2025年5月2日(金)~7日(水)三越劇場(東京)にて、舞台『あなたに会えてよかった』が上演される。本作は、1994年に英国スティーヴン・ジョゼフ劇場にて初演され、その後、ロンドン・NYで再演を繰り返すイギリス劇作家アラン・エイクボーンによる傑作戯曲だ。
【あらすじ】
2020年、ロンドンの高級ホテル。オーバーコートに金髪のかつらをかぶった売春婦・プーペイ(紅ゆずる)は、瀕死の初老男性・リース(林翔太)に奉仕するため、ホテルのスイートルームへ訪れた。しかし、リースがプーペイを呼んだのには別の理由が。彼の助手・ジュリアン(室龍太)が、自分の過去の妻・二人を殺害したという事実を自白し、その証人となってもらうためだったのだ。プーペイはその自白書を持って急いで立ち去ろうとするが、ジュリアンに見つかり、襲われる。プーペイは、スイートルームの連絡用のドアの向こうへと逃げるのだった。プーペイがドアを開けると、なんと、そこは2000年の同じ部屋。そこには、リースの2番目の妻・ルエラ(珠城りょう)がいた。その後、最初の妻・ジェシカ(綾凰華)とも出会い、3人は自分たちの人生を救うべく、ホテルの一室での奇妙なタイムトラベルのなかで、力強くその運命に立ち向かうのだった…!
主演・プーペイ役を紅ゆずる、ジュリアン役に室龍太、リース役に林翔太、ジェシカ役に綾凰華、ハロルド役(ホテルの警備員)にドロンズ石本、そしてルエラ役に珠城りょうが務める。
本作は、状況を巧みに構築することで笑いを引き起こし、人間描写を得意とするアラン・エイクボーンならではの緻密な3重構造で物語が進行。売春婦・プーペイが訪れたホテルの一室で事件に巻き込まれ、ある共通項で結ばれた女性たちが時を越えて結びつき、最後には希望に満ちたエンディングが待ち受けている。演出は、数々のミステリ舞台を手掛けてきた野坂実が手掛ける。
このたび初日に先立ち、開幕直前取材会と公開ゲネプロが行なわれた。キャスト6名全員と演出の野坂が登壇し、初日を迎える意気込みを語った。
綾凰華:年代を越えてさまざまな人間関係が繰り広げられます。ひとり一人がとてもハートフルで愛しいキャラクターになっているので、ぜひ楽しんで観ていただきたいです。

珠城りょう:今回お稽古が本当にあっという間で、今こうやって衣装を着けて舞台に立っているのが信じられません。今日は本当に初日なのかな? と思っています。皆さんと日々いろいろなアイデアを出し合いながら稽古をしてまいりました。お越しいただく皆様に楽しんでいただけるように精一杯努めたいと思います。よろしくお願いいたします。

室龍太:ゴールデンウィーク中で、花粉、低気圧、黄砂といろいろあって体調は芳しくないのですが、作品は最高なものをお届けしたいと思いますので、ぜひ楽しんでください。

林翔太:珠城さんもおっしゃっていましたけど、本当に稽古があっという間で「ついに初日だ」というよりは「もう初日なんだ」という感じです。みんなと一緒に作り上げてきためちゃくちゃ楽しい作品なので、お客様ひとり一人に喜んでもらえるように、千秋楽まで頑張りたいと思います。よろしくお願いします。

ドロンズ石本: (冗談で記者に向けて)僕がしゃべるので、写真撮影が止まりましたね(笑)。(撮影され)ありがとうございます! 今回、6人でやるということで非常に少ないんですけど、皆さん個性があって素晴らしいです。紅さんの役や個人的には林くんの役がすごい好きで、なんとか千秋楽までに野坂さんと交渉して、林くんの役ができるように…。お願いします!(一同笑い)

野坂実:イギリスの劇作家アラン・エイクボーンの作品で、今、ミュージカル『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が上演されていますが、そこから着想を得たような内容の部分がたくさんあります。それをエイクボーンが独自にどう味付けしたのかということ、そしてコメディとしてものすごく秀逸な作品になっています。それを6人という少人数で上演するにあたって、一番マッチングする人はどなただろうと頭の中で張り巡らせてプロデューサーと何度も会議をした結果、この最高の6人となりました。

