2020年3月8日(日)16時から、ミュージカル回想録『HUNDRED DAYS』のライブ生配信が行われた。本来であればこの日、中野ザ・ポケット公演の千秋楽だったわけだが、新型コロナウイルスの関係で中心になってしまった。これを受けて本作の原作者であるベンソンズ夫妻が、日本の観客のために生配信を許可してくれたというのだ。中野ザ・ポケット公演を観劇予定だった私にとっては、涙が出るほどありがたいニュースだった。
藤岡正明と木村花代、ミュージカル界の実力派が主演ということで、この作品への期待は高まった。以前、井上芳雄のラジオ番組に出演した藤岡が、本作品について「ちょっと変わった舞台になりそうなんですよね」と語っていたように、ライブを観ている感覚で物語が進んでいくちょっと珍しい形式のミュージカルだ。つまり舞台上にバンドメンバーがずらりと並び、藤岡と木村はボーカルとしての立ち位置にいて、正面の観客に向けてセリフを言うのだ。まさに、『THE BENGSONG JAPAN 』のライブを1時間半聴いているような感覚になる。
まずロックな木村花代に驚いた。私の中では劇団四季時代の『オペラ座の怪人』クリスティーヌや『美女と野獣』のベルのイメージが強かったので、こんなにかっこいい歌い方をする人なのかと感動。木村が演じるアビゲイルは心に深い闇を抱えているのだが、その闇の中でもがくかのようなシャウトに背筋がブルッときた。
そして藤岡は、歌はもちろんのことギターが素晴らしい! ミュージシャンである藤岡に「ギターが上手い!」というのは失礼かもしれないけれど、舞台で歌っているところしか観たことがない私にとっては、ものすごく新鮮だった。藤岡のギターで木村が歌う…かなりぜいたくなコラボだ。また、藤岡が演じるショーンのかっこいいこと! アビゲイルを包み込み、守る姿にキュンとする。
そして全編を通して音楽が良い。せりふがあるものの1時間半歌いっぱなしの二人なのだが、耳に残る印象的な曲ばかりだ。これはぜひCD化してほしいと強く思った。
ライブ形式の舞台とはいえ、ネット生配信というのはミュージカル界で初の試みではないかと思うが、今後もどんどんチャレンジしてほしいと感じた。なんといっても出演者の表情をアップで観ることができ、最前列に座っている気分を味わえるのだ。もちろん舞台は生がいいに決まっている。でもいろいろな事情で劇場へ行けない人もたくさんいるわけだから、こういうシステムが浸透してくれると、舞台ファンにとっては心強い。ラストで二人が歌う「キープ・ウォーキング」で、今の憂鬱な気分が少しだけ軽くなったから、今回の取り組みは大成功だったと感じた。
文:咲田真菜