ミュージカル『マリー・キュリー』ゲネプロレポート(昆 夏美・松下優也・鈴木瑛美子・水田航生Ver.)

2025年10月25日(土)~11月9日(日) 天王洲 銀河劇場で、ミュージカル『マリー・キュリー』が上演中だ。

本作は、男性科学者しかいない時代にノーベル賞を2度受賞したマリー・キュリーが、生涯で関わった人々との愛、友情、苦悩、そして揺るぎない信念を描いた韓国ミュージカルの傑作だ。Fact(歴史的事実)とFiction(虚構)を織り交ぜたファクション・ミュージカルとして2023年に日本で初演され、繊細な人間描写と心に響く楽曲が大きな反響を呼んだ。

【STORY】
19世紀末、マリーは、大学進学のためパリ行きの列車に乗っていた。
そこで出会ったアンヌと希望に胸を躍らせ、当時、少なかった女性科学者として、研究者のピエール・キュリーと共に新しい元素ラジウムを発見し、ノーベル賞を受賞する。
ところが、ミステリアスな男・ルーベンが経営するラジウム工場では、体調を崩す工員が出てきて…。

初日を前にゲネプロ(昆 夏美・松下優也・鈴木瑛美子・水田航生Ver.)が行われ、その模様を取材したのでレポートする。(内容にふれている箇所があるので、これから観劇する方は注意してください)

昆 夏美、能條愛未(撮影:咲田真菜)

物語は、マリー(昆 夏美)の命が尽きようとしている場面から始まる。病室で娘のイレーヌ(能條愛未)とやり取りするマリーは、これまで自分が歩んできた人生を振り返ろうとしている。

昆 夏美、鈴木瑛美子(撮影:咲田真菜)

時は遡り、マリーはソルボンヌ大学進学のためにパリ行きの列車に乗っている。そこでアンヌ(鈴木瑛美子)と運命的な出会いを果たす。いわゆる「科学オタク」のマリーは、最初上手くアンヌとコミュニケーションが取れなかったが、快活なアンヌによって次第に心を通わせるようになる。お互いにポーランド出身ということもあり、パリで成功することを誓い合う。

マリーを演じる昆は、女性というだけで不当な扱いを受けながらも、たくましく生きる姿を見せてくれる。「ミス・ポーランド」というありがたくないニックネームで呼ぶ男子生徒を蹴散らし、自らを信じて実験に邁進する姿は、筆者が幼い頃読んだ伝記のマリー・キュリーそのもの。そしてソロで歌うシーンは、相変わらずパワフルな歌唱で聞かせてくれた。

昆 夏美(撮影:咲田真菜)

そんな彼女の目の前に現れたのが、ピエール(松下優也)だ。マリーの優秀さと科学に向き合うひたむきさにひかれ、公私ともにパートナーとなる。

松下優也(撮影:咲田真菜)

ピエールを演じる松下は、マリーを温かく包み込む大人の男性を重厚に演じた。今回の役は松下にとって大きな挑戦になるのでは…と思っていたが、素晴らしいピエール像を作り上げた。歌だけでなく演技でここまで魅せてくれるとは…と個人的にとても感動した。初日前の会見で「初めてのヒゲ」と言い、昆が「お似合いです!」と返していたが、これもなかなかしっくりきている。

この物語が「Fact(歴史的事実)とFiction(虚構)を織り交ぜたファクション・ミュージカル」と銘打っているのは、マリーとピエールの功績が忠実に描かれている一方で、他国で実際に起きた惨劇を織り交ぜているからだ。1920年代初頭のアメリカで、ラジウム・ガールズと呼ばれる大きな社会問題が起きた。ラジウムを含有する塗料を塗る工場で放射線中毒の被害にあった人々をこのように呼んだのだが、恐らくこの事件をモチーフにして物語が作られたのだろう。もしマリーがこの事件に関わっていたなら…というFictionが上手く組み込まれている。

ラジウムに明るい未来を見出した人々が浮かれる一方で、ラジウムを利用して金儲けをしようとするルーベン(水田航生)に利用される工員たち。その中にアンヌがいた。

中央:水田航生、鈴木瑛美子(撮影:咲田真菜)

工場で仲間たちに恵まれ、楽しく働くアンヌだったが、原因不明の病で仲間たちが倒れていくことに不信感を抱くようになる。アンヌは、仕事で使っているラジウムが体に害を与えていることに気付くのだが、親友のマリーのことを想い、心が乱れる。自分の体もラジウムに侵されていると知ったアンヌは、自分の死後、解剖して真実を明らかにしてほしいと訴える。

鈴木瑛美子(撮影:咲田真菜)

アンヌを演じた鈴木は、実在の人物ではないため役作りに苦労したと思う。しかし力強く、優しく、信じた道を突き進む女性を好演。力強い歌声が、アンヌの覚悟を思わせ涙がこぼれた。

水田航生(撮影:咲田真菜)

いつの時代もいるのが、ルーベンのような人間だ。人当たりはいいのだが腹黒い人物を、水田は飄々と演じた。ダンスシーンが多い点にも注目したい。

自身が発見したラジウムで、かけがえのない友人であるアンヌを傷つけ苦しむマリー。一時は心がすれ違うものの、2人の友情は壊れることはなかった。2人がお互いを大切に思う深い友情に心が温まる。

昆 夏美、松下優也(撮影:咲田真菜)

そして、ピエールのマリーに対する献身的な愛も生涯続いた。ピエールの愛の深さがどれほどのものか、物語の後半は涙がこぼれて仕方がなかった。

演出の鈴木は本作を「愛の物語」と語っていたが、まさにそのとおりだと思う。何かを成し遂げようとするには、さまざまな弊害がつきものだ。それはマリーも例外ではなかったが、ピエールやアンヌのような人物に出会い、愛情をたっぷり受けて生きたマリーは幸せな人だったのだろうと思う。

