2025年9月3日(水)東京・新国立劇場 小劇場にて、ルネサンス音楽劇『ハムレット』が開幕した。
若手歌舞伎俳優の片岡千之助がハムレットを演じ、ハムレットの恋人オフィーリア役には、元宝塚歌劇団花組娘役トップスターの花乃まりあ、ハムレットの母であり王妃ガートルード役には、元宝塚歌劇団雪組娘役トップスター朝月希和がキャスティングされた。
オフィーリアの兄レアティーズ役は高田翔、ハムレットの友人ホレイショー役を山本一慶、そしてハムレットの叔父・王クローディアス役を福井晶一が務める。
開幕に先立ち千之助、花乃、朝月、高田、山本、福井が登壇し、コメントを寄せた。
あっという間の稽古期間が過ぎ、とうとう初日が来てしまいました。言葉では表現しきれないんですけど、とにかく幕は開きますので、少しでも多くのお客様に喜んでいただけますように頑張ります。見どころについては、歌舞伎の公演でもよくご質問をいただきますが、皆様に観ていただいて、ここが好きだな、ちょっとした表情やあのセリフ好きとか、本当にいっぱいあると思うんです。どこか特定できるものではないのかなと思っています。少しでも多くの方にあそこが良かった、ここが良かったと観ていただいた後に感想が出てくるようにできたら…。ほかの悲劇とは一味違った魅力がこの作品に宿っているのではないかと僕は信じています。その魅力を、魂を、命のすべてを削る意気込みで臨んで、お客様に少しでも届けられるように頑張ります。
私も殿下の緊張をひしひしと感じて、だいぶ緊張してまいりました、今この瞬間です。本当にたくさんの先輩方が、素敵な役者さんたちが、色々な国で、色々な場所で演じてこられた『ハムレット』ですけれども、このカンパニーでしかできない、ならではのハムレットをお客様にお届けできたら嬉しいなと思っております。心を込めて演じたいと思います。見どころについては、注目して観ていただきたい場面がたくさんありますが、今作はルネサンス音楽劇ということで、この同じステージ上で生演奏で、なかなかふだん現代の私たちにはあまり馴染みがないような楽器の演奏などもありますので、この劇場空間で音楽も一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。
初日を迎えとても緊張しています。これまで1ヶ月間稽古してきたものがどのようにお客様に伝わるのか、とても楽しみでもあり、ちょっと心配な部分もありますが、最後の京都公演まで皆さんが無事で、最後まで突っ走っていけたらと思っております。見どころは、僕個人としては殺陣のシーンが最後にあります。初挑戦の西洋の剣術で、日本の殺陣と西洋の殺陣は違い、臨場感あふれる殺陣となっておりますので注目していただけたらと思っております。
ルネッサンス音楽劇というタイトル通り、当時の音楽も使って『ハムレット』を届けていますので、見て聴いて楽しんでいただけたら。僕が好きなところは、王妃とハムレットの親子のシーンで言葉がすごく面白いなぁと。言い回しや言葉の投げ合いが大好きなシーンです。ほかの皆さんもおっしゃる通り、色々好きなセリフや好きなシーンが、たくさん見つかる作品なので、言葉を一つ一つ丁寧に届けたいと思います。何かを見つけていただけたらと思います。
いよいよ初日を迎えるにあたり、昨日の舞台稽古を終えても、まだちょっと心が張り詰めている、そんな自分を感じました。でも、それだけ感情が揺さぶられるシェイクスピア作品の偉大さを実感しております。ご覧になったお客様が、この感情の揺さぶりを体感していただける、そんなお舞台をお届けできるように、ガートルート役を精一杯努めさせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。本当にこの作品で言葉の力をすごく感じております。生の人間らしさをお客様と共有できるのではと思っていて、それが実際にお客様が入った時にどうなるのか楽しみなところです。私たちもお客様と共に楽しむ余裕が出てきたら、楽しみながら公演ができたらいいなと思います。
まだまだ稽古したいというのが本音で、あと2週間ぐらいあれば、もっともっと上を目指せるのかなと思いますけど、今日が初日ということで、精一杯1ヶ月やってきたことをお届けするだけだと思っています。僕は20代の頃に劇団四季でも『ハムレット』に出演していましたが、まさか自分が20年ぶりくらいにクローディアス役をやるとは思っていませんでした。素敵な王子と、そして素敵なキャストの皆さんと共に素晴らしい作品を多くの方にお届けしたいと思っています。片岡千之助くんのハムレットが爆誕いたします。見どころはそこに尽きると思います。彼の素敵なハムレットの誕生に立ち会えて嬉しく思います。ご期待ください。
今回の『ハムレット』は、舞台上に大きな金の額縁が置かれた象徴的かつシンプルなセットだ。その一番端がオケボックスとなっており、音楽劇を生演奏で盛り上げる。
『ハムレット』のあらすじに関しては、とても分かりやすい。ハムレットは、実に聡明な人物だ。デンマークの王子であり、大学を出ている自立心のある人物として描かれる。彼は、実の父である先王の死を悼み、黒衣で過ごしている。悲しみは、母である王妃が、父の弟であり現在の王であるクローディアスとすぐさま再婚をしたことで、より深くなる。
黒衣の王子と、金糸の豪華な刺繍に、色とりどりの宝石で飾り立てた王夫妻は、まるで他人のようで、家族には見えない。王夫妻はあくまでも鷹揚にハムレットに接するも、ハムレットは拒絶する。そんな中、ハムレットは友人であるホレイショーたちから「前王の亡霊を見た」と教えられ、会いに行く。そして、ハムレットは亡き父が謀殺されたことを、父の亡霊から知らされる。彼は真相を暴くために、狂気を装うことにする……
