NHK「みんなのうた」の名曲を使用した日生劇場ファミリーフェスティヴァル 2025 「NHKみんなのうたミュージカル『リトル・ゾンビガール』~ノノとショウと秘密の森~」が8月23日(土)より開幕する。ゾンビと人間が分断されて暮らす世界で、新米ゾンビの小さな女の子・ノノと人間の男の子・ショウの友情が、二つの世界のわだかまりを溶かしていく物語。楽しい物語展開の中に、隣人と認め合い、受け入れ合うという現代社会にとって大切なテーマを描き、それを耳馴染みの良い「みんなのうた」の音楽が彩る、大人も子どもも楽しめるミュージカルだ。3年ぶりの上演となる今回は、新キャストも加わり、さらにパワーアップした舞台が期待できそう。7月末のある日、その稽古場を取材した。
稽古場には森を思わせる緑色も印象的な、実際のセットがすでに建て込まれている。稽古開始時間になると、まずキャスト・スタッフ全員が集まり輪になった。気合い入れでも始まるのかと思いきや、自由に「今日の発見」を発表するタイムがスタート。お互いの発言を興味津々という風に聞く一同から、カンパニーの和やかな関係性やポジティブな姿勢が見てとれる。

この日は、細かい部分での多少の“思い出し稽古”を経て、冒頭からブロックごとに順を追って返していく形で稽古は進行していく。幕が開くと人間の子どもたちが『手のひらを太陽に』を歌いながら元気に遊んでいる。さっそくの、「みんなのうた」が誇る世代を超えた名曲の登場にワクワクするとともに、子どもに扮する俳優たちの、ガキンチョと呼びたくなるような無邪気なガサツさが微笑ましい。そこに輪をかけて元気な女の子が乱入! 新米ゾンビのノノだ。熊谷彩春の演じるノノは天真爛漫、まるで太陽のような子。初演からノノを演じている熊谷だが、前回にも増して生き生きと楽しそうで、この人ならではのよく通る可愛らしい歌声も溌溂と、バツグンに伸びやかだ。ゾンビの親分に扮するコング桑田との息の合ったやりとりもコミカルで楽しい。

人間の子どもたちが遊んでいる森は、実はゾンビたちの棲み処だ。かつて人間との間で戦争があり、その後、人間と関わることをやめ、ひっそりと森で暮らしているのだ。ゾンビと言えばホラー作品でおなじみだが、この作品のゾンビは怖さはまったくない。むしろ、イケている。ゾンビに扮する面々、クールなダンスもカッコよく、歌声も大迫力! ユーモアセンスもあり、ナイスキャラだらけだ。

人間チーム、ゾンビチームともに、歌にダンスにと一気に盛り上がったあと、南野巴那扮するショウの登場からぐぐっとドラマが動き出す。ショウはお父さんの仕事の関係で、この土地に転校してきたばかりの10歳の少年。南野の透明感あるまっすぐな歌声は耳に優しく、ショウの素直さが伝わってくる。演出の鈴木ひがしからの「ショウは友だちが欲しくて仕方ない、その感情をもっと歌にこめて」というリクエストを真剣な表情で聞いている姿も、生真面目なショウとどこか重なって見える。稽古場では、音楽監督の八幡茂や歌唱指導の三ツ矢淳子とともに、役としての表現を歌に乗せるという作業を深めている最中という様子だったが、南野も「やりすぎちゃうことを怖がらず、いっぱいやってみます」と前向きだ。

そんなショウは、実はダンスが大好き。彼が自分の部屋で歌い踊る場面で使われるのは、これまた昭和期の名曲『コンピューターおばあちゃん』だ。普段おとなしいショウが子どもらしい一面を見せるこのシーン、もともとバレエの素質のある南野が水を得た魚のようにキレのあるダンスを披露する。また、初演にはいなかった“おばあちゃん”も登場し、コミカルさも増しているのでご注目を。さらにそこにノノも乱入、最初は驚くショウだが、二人は一気に距離を縮め、そのまま『WAになっておどろう 〜イレ アイエ〜』へ。祝祭感あふれる音楽の力もあり、ピースフルな空間が広がっていく。熊谷と南野の声の相性も良さそうで、本番への期待感も増す。

一方で、ゾンビがひっそり住む森に、人間はショッピングモールを建設しようとしていることが発覚。棲み処がなくなると死活問題、ゾンビたちが対策を練っているところに、ゾンビの長老リリィが登場! 演じるのは大和悠河だ。大和はさすがの華やかさとユーモアも湛えたチャーミングさを存分に振りまき、そこにいるだけで自然と笑顔になってしまうような存在感。

物語がまた次のステップに入ったぞ、というところで取材のタイムアップ。ショッピングモール建設でゾンビの森はどうなるのか、再び人間とゾンビの間に戦争が起きてしまうのか、ノノとショウの友情はどうなるのか……この先はぜひ、実際の舞台をお楽しみに。ただ、垣間見れたのはまだまだ全体のほんの一部ではあるが、すでにキャラクターのユニークさ、音楽、ダンスの楽しさと、本作の魅力の多彩さが伝わってきた。他にも細部のブラッシュアップもあり、初演と比較しても、より“ミュージカルらしさ”も深まった印象。何より、登場するNHK「みんなのうた」の楽曲がどれもこれも懐かしく、親しみの感情が自然と沸き、物語に共感してしまう。ミュージカルにおける音楽の力の重要性も改めて感じた稽古場取材であった。
(取材・文:平野祥恵)
日生劇場ファミリーフェスティヴァル 2025 NHKみんなのうたミュージカル『リトル・ゾンビガール』~ノノとショウと秘密の森~

脚本: 德野有美
作曲・音楽監督:八幡 茂
演出: 鈴木ひがし
ほか
出演:
ノノ 熊谷彩春
ショウ 南野巴那
親分 コング桑田
ハル 石田佳名子
クルス 丸山泰右
リリィ 大和悠河
ほか
2025年8月23日(土)・24日(日)
会場:東京・日生劇場
公式サイト:
https://famifes.nissaytheatre.or.jp/2025himitsunomori/