(野坂のコメントを聞いて)
ドロンズ石本:気持ちいいな~~!
野坂実:(笑)。この6人でお芝居できることが、すごく幸せな稽古場でした。内情を言っちゃうと、気遣いができる方が6人そろっていた感じで、稽古場に入るときも邪魔しないようにそっと入ったり、帰ったなと思ったら、食べ物がそっと置いてあったり…。びっくりするくらい気遣いができる6人でした。稽古場はこんな感じで、和気あいあいと稽古しておりました。このチームワークが今から発揮できるということで、とても僕は楽しみにしております。お客様も楽しんでいただけると思いますので、よろしくお願いいたします。
紅ゆずる:私はコメディが得意な女優だと言われてきたんですけれども、今回お稽古場に入って自分のコメディセンスのなさに落胆し、本当に大丈夫かなって自分自身を疑うところがありました。これだけ皆さんが明るい挨拶をしたあとになんですけど、とっても不安です。自分の中では繊細に(役を)作ってまいりましたので思いっきりやりますが、とても考えさせられた作品です。
シチュエーションコメディというものが初めてだったので、自分が今まで培ってきたものと全く違うものを要求されているんだと稽古が始まって初めて気付きました。実際に台本を読んだ時はこうなんだろう、ああなんだろうと思っていたことが全然違ったので、すごく戸惑いを感じながらお稽古を進めてまいりました。
でもあっという間にお稽古は終わり、本日初日。お客さんも入られますし、もう腹をくくって舞台に立ちます。1回1回の公演で自分が得るもの、そして成長できるものを見つけていきたいと思っております。ゴールデンウィーク中、わざわざ足を運びいただく皆様に楽しんでいただける作品になるように、精一杯頑張りますのでよろしくお願いいたします。

ここからは、ゲネプロの模様をお伝えしよう。
(内容にふれているので、まっさらの状態で観劇したいと考えている方は、気を付けてください)
ロンドンにある高級ホテルのスイートルームに呼ばれた売春婦のプーペイ(紅ゆずる)が意気揚々と登場する。ドアを開けたジュリアン(室龍太)を客だと勘違いし、ハイテンションで話し出した瞬間から、紅ゆずるの挑戦が始まった。

開幕直前取材では「とっても不安」と緊張の面持ちで語っていたが、幕が上がると同時に生き生きとプーペイを演じる紅がいた。ころころ変わる魅力的な表情、コメディー作品にとっては生命線となる間の取り方の上手さなど、一体どこに不安を抱えていたのだろう…と思う完成度だった。
プーペイは、客がジュリアンではなく、今にも倒れてしまいそうな初老の男性・リース(林翔太)だと知って驚く。ヨボヨボの男性にどうやって奉仕しろというのかと押し問答になるのだが、気性の荒いジュリアンに脅され、渋々リースの相手を承諾する。

ジュリアン役の室は、ドスのきいた声に迫力がある。ビジネスパートナーであるリースの妻を2人も殺害していたのだから、かなりの極悪人だ。何を考えているかわからない粘着質な不気味さを上手く醸し出していた。
プーペイの姿を見たリースは、自分の娘に似ていると言って一目で気に入る。そんなリースがプーペイを呼んだのは、ジュリアンの悪事を書いた自白書を弁護士に届けてほしいと依頼するためだった。

開幕直前取材とはうって変わって、老けた風貌で登場した林。かすれた声、心もとない歩き方がなかなか上手い。必死に懇願するリースともみ合いになったプーペイは、突然倒れてしまったリースに驚く。リースを助けに現れたジュリアンが自白書を目にし、プーペイを殺害しようとする。必死に抵抗し、スイートルームの別のドアから逃げ出したプーペイがたどり着いたのは20年前の同じ部屋で、そこにはリースの2番目の妻・ルエラ(珠城りょう)が滞在していた。