千之助演じるハムレットは、実に多くの葛藤を抱えている。ハムレットの危うさと千之助本人の葛藤が重なるのか、グイグイと観客の心をひきつける。
黒衣のハムレットに対し、花乃が演じるオフィーリアは、ドレスも装飾品も、そして靴まで純白だ。少女らしい純真さと貞淑さを持つ彼女は、ハムレットが向けてくる好意を信じているものの、父や兄の「身分が違うのだから本気にするな」という言葉におとなしく従う。ハムレットの想い人である、オフィーリアは白く透き通るように美しい。花乃はオフィーリアの可憐さと、少女めいた壊れそうなほどの透明さを繊細に表現した。彼女のどこか水晶を連想させる声は、オフィーリアの最期を際立たせる。
王妃であるガートルードは、ハムレットには痛烈に批判されつつも、息子への愛を失わない女性である。息子の変化に心を痛めているが、彼女自身の生き方はあくまでも王妃としての立場が付き従う。
山本が「みどころ!」とあげていた、ハムレットとの会話劇のシーンは、どちらの言いたいことも理解できることもあり、胸が苦しくなった。また、ガートルードは、オフィーリアを大変可愛がっていたため、息子に次いで心の均衡を崩してしまったオフィーリアをとても気にかける。鏡のような彼女たちは、男性たちの社会とは違うペースで心の交流があったのではないか……そう思えるほど、朝月は優しいまなざしでオフィーリアを見つめる。彼女の本当の姿は、オフィーリアといる時の姿なのではないか、と感じるほど気負わず、愛しそうに微笑んでいた。
先王を暗殺してまで、王位に就き、兄嫁であったガートルードを手に入れたクローディアス。ハムレットとの関係性は「甥」であり「継父」となる。実際、何も知らなければ、とても優しくハムレットやガートルードを守ろうとしている。
彼は、王を目指し、愛した女性を手に入れた。そしてそのことで、ハムレットと徹底的な悲劇に突き進むこととなる。彼自身が単純な悪役ではなく、ある意味でしっかりと状況を見極めることもでき、そして、自分の罪も深く理解している。福井は、鷹揚さと王としての厳格さや威厳、そしてガートルードへの想いや自らの犯した罪への後悔など多面的に演じきる。
復讐がメインテーマの悲劇ということもあり、どうしても場面は重く、それぞれの内心の吐露が続く。その中で、我膳導が演じるポローニアス・墓堀りが、狂言回しとして登場する。アーティストジャパンの舞台ではおなじみの我。彼が出てくると思わず笑ってしまうシーンが多く、作中の癒しとなっていた。冒頭のオフィーリアとレアティーズ兄妹にお小言をいう姿は、本当に愛らしい家族だった。だからこそ、悲劇の結末がよりもの悲しい。
そして山本が演じるハムレットの友人ホレーシオの存在も観客の心をホッとさせる。冷静で誠実、ハムレットと亡霊探しに出かけることからも信頼度が伝わる。そして最後まで物語を語り継ぐ重要な存在として注目したい。
物語は第二部から大きく悲劇に舵を切る。ただ、ハムレットの聡明さから来る悩みや遠回りが、彼自身から様々なものを奪っていく。「狂気に陥った王子」を演じているはずのハムレットが、父の亡霊を見ているシーンは思わず鳥肌が立った。ハムレットの計画が、加速度的に悲劇に向かう様を見守ることしか観客にはできないのだ。
『父の死』というトリガーが、ハムレット、オフィーリア、レアティーズを狂わせていく。レアティーズは序盤の、フランス(当時でも文化の最先端)で学んだ立派な紳士としての姿からの変貌は胸をえぐられた。悲しみや怒りに震え、嘆き、涙する、高田の全身を使った表現に、自然と視線が吸い寄せられる。
生演奏の音楽も、当時実際に流行していた音楽を取り入れている。時には寄り添い、時には絶望に突き落とす演奏も是非ご注目いただきたい。
シェイクスピア劇は17世紀から現在までイギリスをはじめとして、世界中で演じられている。主演の千之助は、その身体を持って伝統と技芸を継いでいく歌舞伎という生業を極める俳優だ。この符号は偶然とはいえ、運命を感じざるを得ない。同じく歴史を連綿と繋ぐふたつの芸術が結びついていた。
『ハムレット』で有名な劇中劇のシーンでは、千之助が出演しているならではの仕掛けもある。千之助、初のシェイクピア作品として、その誕生をぜひ劇場で見届けて欲しい。果たして、ハムレットは復讐を果たせるのか。シェイクスピア四大悲劇と呼ばれるだけの結末をご覧いただきたい。
ルネサンス音楽劇『ハムレット』は9月3日(水)より東京・新国立劇場、小劇場にて。 9月13日(土)より、京都・先斗町歌舞練場にて上演。(上演時間:一幕60分 休憩20分 二幕90分)
作:ウィリアム・シェイクスピア
演出:彌勒忠史
東京公演:2025年9月3日(水)~9日(火)新国立劇場 小劇場
京都公演:2025年9月13日(土)~15日(月祝)先斗町歌舞練場
キャスト:片岡千之助/花乃まりあ、高田翔、山本一慶、朝月希和/福井晶一 ほか
演奏:リュート:高本一郎、リコーダー:織田優子、ヴィオラ・ダ・ガンバ:頼田 麗
料金:S席10,000円 A席8,000円(税込・全席指定)
取り扱い:アーティストジャパン、チケットぴあ、イープラス、ローソンチケット、カンフェティ
お問い合わせ:アーティストジャパン 03-6820-3500 https://artistjapan.co.jp/
公式ホームページ:https://artistjapan.co.jp/hamlet2025/
X:https://x.com/aj_hamlet2025
企画・製作:アーティストジャパン
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