60年以上の長きにわたり、子どもたちに音楽や歌うことの楽しさを伝えてきたNHK「みんなのうた」。世代を超えたその名曲たちをふんだんに使用したオリジナルミュージカルNHKみんなのうたミュージカル『リトル・ゾンビガール』~ノノとショウと秘密の森~が、2025年8月、東京・日生劇場公演を皮切りに全国で上演される。
ゾンビと人間が分断されて暮らす世界で、新米ゾンビの小さな女の子・ノノと人間の男の子・ショウの友情が二つの世界を“共存”へと導いていく可愛らしい物語。2022年の初演時、東京公演は新型コロナウイルスの影響で2公演のみの上演となってしまったものの、その貴重な公演を観たファンの間では、心温まる物語であると同時に、カタログミュージカルとして上質なものだったと評判になった作品の、待望の再演だ。この作品にショウ役として初出演する南野巴那に話を聞いた。

――本作は「日生劇場ファミリーフェスティヴァル」としての上演です。南野さんは昨年『あらしのよるに』でも当シリーズに出演されていました。このシリーズは普段の劇場よりお子さんの来場も多いのが特徴ですが、どんな思い出がありますか?
幕が上がる前から子どもたちの声が色々なところから聞こえてきて、すごく楽しみにしてくれているんだな、期待を胸に劇場に来てくれたんだなと感じました。私は板付き(舞台上にいる状態で幕が上がる)での始まりだったのですが、幕が上がった瞬間にも「うわーっ」という歓声が聞こえてきました。でも始まったらすごく静かに観てくれて。きっと目をキラキラさせて観てくれているんだろうなという子どもならではの集中力を感じ、とても嬉しかったです。今回もそうなのですが、全国公演は学校の芸術鑑賞会としても上演されます。場所によって子どもたちの反応が違うんですよ。大阪だと「ブラボー!」という声がかかり、北海道では「ヒュー!」と言ってくれた。学校ごとのブームとかもあるのかな(笑)。大人の感覚では予期せぬところで拍手が起きたりするのも、楽しかったです。
――ちなみに南野さんも学生時代、芸術鑑賞会に行きました?
高校の時、梅田芸術劇場でミュージカル『王家の紋章』を観ました。開演前に流れている河の流れるような音からすでに胸が高鳴ったのを覚えています。当時、新妻聖子さんが大好きで、新妻さんが歌う『レ・ミゼラブル』の劇中ナンバーをYouTubeでずーっと聴いていたので、その新妻さんが出ていらっしゃることに大興奮しました。あとは『メリー・ポピンズ』にも行きました。本当に芸術鑑賞会は大好きでしたし、いい思い出ばかりです。今回来場されるお子さんたちにも、同じようにいい思い出を持ち帰ってもらいたいです。
――今回は『リトル・ゾンビガール~ノノとショウと秘密の森~』ですね。本作に挑戦しようと思われた理由は。
「あらしのよるに」と同様子どもたちに届けられる作品ということ、小さい頃から聴いて育ってきた「みんなのうた」を次は自分自身が届ける側になれること、大好きなミュージカルに出演できること、全てです。少年役は初めてなので、私にとっては挑戦なのですが、いっぱいチャレンジしていきたいし、観に来てくださったお客様に喜んでもらえるものにしたいと思っています。