突然現れたわけのわからない格好をしたプーペイに怪訝な表情をしつつも、何か事情があるに違いない…とルエラは優しく対応する。リースが「聡明な女性だった」と回顧していたがそのとおりで、正義感が強くて頭の良い、心優しい女性だ。


リースから聞かされていた、死んでいるはずのルエラが目の前にいること、自分が生きていた2020年ではなく2000年であることを知らされ、パニックに陥るプーペイ。ルエラは、そんなプーペイに優しく寄り添った。ルエラ役の珠城は、紅とは対照的に落ち着き払った演技が印象的。立ち姿や諸々の所作がとてもきれいだ。もう少しせりふに抑揚があってもいいのかな…と思ったりもしたが、冷静で賢い女性像を珠城なりの解釈で演じたのだろう。

ホテルの警備員・ハロルド(ドロンズ石本)がプーペイを追い出そうとするが、ルエラはプーペイがタイムトラベルをしてきたことを信じ、自身が殺されることとリースの最初の妻が殺されることを阻止しようと決意する。スイートルームの扉は1人でなければ開けることができず、なおかつ過去にしか行けないこともわかった。そこでルエラは、さらに20年前の1980年へタイムトラベルし、そこでリースの最初の妻・ジェシカ(綾凰華)に会う。リースとラブラブな新婚生活を送るジェシカを演じる綾は、元気ではつらつとした女性を爽やかに表現した。

ジェシカと若いハロルド、そしてルエラが話し合いをするが、まだルエラのことを知らないハロルドは乱暴な口調で話す。財力と社会的地位で態度を変える典型的な人物をドロンズ石本はナチュラルな演技でみせた。そんなハロルドに対して、冷静なルエラが感情をむき出しにして食って掛かるところが面白い。ルエラはジェシカがジュリアンに殺されないように手紙を託し、彼女が信じてくれることを祈りながら、自分の時代に戻る。

そして、ルエラがジュリアンに殺される日、突然現れたジェシカの機転でルエラは難を逃れることができた。プーペイ、ジェシカ、ルエラは初めて顔を合わせ、3人で乾杯する。ここの時代で暮らせばいいのに…というルエラに対して「だってこの時代には、13歳の私がいる」と言うプーペイ。「でも絶対に私に会いに行かないで。13歳の頃の私は最悪だったから。今の私をルエラには覚えていてほしい」という言葉を残して、プーペイは2020年に戻っていく。
戻った先で待っていたのは、初老ではあるものの元気な姿のリースだった。そこでプーペイはルエラのおかげで自分の人生が大きく変わったことを知る。

豊かな表情と体当たりの演技で沸かせてくれた紅。実際にゲネプロ公演を観て、不安な気持ちはどこかへ置いて、自信を持って千秋楽まで突っ走ってほしいと感じた。そしてコメディー作品ではあるものの、人生から逃げ出さずに果敢に挑戦した人は大きなものを得られるものだ…と教えてくれる物語だった。

本公演は、5月7日(水)まで三越劇場で上演。その後、5月10日(土)・11日(日)にCOOL JAPAN PARK OSAKA TTホール(大阪)で上演が予定されている。
取材・文・撮影:咲田真菜
舞台『あなたに会えてよかった』公演概要
【公演日時・会場】
東京公演: 2025年5月2日(金)~7日(水) 三越劇場
大阪公演: 2025年5月10日(土)・11日(日) COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール
【チケット料金】S席:10,800円(税込)/A席:9,800円(税込)
【問い合わせ】
<東京公演>公演事務局:https://supportform.jp/event(平日10:00-17:00)
※お問い合わせは24時間承っておりますがご対応は営業時間内とさせていただきます。なお、内容によってはご回答までに少々お時間をいただく場合もございますので予めご了承いただけますようお願い申し上げます。
※会場等、上記問合せ窓口以外にお問い合わせいただいても、ご回答できかねますのでご了承ください。
<大阪公演>キョードーインフォメーション:0570-200-888 (12:00~17:00 ※土日祝休み)
●公式HP:https://anatani2025.com/
●公式X:@anatani2025
●主催:舞台『あなたに会えてよかった』製作委員会(エイベックス・ライヴ・クリエイティヴ/ノサカラボ)