【観劇感想】韓国ミュージカル『レベッカ』-韓国語が分からなくても楽しめるのかを検証-

ブルースクエア劇場

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なぜ韓国ミュージカル『レベッカ』?

2023年11月中旬に初めて韓国を旅した際に、せっかくなので本場のものを観ようということになり初めて韓国ミュージカルを観劇してきた。前もっていっておくが、私は韓国ドラマをたまに見るくらいで決して韓国にはまっているわけでもなく、韓国語も全然分からない。知っている韓国語といえば、「アンニョンハセヨ」「カムサハムニダ」、そして「カジャ(Let’s goの意)」(なぜこれ?!笑)くらい。

そんな私がなぜ韓国ミュージカルを観ようと思ったのか。周囲で韓国ミュージカルにはまり韓国まで通っている人もちらほらおり、海外にまで行って観たいと心突き動かされるものって一体何だろうと、それならこの機会に1度観てみようと思ったのがきっかけである。

渡韓中に上演されているものから、韓国ミュージカル通の知人にオススメされたのがブルースクエア劇場で上演されている『レベッカ』。『レベッカ』は、『エリザベート』などを製作したミヒャエル・クンツェ(脚本・作詞)、シルヴェスター・リーヴァイ(音楽)の共同で製作されたサスペンス作品で、日本でも最近では2019年に、大塚千弘・平野綾/桜井玲香(乃木坂46)、山口祐一郎、涼風真世・保坂知寿らにより、シアタークリエで上演されている。

キャスト・ストーリー

11月12日(15時開演)のキャスト表一部

【キャスト】 観劇日11月12日(15時)

マキシム・ド・ウィンター:リュ・ジョンハン
ダンヴァース夫人    :シン・ヨンスク
わたし         :イ・ジヘ
ジャック・ファヴェル  :ユン・ソグォン
ヴァン・ホッパー夫人  :ユン・サボン
ベアトリス       :イ・ウニュル
フランク・クロウリー  :コ・チョルスン
ジャイルズ       :チェ・ビョンジン
ジュリアン大佐     :キム・ヒョヌン

ベン          :イ・ジョンウォン            ほか

【ストーリー】
モンテカルロのホテルで、ヴァン・ホッパー夫人のお世話係として滞在していた「わたし」は、広大な屋敷や土地「マンダレイ」を所有する上流紳士マキシムと出会い、恋に落ち結婚する。ハネムーンを終えて2人は一緒にマキシム所有の「マンダレイ」の屋敷に帰り暮らし始める。温かく迎えてくれる義理の姉夫婦や召使たち。だが、家政婦頭ダンヴァース夫人だけは「わたし」につらくあたる。ダンヴァース夫人はマキシムの亡くなった前妻レベッカに幼少時から仕えていた。美しく、賢く、すべてが完璧であったと亡きレベッカを崇拝し、いまだその想いを持ち続けて「わたし」をマキシム夫人として認めてくれない。屋敷内にはいたるところにレベッカの面影が残り、マキシムまでも亡きレベッカの影に苦しみ続けているようで、次第に「わたし」との関係も悪化していく…。 そんなある日、亡くなったレベッカの死体が発見された。マキシムは、レベッカの死の真相を語りはじめる。次第に浮彫りになっていくレベッカの人物像。そして、それを知ったダンヴァース夫人は……。

圧倒的な歌唱力にオープニングから惹きこまれる【感想(ネタばれ含む)】

予習として韓国ミュージカル好きの方たちのブログ等で物語のあらすじなどを読み、大まかなストーリーを頭に入れていった。
以下は、セリフが分からなかったため、あくまで歌唱力や演技、表現力に限った見たままの印象での感想であることをご了承いただきたい。

正直、ストーリーテラー役でもある冒頭の「わたし」(イ・ジヘ)の歌声を聴いたときに、これはすごいものを観ているのではないかと鳥肌がたった。今まで聴いたことがないくらいの、純度100%の透明感があってまっすぐで伸びがあり、清らかで春風のように心地よく、小川のせせらぎのようにさらさらとした歌声(伝わってほしいこの感動)! まるで天使のような歌声(聞いたことないけど)! イ・ジヘの話す声も演技もすべてキュートで虜になるのに数分もかからなかった。暗い過去をひきずっていたマキシムの傷つき閉ざされた心を溶かし、柔らかく大きな愛で包んでいく存在である「わたし」の歌声にイ・ジヘの歌声はまさにぴったりで絶対的な説得力がある。こんな声で歌われたら、誰でもあなたに恋するでしょうよと思わせるほどの魅力的な歌声。この歌声を聴けただけでも観に来てよかったと、オープニングから感動に打ち震え、その歌声に誘われてレベッカの世界に惹きこまれていった。