――「みんなのうた」にはどんな思い出がありますか。
「おしりかじり虫」と「コンピューターおばあちゃん」が大好きでした。「おしりかじり虫」は小学生の頃に初めて聞いたのかな。テレビで見て、もう楽しくて仕方なくて! あの曲は歌詞も歌声も大好き。晩御飯の時間に、声真似をしながら兄に向かってずーっと歌ったりしていたのを覚えています(笑)。「コンピューターおばあちゃん」は、内容が私のおばあちゃんみたいなんです。明治生まれではなく昭和生まれ、まだ入れ歯も入っていませんが、違いはそれくらい(笑)。コンピューターも得意だし、中学生の頃まで私はおばあちゃんに勉強を習っていたほど。親近感を覚えて、好きでした。
――「コンピューターおばあちゃん」は『リトル・ゾンビガール~ノノとショウと秘密の森~』にも登場しますね。
そうなんです。あの大好きな「コンピューターおばあちゃん」を歌って踊れるんだ! と今からワクワクしています!
――まだお稽古前かと思いますが、『リトル・ゾンビガール~ノノとショウと秘密の森~』という物語についてはどんな印象をお持ちでしょう。ゾンビが暮らすファンタジーの世界ですが、ゾンビと人間という二つの種族の間にはかつて戦争があり、今は分断されている、というのは現実社会の写し絵でもあります。
知らないことを知る勇気の大切さを描いている作品だな、と感じました。知らないことは、怖いことです。でも「怖い=嫌い」ではないんですよね。“怖い”を“嫌い”にしてしまったら、人同士からちょっとした食べ物まで、色々なものが敵になってしまう。「嫌い」と思った瞬間、人と人がぶつかり、大きなことになってしまう。今の時代、そんな息苦しさが色々なところにあると思うのですが、そうならないためにも、知らないことを素直な気持ちで知ろうとすることが必要。知らないから怖いのであって、知れば怖くないかもしれない。その一歩を踏み出す勇気が必要なんだなと、台本を読みながら思いました。
――その物語の中で、南野さんが演じるのが、人間の男の子・ショウ。新しい街に転校してきたばかり、ちょっとおとなしい男の子です。現時点ではショウはどんな子だと捉えていますか?
ショウは小さい頃からお父さんのお仕事の関係で、転校することが多かった。そのせいか、人の気持ちを考えすぎてしまうところがある子です。それはつまり、心優しく繊細だということ。でも家では一人で溌溂と歌って踊ったりするところもあり、そのギャップが人間らしいなと思っています。台本を読んで、子どもらしい素直さ、繊細さをとても感じたので、私も真っ白な心で素直に演じられたらと思っています。

――ショウくんに共感するところはありますか?
内気で、人の気持ちを考えすぎてあまり踏み込めない、でも友だちがほしい、人が好きだというところは自分と似ています。私も人が好きなのですが、考えすぎちゃうタイプ。特に芸能のお仕事をさせていただくようになると、オーディションを受ける機会も多く「あの受け答えは正解だったかな」とナイーブになってしまうことも多くて。ショウがノノと出会って一歩踏み出していくように、私もこの作品が明るいきっかけになって、少し変われたらいいなと思っています。
――男の子を演じるのが初めてだとおっしゃいましたが、演じる上でチャレンジしたいことなどはありますか?
まずは性別関係なく、子どもであるということが一番の挑戦ですね。子どもって何かに夢中になっていたのに興味をなくす瞬間とか、見ていてわかるじゃないですか。そういう無邪気さは意識したい。その上で女の子っぽく見えないように……というのは、これから普段の生活でも「子どもは、特に男の子はどうするのだろう」と観察して作っていきたいです。
――ほかに、本作のオススメポイントを教えてください。
テーマ曲の「夜明けをくちずさめたら」がとても好きです。自分の幸せだけでなく色々な人の幸せを願っているような、平和を求めているような歌詞が胸にきます。「ぼくも月をみてる」「みんな月をみてる」という歌詞は、涙がこぼれないように月を見ているんだなと思って、その表現も素敵。無理に明るくいる必要もないよという優しさを感じます。劇中ではノノとショウが、とてもいいシーンで歌います。舞台で演じながら歌うとじーんとくるだろうなと、今から楽しみにしています。
――最後に改めて、意気込みをお願いします。
大事なメッセージがたくさん詰まっている作品だと思いますし、そのメッセージはどの世代の方にも響くものだと思います。ですので世代問わず、この作品を観て欲しいです。劇中で歌われる「みんなのうた」の楽曲は、懐かしいなと思う方もたくさんいらっしゃるだろうし、知らない楽曲も「耳に残って仕方ない!」と思ってくださるはず。そんな素敵な音楽いっぱいで届ける物語です。好奇心を全開にして、ぜひ劇場で、私たちや多くの皆さんと同じ空間で、『リトル・ゾンビガール』を味わっていただけたら嬉しいです。
取材・文:平野祥恵/撮影:曳野若菜
ヘアメイク:熊谷美奈子/スタイリング:山田梨乃
日生劇場ファミリーフェスティヴァル 2025 NHKみんなのうたミュージカル『リトル・ゾンビガール』~ノノとショウと秘密の森~
◎出演
ノノ 熊谷彩春
ショウ 南野巴那
親分 コング桑田
ハル 石田佳名子
クルス 丸山泰右
リリィ 大和悠河
ほか
◎スタッフ
脚本 徳野有美
作曲・音楽監督 八幡 茂
演出 鈴木ひがし
ほか
◎日程・会場
2025年8月23日(土)、24日(日)
東京・日生劇場
【公式サイト】
https://famifes.nissaytheatre.or.jp/2025himitsunomori