンウク。

目次