「わたし」が仕えるヴァン・ホッパー夫人(ユン・サボン)はキャラが濃く強烈なインパクトで迫力があった。2階席だったので遠目でしか見えないのだが、言葉が分からなくても演技と表現力、歌声を聴いているだけで、その存在がコミカルで笑えるのだ。押しが強くて、自己中心的、我儘で、でもどこか憎めないタイプ。こういうコメディエンヌ的キャラは個人的に好きなタイプ。余談だが、ヴァン・ホッパー夫人のセリフに「カジャ!」があって、これが分かったときの嬉しさったらなかった。闇が深いストーリー展開が続く中で、陽気でコミカルな彼女の存在に心救われていた。

一方、この物語のほぼ主役といっても過言ではないダンヴァース夫人(シン・ヨンスク)。亡きレベッカの喪に服している意味もあるのか、終始漆黒の衣装を身にまとい、怪しく異様な存在感を放つ。一切笑わずほとんど表情を崩さない。「わたし」を憎き敵かのように冷たくあしらう冷淡さをもつ。亡きレベッカの寝室で「わたし」とのやり取りのシーンが結構あるのだか、寝室のゴージャスな幕が、彼女が手を挙げただけで上がったりする演出もあってか、最初はこの人は妖術でも使う魔女なのか?という印象もあり、底知れない妖しさと恐怖を感じた。

シン・ヨンスクの歌声がこれまた深みと厚みのあるものすごいパワーの声量で圧巻! 特に劇中で繰り返し歌われる「レベッカ」は音楽的にも耳に残る印象的な曲調なのだが、繰り返される曲でも場面に応じたダンヴァース夫人のさまざまな心の機微を見事に表現する彼女の歌声によってまったく違って聴こえる。その歌声に何度心が打ち震えたことか。また、レベッカの寝室のバルコニーで「わたし」のイ・ジヘとダンヴァース夫人のシン・ヨンスクが歌い上げる「レベッカ」は2人の想いがぶつかりあい、重なり合い、奏で合う歌声が素晴らしく、その圧倒的な歌唱力のパワーに魅せられ、気が付いたら韓国の観客と一緒に「ブラボー!」と叫び拍手を送っている自分がいた。(韓国の観客はとても熱い!1曲ごとに惜しみなく拍手と声援を送っていた)亡きレベッカの影に囚われ続けるダンヴァース夫人の想いは狂信的にも思うが、彼女の死を受け入れられず実は一途に彼女を愛する愛の人でもあったのかもしれないと、彼女が最期に歌いあげる物哀しい「レベッカ」を聴いて思ったりもした。

余談だか、ちょうど私が観劇した日、カーテンコールでシン・ヨンスクが長くお話をされていた。周囲の雰囲気的に彼女の誕生日だったのかなと勝手に思い込んでいたが、後日知人に聞いたら彼女の千秋楽だったとのこと。英語のできる客席スタッフの方がいたので、何を言っていたのか聞いてみようと思ったのだが、スタッフを見つけられずに断念。韓国語を理解したいなと切実に思った瞬間でもあった。

そして、演出で感動したのは、プロジェクションマッピングの使い方。海の波の演出なども、プロジェクションマッピングを使用することで臨場感あふれる情景を生み出していた。また、場面転換のときには、例えば、最初は映像で遠目での屋敷を見せ、徐々に屋敷にクローズアップしていき、最後にリアルな屋敷内の舞台セットを見せるという手法を使っていたのが素晴らしかった。場面転換で唐突に屋敷内の舞台セットを見せるより、そのセットがどのような場所でどんな状況なのかを、最初に予備知識として映像により観客に提示することで、観客側もより自然にストーリーの中に入り込める。この映像に使っていた墨絵のような絵もとても可愛らしく印象に残っている。

今回は特に印象に残った3人のキャストを中心に書いたが、すでに再度渡韓しもう一度おかわり『レベッカ』をしてさらに詳細に観たい気持ちに駆られている。これが韓国ミュージカルの魅力かと、今回の観劇で充分思い知らされた。

偶然にも、『レベッカ』は11月19日で一旦千秋楽を迎えたのだが、2023年12月14日~2024年2月24日まで、LGアートセンターソウルでアンコール上演されている。興味のある方はぜひ!