ゲネプロを見終わり、星風まどか・葛山信吾・石田ニコル・雷太Ver.も観なくては…と強く思った。きっと全く違う雰囲気に仕上がっているに違いない。東京公演は11月9日(日) まで、その後11月28日(金)~11月30日(日) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて上演予定だ。

(撮影:咲田真菜)

ゲネプロに先立ち、囲み会見で初日を迎える心境をキャストが語った。

昆夏美(撮影:咲田真菜)

昆夏美:初日を迎えるということでとても緊張感のある朝を迎えております。稽古で必死に自分と向き合ってきたことを信じて、カンパニーの皆さんを信じて、素敵な公演を毎日務められるように頑張っていきたいと思っております。よろしくお願いします。

星風まどか(撮影:咲田真菜)

星風まどか:私は期待と不安、あとは闘志、そういったものが大きく渦巻いている状態です。この作品の中に生きるマリー・キュリーさんの魂、そして作品が持つ心みたいなものをお客様にお届けできるように、演出の鈴木裕美さんの教えを胸に、共演者の皆さまを信じて調和し、化学反応に背中を押していただきながら初日に挑みたいと思っております。よろしくお願いします。

松下優也(撮影:咲田真菜)

松下優也:はい! お初にお目にかかります! ひげつきの松下優也です(一同笑)。ようやくマリー・キュリーが開幕ということで、個人的には一つ前の作品でパワフルなドラァグクイーンの役をやらせてもらっていました。今回は物理学者の男性ということで間に合うのかなと思っていたんですが、演出の裕美さんそしてマリ―役の昆さんをはじめ、カンパニーの皆さんに導いてもらいながら…(力強く)間に合いそうです! よろしくお願いします。

葛山信吾(撮影:咲田真菜)

葛山信吾:僕たちは明日初日ということで、まだ本当の緊張感は持っていないのかもしれませんが、逆にいろんなプレッシャーがきてまして余計なことをいろいろ考えている現状であります。この2ヶ月間みんなで稽古して、演出の鈴木裕美さんの指導のもと頑張ってきました。それを信じて最後の最後まで、どんどん変化を楽しみたいなと思っております。よろしくお願いします。

鈴木瑛美子(撮影:咲田真菜)

鈴木瑛美子:稽古からカンパニー全体でたくさん話し合ってきて、マリーとの関係だったりとか一人ひとりのキャラクターだったりとか、そういうことも裕美さんをはじめ、みんなと話してきたので、あとは毎日の体感で新鮮さを感じながら、日々自分自身も楽しんで心からアンヌとして生きられたらいいなと思っています。よろしくお願いします。

石田ニコル(撮影:咲田真菜)

石田ニコル:明日初日ですけれども、ずっとみんなで稽古を頑張ってきましたので、最後まで怪我なくやりきっていきたいと思っております。よろしくお願いします。

水田航生(撮影:咲田真菜)

水田航生:ここ最近で一番緊張しているかもしれません。それはなぜかというと、もっともっと良くなるんじゃないかという探求心が止まらない作品だからです。稽古を通じてそれがずっと続いていて、劇場に入ってそれがある程度固まっていくのかなと思いつつも、それも固まらず「もっとこうしたほうがいいんじゃないか」という思いがずっと渦巻いています。そういった意味でなんだか固まっていない気がしているんですが、それはとてもいい意味です。皆さんが口を揃えて「新鮮さ」と言っていますが、その場で起きていることをしっかりと捉えて、そこで生まれたものを表現するという舞台ならではの感覚をみんなが共通認識として、裕美さんの教えのもと、ここまでこれています。その探求を千秋楽まで止めずに、毎公演集中して臨んでいきたいと思います。よろしくお願いします。

雷太(撮影:咲田真菜)

雷太: 今回ダブルキャストということで、客観的に作品を見ることができましたし、僕自身も皆さんのパフォーマンスで心揺さぶられる瞬間がたくさんありました。全てが 素晴らしい作品に仕上がっていると思いますので、 劇場にお越しいただく皆様に素敵な演劇体験をお届けできたらと思っています。

鈴木裕美(撮影:咲田真菜)

鈴木裕美(演出):充実した長い期間、稽古をやらせていただきました。2つのバージョン、ニュアンスが変わっていると思います。たい焼きに例えるなら、すべてにあんこが入っている状態です。完成度が高くいい作品になっていると思います。どうぞご期待ください!

取材・撮影・文:咲田真菜

ミュージカル『マリー・キュリー』公演概要

脚本: チョン・セウン 作曲: チェ・ジョンユン
演出: 鈴木裕美
翻訳・訳詞: 高橋亜子

【出演】 昆 夏美  星風まどか(Wキャスト)/松下優也  葛山信吾(Wキャスト)/鈴木瑛美子  石田ニコル(Wキャスト)/水田航生  雷太(Wキャスト)ほか

【東京公演】 2025年10月25日(土)~11月9日(日) 天王洲 銀河劇場
【大阪公演】 2025年11月28日(金)~11月30日(日) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ

公式サイト https://mariecurie-musical.jp/
公式X @mariecurie_jp

咲田真菜

国家公務員・一般企業勤務を経てフリーランスのライターになる。高校時代に観た映画『コーラスライン』に衝撃を受け、ミュージカルファンとなり、以来30年以上舞台観劇をしている。最近はストレートプレイも積極的に観劇。さらに第一次韓流ブームから、韓流ドラマを好んで視聴。最近のお気に入りはキム・ドンウク。

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