以下は、韓国ミュージカルを観たいと思っている方のために、少しでも参考になればとチケットの取り方~劇場までの簡単な体験記を書いたので、興味のある方は一読していただければと思う。

HOW TO チケット購入 -劇場入場までの長い道のり-

チケットをとるにあたってお世話になったサイトは「INTERPARK Ticket」。VIP席・R席・S席・A席の4種類からチケット券種を選ぶ形で、今回はR席(140000ウォン+手数料600ウォン)の2階席を選択。その際予約番号が発行される。チケットは1カ月前に取ったが、ほぼ空席のない状態だったので早めの予約をオススメする。

韓国到着当日に15時開演の観劇予定を入れていたので、とにかく時間に追われてバタバタ。ホテルに荷物を預けたりしていたら、思ったよりも時間がかかり、駅構内を全速力で走るはめに。初めての韓国だったため地下鉄の乗り換えにも手間取り、駅にはエスカレーターも少なく乗り換えには結構長い距離を走った記憶がある。

息をきらしながらようやく最寄り駅「漢江鎮」につき、目の前にドドーンと現れた『REBECCA』の看板がかかった劇場を観たときは、うわぁー来た!という感動に打ち震えた。が、30分前に来いと言われギリギリの到着(後日、開演時間までに到着していればOKと知人から聞く)だったので浸る間もなく急いで劇場に入った。

しかし、劇場内韓国語だらけで(当たり前)、何をどうしたらいいのか分からず右往左往。なんとかTICKET BOXを見つけ、カウンターのスタッフに英語で尋ねたが韓国語で何か言われ、隣にある券売機(キオスクというらしい)でやってみたいなジェスチャーをされたので、券売機に並び、みようみまねで韓国語で書いてある画面のそれらしき空欄に予約番号を入れてみたら発券できたといった感じであった(笑)すべてが奇跡。ありがとう。たまに本人確認があるらしいので、パスポートはもっていった方がよいと知人に言われていたが、このときはなかった。

ブルースクエア劇場の客席数は1766席ということだったので、帝国劇場と同じキャパくらい。客層の印象は、とにかく男性が多いことに驚く。カップルで来ている人も多いし、男性同士で来ているひともたくさん見かけた。演劇・ミュージカルというカルチャーが男女問わず浸透しているのかなと印象的だった。劇場内のスタッフさんには英語を話す方もいて、公演冒頭のアナウンスも英語あり。字幕などは英語・日本語なし。生オーケストラ演奏で、幕間休憩あり。

券売機(キオスク)で発券したチケット

検証の結論

音楽は全体的に私の好きな曲調が多かったので心に残ったのはもちろんだが(特に終演後も口ずさんてしまうのは「レベッカ~♪」)、セリフが分からずともキャストの方たちの歌唱力と演技・表現力で充分楽しめた。ただ、出来る限りの予習をしていくことをオススメする。全体の流れが分かっていると、セリフや歌詞が分からずともキャストたちの演技や表現力で、今はこんなことを話しているのかななど想像しても楽しめたりもしたので(答え合わせはできないが…)。

結論としては、

言葉が分からなくとも何とかなるっ! 充分楽しめる! パワーに圧倒され感動できる!
百聞は一見にしかず!

というわけで、この冬、韓国旅行の予定がある方は、1回しか観ていない私がいうのも何なのだが、ぜひとも一度劇場に足を運んで韓国ミュージカルのパワーを肌で感じていただきたい!

ブルースクエア劇場入口

文・撮影:彩川結希

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この記事を書いた人

大手出版社にて、雑誌編集・動画制作などに携わる傍ら、演劇活動・音楽活動にも励む。社会人劇団にも所属していたが、体力に限界を感じ、現在はフリーで活動中。

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